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会合

 ーーコンコン。


「どうぞ」

 イリヤは自室への来客に確認もせず答える。


「お久しぶりです」

 現れたのは1週間振りの凛だった。


「いらっしゃい。お茶を用意してあるのでどうぞ」

 凛は無表情だが、荒ぶってはないようで、イリヤは何故かホッとした。

 イリヤは凛が座ると早速話し出す。


「本題に入りたいのですが、その前に、西の侯爵の突然の交代劇、リンちゃんでしょう?」

「はい。後顧の憂を断つためにも、動機が知りたかったですし、ラルを傷付けておいて、自分だけ安全圏とか許せる訳ないですよね。ちゃんと意識はあるので大丈夫だと思いますよ。あと、護衛騎士4名のうち3名は前回即死させちゃいましたが、1名は色々悔やんで貰ってからお亡くなりいただきました。」


 紅茶を飲みながらサラッという言葉にイリヤは呆れる。“鬼上司”モードを知る前であったら、十分驚いたのだろうが、凛ならやりかねないとあの短い期間で身に染みて理解していた。


 凛が尋問の末聞いた動機は、龍人族の血を強く引くラルクを自分の娘と結婚させ、龍人族の血を一族に入れたかった為であり、ちょうど恨みを持っていた者達をけしかけ暴行を加えさせていた。

 長期間の暴行の末助けられ、娘に看病されれば、惚れてしまうだろう。そうではなく暴行で最悪心が壊れても子種さえあれば子は出来るから、侯爵としてはどちらでも構わなかったそうだ。


「あー。報告ありがとうございます。じゃ本題に入りたいと思いますが、周りくどく言うのも何なので、ここはお互い誤魔化さずに言いましょう。必要だと思えば私もあなたのラルク様への誤魔化しに付き合いますので」

「……そうですね。良いでしょう」

「ありがとうございます。では何故頑なに、ラルク様に会われないと決めているのですか?」

「ラルは綺麗な私を好いているから、このままラルの中で綺麗なままでいられたらなと思っています」

「今のラルク様でしたら、どんなあなたでも受け入れると思いますよ」

「そうだったら良いですけど……。それだと余計に悲しませる事になってしまうのでやはり合わないようにしたいと思います」

「悲しませる? とは?」

「私が居なくなるからです」

「居なくなるって……」

「死にます」


 ガタガタッ。思わずイリヤは凛の手を掴み睨みつけたまま話す。

「自殺するんですか?」

 凛はそっとイリヤに掴まれた手を外して、座るように仕向ける。

「いいえ。寿命です」

「寿命!?」

「はい」

 と、凛が答えると、自分の世界での”ドール”の位置づけや特殊能力、平均年齢、寿命の事などを語った。


「……そんな事が……、後どれくらいなんですか?」

「あと2ヶ月ない位ですかね」


 イリヤは手で口を押さえる。せっかく目覚めたのに、せっかくすれ違いを解せる機会が巡ってきたのにと歪んだ表情を浮かべる。


「最近ラルは片時も私を離さなくなったでしょう? 何でか分からないのですが、勘付いているみたいなんですよね。私の体だけでも残せたらよかったのですが、私も一応人間なので、生命活動をやめたら腐りますし。そういう魔法的なのはないですよね?」

「ないですね……。」

「なので、元から最後の方は自分から消えようかと思ってたので、今回ちょうど良い機会かと思いました。なんかラルの心が危うそうだったので、別の場所で元気に生きてる体にしようかと。この間渡した手紙も旅に出ると書いてますので」

「それは……。死ぬまでの間はどうするんですか?」

「ラルの見えない所でラルの側に居ようかと思います。どうにもこの世界の人達は詰めが甘いような気がして、私は天井裏でも隠し部屋でも潜めますから。あ、将来ラルの邪魔になりそうなのがいれば消しときますよ?」

「ははは」

 本気で言っているのが分かる為、イリヤからは乾いた笑みが溢れる。


 お互い無言で紅茶を飲む。


「それでもやはり、例え2ヶ月であってもラルク様の前に現れて欲しいと私は思います。今もすぐにでも探したいと言っていますし、それこそ、あなたの死体を見ない限り探し続けそうで」

「そうですか……。確かにそれは少しだけ可能性としては感じましたが……、それであれば次のステージへ行く為にも確かに私の死を認識して貰うのは大事かもしれませんね」

 凛は悩み出す。どれがラルクにとって1番良いのか。イリヤがそう言うのであれば、恐らく手紙を全て読んだ上でも、探したいと言ってくれているのだろう。

 もしかしたら優しいラルクの事だから寿命の事も気になっているのかもしれない。

 1度会って綺麗に別れられるのであれば会うのも手かもしれないが、ラルクが凛に会わずとも平穏に暮していけるようであればこのまま会わない方がお互い深い傷を負わずに良いのではないだろうかと思っていた。

 凛としてもラルクの為になる事はしてあげたいが、また怯えた視線を向けられるのでは無いかと思うと怖いのだ。


「うーん。そうしたら、しばらく私も見えない所からラルを観察して判断しても良いですか? 判断を下す時にはまたこちらに来ますという事でどうでしょう?」

「そうですね。一旦そうしましょうか。ただ、拠点は無いと大変でしょう。ラルク様に見つからない住居を用意しますので、それまではこの部屋で暫く過ごしませんか?」

「……ただ飯食らいが良いのでしょうか?」

「それは忘れてください。今回のラルク様の救出貢献で一生分のお仕事はしてくださいましたので何も問題ないです」

「ありがとうございます。……それでは短い期間ですし、お言葉に甘えさせていただこうかな」

「とりあえず私も今日は午後休暇を取ってますので、のんびり過ごしましょう。とりあえず荷物を奥に運んでそれから今後の事も含めたお茶会の続きをしましょうか」

「そうですね」

 凛は立って荷物を運ぼうとしてふらつく。すかさずイリヤが近寄ってきて支えるが、凛は体に力が入っていないようだ。

「大丈夫ですか?」

「ええ、タイムリミットが近いようで、たまに目眩等が起きるようになってきたんですよね。でも少し休めば回復しますのでお気になさらずに」

「とりあえず、そちらのソファーへ」


 イリヤは凛をソファーへ横にすると少しでも楽になるようにと、首元を緩める為手を伸ばしボタンを外していた時


 ーーガチャッ。


 凛以外に来客予定等が無かった自室の部屋のドアが空き、勝手に入ってきたラルクとユベルと目が合う。


「「「「……。」」」」


 はたから見たら、イリヤが凛を押し倒して、服を脱がせて事に及ぼうとしているように見える。



 そんな4人の時間が一瞬止まった後、


「リン! ……イリヤ……」


 低い唸り声と共にラルクの視線がイリヤに突き刺さる。



 イリヤはタイミングの悪い男である。


 そして、”なんか、前にもこんなことがあったような?”と冷や汗を流しながら思った。

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