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解放

 凛が目を覚ますと、今までいた所とは比べものにならない大きい質の良いベットに寝ていた。


「(なんだ。綺麗な天使が現れてやっと逝かせてくれるかと思ったのに。まだ死んでないのか。)」


 ほんやりする頭で、上半身を起こし状況を確認する。

 まだ微熱はあるようだが、火傷の痛み等は無いようだ。それだけではなく、熱以外の死にかけの怠い感じが消えている事に気がついた。


「(治されたのか。余計な事を……。まぁ、いっか。ここの所、酷使してたし、私の場合はもう後1、2年だろう)」


 と、考えていると離れたドアの向こうから近づいてくる人の気配を感じたので、ドアの方を見る。


 ーーガチャッ

 ドアを開けた男と目があった。


 入って来たのは先程見た天使と見間違えた金髪碧眼の男だった。質の良さそうな服を着ていて天使と間違えてしまうのも肯ける美形であり、まるで絵本に出てくるような王子様だと思った。


「あ? もう目覚めたの? 早いなぁ」


 ……口をひらくまでは。喋ると一気に王子様感がなくなった。


 目の前の男はベット脇の椅子に腰をかけると、凛に向かって話しかける。


「俺はラルク。ここの宮廷魔道士長をやってるんだわ。この国の魔道士の中なら頭飛び抜けて1番強いし、そこそこ権力もあるから、安心して。遠征してて帰りにお前を拾ったんだが、俺に保護されるなんてお前ツイてるかもな。で、取り敢えず名前は?」


 目の前の金髪碧眼の男ことラルクは一息で言い切った。こんなに自分に向けて喋る相手が久しぶりだったので、驚いたが質問には答えないとと思い回答する。


「凛」

「リンかぁ。あ、俺の事はラルって呼んで。お前行くところないだろ? しばらくここにいな」

「かしこまりました」

「……。」

「……。」

「ってそれだけ? 質問とかあるんじゃないの?」


 話振りと言葉で目の前の男は普段から命令し慣れている事が分かる。地位が高いのだろう。

 何処だろうが、何だろうが、凛は死ぬまで上官の命令に従うだけである。この場合は、助けてくれたらしい目の前の男の言葉に従うべきだろう。

 そう思い返事をしたのに、ラルクが不思議そうな顔で問いかけてきたので、凛は答える。


「御命令があればどうぞ」

「……。」


 ラルクはため息をついた後、状況説明とお互いの情報交換をしだした。

 情報を纏めると、ここは異世界らしい。たまに異世界のものも落ちてくるが人間が落ちて来たのはラルクが知る限りでは今回が初めてとのこと。

 この世界では生物、植物、無機物でさえ魔力があるが、異世界の物は魔力が無かったり、魔力の質が違う為分かり、凛は魔力がない為異世界のものだと言うことが分かった。今の所落ちてくるだけで、こちらから帰す等はしたことがないから帰れない可能性が高いらしい。

 凛にとっては今更帰りたい場所などないし、どうでも良かったが。


 凛の事については、今まで故郷では戦争に参加していた事、こちらに来て拾われてからは慰み者になっていた事を掻い摘んで話した。


「え? 凛って17歳!? もう成人超えてるの?」

「……こちらの成人年齢が分かりませんが、今17ですが今年18になります」

「この国の成人は16だね。じゃー、凛のこと抱けちゃうのか」

「お望みであればどうぞ」


 ラルクの言葉を受けて、淡々と凛は胸元のボタンを外し出す。


「い、いや。冗談だから!」

「……そうですか」


 凛はボタンを外す作業をやめた。凛としては、全く望んでいなかったとはいえ一応助けてくれたようなので、身一つしかない今の状況、自分の体がお礼になるのであれば、別に使ってもらって構わないと思っていた。



