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接吻

 ーーさらっ、さらっ


 髪の毛をすかれている感触に、ゆっくり意識が覚醒しだす。

 2日前から、起きていられる時間が極端に減った。吐く息も熱いし、全身が重く、動かすのが辛い。目蓋を開けたいのだが開かない。



 私はもうすぐ逝くのだろう。



 やっと人生が終わる事に安堵する。



 本当の解放が近付いてる事が分かり自然と笑みがこぼれた。




 けど、、、


 ラルクの悲しげな表情を見ると、もうちょっとそばに居たかったとも思うようになった。


 これが……“未練”。



 死は凛の唯一の救いだった。


 あんなに早く死にたかったのに……


 今は少しでも生きている時間を大切にしたいと思うなんて。


 人間の心は複雑だなぁと思う。



 ーーさらっ、さらっ


 私が誰かに寿命を見届けられる“ドール”になるなんて、何て幸せなんだろう。


 戦場以外のベットで穏やかに死ねる“ドール”なんて、あの寿命で死んだと記録された“ドール”以来じゃないだろうか。


 意識がまた闇に吸い込まれそうになる。



 ーーさらっ、さらっ


 そうだ、まだもうちょっと。


 ラルクに感謝を伝えなければ。


 凛は重い目蓋をゆっくり開ける。


 目の前には、その綺麗な瞳で凛をじっと見つめるラルク。

 

「起きたか。水飲もうな」


 ラルクはそう言うと、ベット脇に置いてあった水さしからコップに水を入れると、凛の上半身を抱き抱え、水をゆっくり飲ます。


「ぁ、ありがと」

「どういたしまして……。リンこんな時にあれだが……キスがしたい」


 実はまだ唇へのキスもまだなとても清い関係だったのだ。

 唇へのキスをしたら、もう止められなさそうだから、元気になるまではしないと言ってたのに、今は真剣な眼差しで、わざわざ許可を取ろうと確認してくるものだから笑いがこみ上げてくる。


 死にかけの体だけど“ドール”で良かったなんて思う事は初めてかもしれない。


 “ドール”は死ぬまで体が頑丈だ。栄養が足りていなくても、死に近付くだけで痩せる事はないし、たとえ何ヶ月寝たきりであろうと、リハビリなんてせずすぐに動かせる。

 栄養が体にまわらなくなっている今、普通の人間であれば今頃ガリガリになっている筈で、そんなガリガリの死にかけとキスをするなんてトラウマになってしまうだろう。

 だけど、そうならない”ドール”の体で良かった。


 最近は気を使わせてばっかりだったから、ラルクの要求が素直に嬉しい。


「うん。いいよ」


 重い体を動かし起きようとする。

 と、ラルクが慌てて止める。


「そのままでいいから。ちょっと熱くなるかもだけど大丈夫だから」

「うん? 分かった」


 ラルクはそのまま覆い被さり、キスをしてくる。今までの軽い口付けではなく、口内にも入る深いものだ。

 こんな激しいキスは人生でも初めてじゃないだろうか。

 ラルクは片手を凛の胸元に当てながら、何度も何度も貪るようなキスをしてきて擽ったくなる。


 溜まった唾液を飲み込むとカッと体が熱くなった。



 幸せ。



 ただのキスがこんなにも幸せを感じられる行為だと初めて知った。


 ラルクと過ごした時間、色々な事を知った。

 

 悲しい、辛い事も知った。


 でも、幸せも知った。


 自分ばかりがこんなに幸せで良いんだろうか。


 自分が居なくなることで、お母さんがいなくなった後の自分と同じ思いをラルクにさせてしまう事に今更気がついた。


「リン、愛してる、愛してるんだ。一緒に生きよう」

「私も……、幸せだね……、ちょっと、やす、む、ね……」

 目蓋が重くなる。でも、最後までラルクを見ていたい。

「あぁ。リンは少し寝てな」

 微笑みながら言うラルク。でもその瞳は悲しみに満ちていた。


「ぅん、、(悲しませてごめんね)だい、す、き」

 少しでも喜んでほしくて、幸せで凛は心からの笑みを浮かべる。


「くっ、、、愛してる、愛してるんだ」

 もう、表情は見えないけど、嗚咽のようなくぐもった声がラルクから聞こえた。



 体は限界を迎えていて、次目覚めるかは分からないけど、


 

 ラルクの幸せを切に願う。




 凛の意識は急速に闇へと飲み込まれた。


 ーーそこにはリンの意識がなくなっても、泣きながら口付けるラルクがいて、誰かが見ていたらラルクが狂ってしまったのではないかと思うようなただ悲しみに満ちた獣がいた。



♢♢♢



 ラルクは凛が寝たあとも意識のない体に何度も口付けをして、凛を抱きしめながら昼まで寝た。


 ラルクが起きて、凛を確認すると、高熱を出していた。


 夜になっても一度も起きなかった為、宮廷医にも診てもらうと昏睡状態に入っているのだと言われた。


 宮廷医が退室した後、ラルクは動かない凛を胸に抱きながら何度も口付けをおくっていた。



♢♢♢



 次の日、ラルクが執務室に行くと、心配した顔をしたユベルとイリヤに迎えられた。

「この間より酷い顔をしてますよ。寝てないんですか?」

「寝てはいるが……」

 実際、自分の知らない間に凛が息を引き取ってしまうのではないかと心配で、寝ても1時間もしないうちに目が覚め、凛がまだ生きてる事を確認して、眠りにつくという事を繰り返している。


「昏睡状態に入ったと聞きました。仕事も手につかないでしょうから暫く休んでいて良いですよ。私達ができることはやっておきますので」

「そうか。……悪いな。頼む」

 ラルクは暗い顔のまま、執務室を出て行った。



「ラルク様はリンちゃんの死を乗り越えられますかね」

 ユベルは誰にともなく呟く。

 ユベルとイリヤから見る最近のラルクは、凛が死んだら自分も後を追いそうな危うい雰囲気が漂っていた。

「ラルク様はまだまだこの国に必要な方だ。乗り越えていただかないと……」

 ユベルが心配気に呟いた。



♢♢♢



 自室に戻ったラルクは凛のそばに行く。

 相変わらず高熱を出し続けている。

 結局あれから一度も目覚める事は無かった。


 夜になるとまた泣きながら口付けをおくった。まるで何かに取り憑かれているように。

「リン、愛してる、まだこの世界で一緒に生きよう……俺を置いて逝くな」

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