生きる目的
何もしていないと、何故か昔の事ばかり思い出して早く死にたくなってくるので、出来る事をやる事にした。
まずはこの世界の常識を身につけること。住居を用意してもらった次の日、文字を教えてもらう事にした。なぜか言葉は通じるが、やはり文字は日本語では無かった。
貴族の屋敷にいた時たまに似たような模様を見たことがあったがそれがこの世界の文字だった。
文字は基本をラルクの乳兄弟というユベルに教えて貰い、言語体系さえ分かれば言語の習得は容易いのですぐに習得した。後は、毎日来てくれるラルクに頼んで図書室の利用資格を得た。
今はラルクが訪れるという時間とご飯と睡眠の時間以外の殆どを図書室で過ごして知識を吸収している。
ーーコンコン。
部屋を移動して2週間たった頃。
自室に用意してくれる夕食を終えて寝る前、予定の時間を少し過ぎた頃、ドアのノックと共に金髪碧眼のラルクがやってきた。
「こんばんはリン」
「こんばんはラル」
他愛のない話の開始だ。
「今日は遅かったね」
「執務が溜まっていてな。俺もベットに腰掛けていいか?」
「……どうぞ」
ここ2週間のリンのラルクへの他人行儀な敬語は薄れていた。
いつもはラルクがベットに腰掛けて良いかなんて聞かれることないのにわざわざ聞いてきて、近くに寄ってくる。
隠しているようだが、いつもよりギラギラしてるこの目を凛は良く知っている。
”欲情”している目だ。
忙しい時やストレス等で溜まるって言うし、ヤリたいのかな? と思った。
「リンは今日何してたんだ?」
「いつも通り図書室で本読んでたよ」
会話が途切れる。
ラルクは地位が高いそうだし、こちらからベットに誘うのを待ってるのかな。
凛が誘いの言葉をかけようかと思った時、ラルクが話出した。
「今日ハッキリ自覚したんだが……」
そう言って、ラルクは凛の手を握る。凛はSEX以外のスキンシップを受けることがあまり無かったから触られて少し驚く。
「俺は……お前が好きだ」
「ありがとうございます。どうぞ、ラルクはベットへお上がりください」
凛は即答すると、服を脱ぎ始める。
「ち、ちょっと待ったー!! 展開早い! とても飛び込みたい気持ちはあるが、展開早いから」
ラルクは慌てて、凛の脱ぎかけの服を着せ直す。
凛は首を傾げつつ、着衣が希望なのか、先に脱がせろアピールなのかと思い、今度はラルクの服を脱がしにかかる。
「ちょ、だからちょっと待ってって」
「はい。」
凛は止まり、ベットに座り直す。
風呂に入るのが先だったのだろうか?
ともかく、ラルクは何かがお気に召さなかったらしい。
「ヤラないのですか?」
「(顔に似合わずストレートだなぁ)あー。今はまだヤラない。取り敢えず話あってからだ」
「かしこまりました」
凛は訳が分からないが取り敢えずラルクの言う事に従う。
「……そーいえば、”ラル”だろ? あと他人行儀な敬語になってるぞ」
「あー。癖ですね」
「癖ね……(癖になる程やってきたのかと思うとリンを触ってきた奴らに嫉妬する)。まぁ難しいなら無理に直さなくてもいい」
「ありがとうございます」
「そう。まずは話がしたい」
「はい」
「俺はお前リンが好きだ。助け出した時の笑顔に一目惚れした」
「ありがとうございます」
「その後も何気ない仕草だったり他愛もない話をしても静かに聞いてくれて、癒されていた」
「はぁ」
「それで、出来ればリンにも同じ気持ちになって欲しい」
「はぁ」
「……今の俺への気持ちを聞かせてくれないか?」
「今の気持ち? ……難しいですね。」
「好きとかじゃなくて構わない今の気持ちを正直に言ってくれたら嬉しい。どんな内容でも罰したりしない」
「正直な気持ち……。ラルへは首輪を取ってくれて感謝しています。やはり思うところはあったので、解放されたんだと嬉しい(?)感じがしました。ただ、出来ればあの時殺してくれれば良かったのになとも思います」
前半の言葉ではラルクの尻尾がパタパタ振られている幻影が見え、後半の言葉ではショボーンとしてる犬耳の幻影が見えた。
「……リンは何故そんなに死にたいんだ?」
「お母さんに自殺はダメと約束させられてますので、約束は守りたいと思ってます」
「……少し質問を変えよう。リンは何故そんなに生きたくないんだ?」
「……。……そうですね。生きるのにちょっと疲れちゃったかな」
無意識なのだろう儚く微笑む凛をラルクは思わず抱き込んだ。
「(その年で、なんて切なく儚い微笑みをするんだろう)……俺と、一緒にこの世界で生きていかないか?」
ラルクは凛を抱きしめていた体を外し、少し離れると顔を見ながら再度話しかける。
「今迄の事は忘れろとは言わないし、無理に忘れる必要は無いと思う。今迄の事は良い事も悪い事も含めて思い出として残しておけばいい。でもリンは今迄のリンの事を知ってる人が誰も居ないこの世界に来たんだ。今迄外せなかった首輪ももう今はない。命令する人も嫌な事を強制する人もいない。自分のやりたい事を自分で選択できる自由があるんだよ。これから俺と一緒に新しい世界で新しいリンとして幸せになろう」
「……こんな私でも、幸せになっても良いのかな」
「勿論! どんなリンでもリンが幸せだと俺も幸せだ。俺はリンと一緒に幸せになりたい」
“凛が楽しければ私も楽しい”、”凛が幸せになってくれることが私の幸せに繋がるの”かつて何度もお母さんに聞いた言葉を凛は思い出した。
そして、本当は殺したく無かったお母さんを上官の命令で殺した時に1すじの涙を溢して以来、泣いたことが無かった凛の瞳からは静かに涙が流れ落ちていた。
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