「それにしてもこの首元のアクセサリーはリンにはあまり似合わないね」


 ラルクは胸元の空いた凛の首元にある黒い輪を指す。


「アクセサリー? これは首輪です。命令を聞かせる為の首輪ですね」

「こっちで言うところの”隷属の首輪”と同じかな? どんな風な仕組みになってるの?」

「命令違反だったり、上官の気分次第で、首側に針が埋まっているので、その針からその罰に相応しい毒だったり麻薬だったり媚薬だったりが出ます」

 凛はあまり反抗的では無かった為、毒を使われる事は殆どなかった。


「……うん。なんか色々突っ込みたいけど凄いね。どーして外さないの?」

「外さないのではなく外せないのです。特殊な1対の電子錠で開けないと外せ「”ゴトッ”」……無かったんですけどね」


 凛はラルクを見る。ラルクは何処か得意気に”この国1番の宮廷魔道士ですから”と言いながら、ふんふん鼻を鳴らしている。


 物心付いた時には既にしていた首輪。何処か”飼われている”と言う思いがしていた首輪がいとも簡単に外せるなんて、何だか拍子抜けして、なんとも言えない解放感があった。


「……私は何をしたら良いですか?」

「何したい?」


 質問を質問で返された。そして、”何をしたい”か聞かれたのは里親との対話以来で何だか新鮮だ。

 生まれた研究所でも訓練所でも基地でも全て命令されるのが当たり前で凛の希望なんて聞かれた事はない。


 自分が何をしたいか。


 1番は早くこの世から解放されて楽になりたいから、放っておいて欲しいのだが、ここに連れてきている辺り、監視なのかお人好しなのか、死ぬ事は難しいだろう。


 では、残り僅かな寿命で出来る事。


 そう、凛は自分の寿命がそんなに長くない事が分かっている。遺伝子操作で生まれた人間は20歳前後が最盛期でその後から急激に衰えるのだ。酷使しているからか原因は不明だが記録上でも最高年齢が28歳だった。

 まして、凛みたいに何かしらの能力が備わっている場合、20歳を超えることが殆どない。

 その人間ではあり得ない能力は寿命を糧に使用出来るのではないかという俗説がある位だ。

 テレパスの同僚は16歳で死んだし、超聴覚を持った同僚は戦争で毎日のように使っていたら19歳で死んだ。凛も今は17歳だが、半年もせず18歳になる。


 長くもって1、2年。

 急に降ってわいた自由。


 ……特にやりたい事はない。


 それであれば、願っては無かったけど助けてくれて、少しの解放感を味合わせてくれたラルクの為に残りの寿命を使っても良いかなと思った。


「……ラルクのお役に立ちたいです」

「ん? 別に俺に何かしなくても、自立できるようになるまで捨てないぞ?」

「いえ、特にやる事ないですし、せっかく助けていただいたようなので(?)お側にお仕えしたいと思います」


 ラルクは何故そこで首を傾げる? とちょっと心配になる。隷属の首輪もどきを外した時も反応が薄かったし、貴族の屋敷から助ける時も殺して欲しいとか言っていたし。

 異世界から来た事は分かっているし、拾った責任は取るつもりだからどんな回答でも自立出来るようにサポートする前提ではあったのだが、言うことを聞かないと捨てられるとでも勘違いしているのだろうかと不安になる。


 凛としては首輪が外れた事も嬉しいと感じていたのだが、全く表情に現れていない為、ラルクには通じていなかった。


「……ってリンは何が出来るんだ?」

「……護衛?」

「……お前魔力ないだろ? (それにそんな華奢な体なら使い捨ての肉壁にしかならないだろう)」

「魔力はないですが、ある程度肉弾戦なら。」

「(やはり肉壁希望か)いや、俺より弱いやつはいらない」

「そうですか。。。」


 ラルクは凛の小柄な見た目から戦争に参加してると言っても綺麗な女の子だし、上官の雑用係辺りだろう思っていた。


 凛は凛で日本では対人戦のエキスパートだったが、この魔法のある世界の住人がどれだけ頑丈なのか等知らない為、自分の技術が通用しない可能性も高いと判断し、強く言えなかった。


「一応IQが218あります」

「”アイキュー”って何だ?」

「……頭の良さですかね。割と頭が良い方だと言われています」

「……うーん。補佐官がいるからなぁ。それにこの国の事とか常識とか知らないだろ?」

「……確かに。。」


 ラルクがIQの意味を知らなければ、他に頭の良さなど表現のしようがないし、この世界の知識がないのも確かなのだ。


「では、性欲処理……」

「(とても魅力的な提案だが、サポートすると言った手前ここは肯けない)いや、女の子が自らそのような事を言うものじゃないよ。……じゃ、取り敢えず話し相手係だな。リンの世界の事がこちらで活かせるかもしれないし」

「……はい。よろしくお願いします」


 こうして、凛はラルクの話し相手係になった。

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