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寿命

 凛が思っているのと同じように、ラルクもこの1ヶ月本当に幸せだった。


 実は凛がたまにじっと座り込んだりしているのは見た事があったが、凛自身が心配かけないように隠しているようだったので、見て見ぬ振りをしていた。


 それがこの間はとうとう隠しきれなかったようで執務室で倒れた。


 毎日こっそり回復魔法をかけているが、最近急激にかかりが悪くなった。


 ーーもういよいよ別れの時間が迫っているかとでも言うように。


 認めたくない。

 せっかく心が繋がったようなのに。

 

 何が龍人の血が流れているだ。

 何も役にたたないじゃないか。

 俺は龍人の血が割と濃いらしく、魔力量が人より多いし、生命力も強い。どの種類の回復魔法も得意だ。

 だが、凛の症状は全く分からない。異世界特有の病なのか。。。



 龍人はかつて番と呼ばれる伴侶がいてお互いその1人だけを愛し続けたという。そして、愛した者を事故等で失うと気が狂ってしまう者も多数いたという。


 今なら理解出来る気がした。


 凛が現れるまで、恋などしたことがなかったし、そもそも恋愛に興味が無かった。

 それが凛が現れてから世界が変わった。凛と過ごす世界は輝いて見えたのだ。


 そんな凛が失われようとしているなんて狂ってしまいそうだ。


 ……俺は諦めない。


 まだ凛と会って1年も経って無いのだ、お互い離れていた期間もある。まだまだ一緒に過ごしたい。


 凛は平気そうにしてるが、体は平気では無いのだろう、日々寝てる時間が増えている。

 俺は凛の寝ている時間を利用して、あらゆる病気について調べている。早くしないと逝ってしまいそうだから。


 最近凛の眼差しが申し訳なさと諦めを抱いているように見える。気を使う凛だから申し訳なさは分かるが、諦めはなぜなのか?

 まさか凛はこうなる事が分かっていたのだろうか? 


 そして、今日は体を繋げないかと誘ってきた。


 平常時であれば乗りたいくらいだが、今は少しでも体力を温存してほしい。少しでも時間を稼ぎたいのだ。



 ーー凛の熱が出始めて2週間が経過した頃。


 凛の起きている時間が極端に減ってきた。日中は細切れで4時間位しか起きていられないようだ。

 容態が急変してしまわないか怖くて、良くないとは分かっていても、また執務室に連れてソファで寝させるようになった。


 絶望がひしひしと伝わる中でも仕事はしなくてはいけない。

 今日も無言で執務を行なっていると、イリヤが話しかけてきた。


「ラルク様酷い顔をしていますよ。寝る時間を削って調べ物をしているとうかがいました。少しお休みになられないと、リンちゃんが心配しますよ」

 

 暫く無言だったが、寝ている凛をチラッと見た後、ラルクはポツリと呟く。

「……ダメだ。このままではもう逝ってしまうんだ」

 今まで堪えていた弱音をイリヤに吐く。


 凛は熱がある事と起きている時間が少ない事を除けば、顔色が悪い訳でも痩せ細ってきている訳でもない為、見た目は健康そのものなのだ。


「やはりリンちゃんの言う通りラルク様はご存知だったんですね」

「リンは自分が弱っている事を知っていたのだな……」

 少し驚きつつも、凛の諦めたような目は知っていたからかと分かった。

「リンちゃんは逆にラルク様が寿命を感じ取っている事に驚いていましたよ」

「…………寿命!? どう言う事だ? まだ17歳だろう? 詳しく話せイリヤ!」

 想定外の事を言われ、ラルクはイリヤに詰め寄った。

「あれ? そこ辺りはご存知無かったのですね。これはリンちゃんから聞いた話なのですが……」


 興奮して聞いてくるラルクに、イリヤは以前凛から聞いた”ドール”の体質や特殊能力、寿命について話していた。


「寿命……。(本当に寿命なら何とかなるかもしれない)明日の執務は休む! 2人でなんとかしてくれ。今日も最低限終わったらあがる! いいな」


 ラルクは有無を言わせず、手元にある書類を終わらせると、凛を抱き抱え自室に戻って行った。


 ユベルとイリヤは何だか良く分からないが、ラルクの憂いを少しでも晴らせるようなら良かったと思った。

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