穏やかな日々
カーテンの隙間から朝日が差し込む。視線を感じて起きると金髪碧眼の美形の顔がこちらを見ていた。
「おはようリン」
「おはようラル」
凛が久しぶりに泣いた日を境に、ラルクは過保護になり、夜は一緒のベットで寝るようになって2週間ほどたった。
ラルクが凛の住居で寝るのは警備上良くないと言うことで、王宮の凛の寝室に連れていかれ、そこで初めてラルクが第三王子という事を知った。
本来は身元不明で、婚約前の女性である凛が第三王子の住居で一緒に過ごす事は異常だが、凛は”ラルクが望むのなら”と気にしないし、ラルクは絶対譲らないと駄々を捏ねたので、仕方なくイリヤが根回しをして、秘密裏に招き入れられていた。
あの日、ラルクから”言いたくない事は言わなくて良いから生い立ちを聞きたい”と言われて、掻い摘んで生い立ちを話した。
ただ、訓練所の訓練内容、お母さんを自分の手で殺した事、戦争の事は話さなかった。
今迄は聞かれた事は全て特に何も思わず話していたが、この時は何故だか話したくなくて話さなかった。
今思うと、汚い部分を見せて嫌われたくないと、人にどう思われるかを初めて意識したのかもしれないと気がついた。
ラルクは”どんなリンでも”と言ってはくれたが、そんな事はないと知識上知っていた。
人は簡単に裏切るし、勝手に期待しては失望して裏切り者と言う。
ラルクが必ずしもそう思うかは分からないが、凛のしてきた事は普通は忌むべき事なのだ。
そして、どうにもラルクは凛を美化しているように見受けられた。
ただラルクが綺麗な凛を望むのであれば、それでも良いとも思っていた。
毎日囁いてくれる愛の言葉に温かい眼差し。
例え偽りの自分であっても、受け入れて貰えると言う事が、昔お母さんとしたひなたぼっこのような温かい気持ちになるという事を知った。
騙しているようで少しの罪悪感はあったが、出来ればこの温かい気持ちを少しでも長く、可能であれば死ぬまで味わいたいと思い、罪悪感は見て見ぬ振りをする事にしたのだ。
凛の過去を知る人物もいない、戦うこともないこの平穏な今の生活で、本来の”ドール”として働いていた姿を知られてしまう要素など無いのだから。
あの日話したことで、凛のラルクへの想いは少し変わった。
ラルクが望む事はしてあげたいし、ラルクの役にたつのであれば何でもしたい、尽くしたいと思っていた。
もしかしたらこれが昔本で読んだ”好き”と呼ばれる感情なのかもしれないと思っている。
最近は昔読んだ心理学の本やお母さんと過ごした日々を思い出して、”人間”っぽくなってきているような気がする。
「どーした、ぼうっとして」
「いえ。特には……」
凛がそう言うとライオネルは凛の額にキスをして起き上がる。
因みに、一緒のベッドで寝てはいるが、相変わらず体の関係はいない。
ライオネルは身支度を整える。普通王子といえば侍従やメイドが多くつくのだが、第三王子は世話されるのが好きではないらしく、最低限の人数しかいない。その為、朝の準備も着替えも基本的には1人で行う。
「そーいえば、イアンが凛と話したがっていた。突然だが、今日の昼食後いいか?」
「大丈夫」
「俺は父上に用があって行けないが、俺の信頼する補佐官で味方だから、心配する事はない。……もし、いじめられたら報告しろよ」
「分かった。お仕事頑張ってね」
身支度を終えたラルクは、凛に応援されご機嫌で部屋を出て行った。
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