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救出

 凛はまず厨房による。武器は剣等でも良かったが室内などの狭い場所の可能性を考えると、自分の安全の為にも投擲出来るものが良いと思っていたし、下手に自分や王宮に繋がる証拠は残さない方が良い為、忍びこむ屋敷のカトラリーを武器にする事にしたのだ。

 夕食直前だったようで慌ただしく人が入り乱れていた為、堂々と気配を消してナイフをいただいてきた。流石貴族、同じ形のナイフが大量にあり扱いやすそうである。


 以前王宮を隅々まで探索していた効果か、おおまかな作りは一緒だった為、ラルクがいるのは塔か地下に絞った。


 と、地下に複数の気配と、打擲音。


 緊張で自然と体が強張るが冷静になるよう、一呼吸入れると、気配のある方に近づく、途中地下への出入り口に1人見張がいたが手刀で速攻でのした。


 心臓が早鐘を打つようだ。

 これはかつてお母さんを殺しに行った日と同じようだった。

 でも、今回は殺しではなく人助けに行くというのが何とも奇妙な感覚だった。


 凛は人の気配がする部屋に静かに向かう。

 近付くと漏れる打擲音。


 そして、ドアをそっとあける。


 ドアの先の壁際には傷だらけのラルクが吊り下げられていた。


 背中には縦横無尽に傷が付いていた。

 抉れた肌に薄皮が出来そうなちょっと経った傷や、今まさに血を吹き流している傷が。


 あんなに綺麗だったラルクの肌が傷付いている。


 無反応な人形の凛にも関わらず毎日愛を囁き、愛を与えてくれていたラルクが傷ついている。

 

 凛の“愛しい”ラルクが傷ついている。


 と思った瞬間


 目の前が赤くなる。


 凛の進入に気がついた男たちが騒めき始めた時には、男達の眉間にナイフを刺していた。


 ラルクにそっと近付く、吊り下げられていた手を、吊っていた場所から外すと立っていられなかったようでそのまま床に崩れ落ちてしまう。

 “大丈夫”と声をかけようとして、目隠しをされたまま震える体で後退る姿を見たら声をかけられなくなった。


「(ラルは王族、普通の人より守られる存在だもんね。そりゃ怖かったよね。)」

 声は発さず心の中だけで話しかけ、ゆっくり頭を撫でる。

 ガタガタ震えるラルクがここでの日々の辛さを物語っているようだ。



「(頑張ったね。大好きだよ)」

 そっと落ち着かせるように抱きしめる。



「(私もそこに転がっているようなゴミと同じ人種だよ。だから、、、声もかけないし、目隠しは外さない。もう少しだから待っててね)」

 少しだけ強く抱き、抱きあげようとした時、



「リ、リン?」


 一瞬心臓が止まった気がした。


 目隠しを確認するがまだ外れてはいない。

 なら大丈夫と、心に気合を入れると、ラルクを抱きあげる。傷の炎症も心配だし、心の傷も心配だ。

 一刻も早くこんな所を出て安心させてあげたい。



 凛はラルクを抱えたまま、人に見つかりにくくあまり振動を与えないルートを選んで2人の元へ連れて行く。


「「ラルク様!」」


 それまでラルクの強張っていた体から力が抜ける。

 2人の声でやっと安心したようだ。

 ラルクにはこの2人がいるから大丈夫だなと凛は思った。

 ユベルが封魔石の枷を力尽くで壊し、イリヤが眠りの魔法をかけると一旦治癒の回復魔法をかけ始める。ある程度治癒してから、3人は転移陣を使用して王宮へ戻った。



♢♢♢



 王宮へ戻った後、すぐさま宮廷医師によってラルクの治療が開始される。


 凛はラルクが治療されている所を見ながらぼんやり思考する。


 気がつけば凛の寿命もあと2ヵ月前後。これが良い機会だとこの機に姿を消す事にした。

 姿を消しても側で見守る事は出来る。どうもこの世界の住人は凛が気配を消すと、殆どの人が気がつかないのだ。気配の感じ方が違うのかもしれない。


 専門の治癒師が治している間にユベルとイリヤに凛はラルクの前から消える旨を伝える。

 納得していない2人だが、治癒が終わり眠りの魔法を解くというので、一旦話は保留にして凛はラルクの視界に入らない位置に移動し、気配を消した。


 暫くした後、ラルクの無事な声を聞けて凛もホッとした。



 例え今後その綺麗な碧の瞳に凛が映らなくても充分報われた気がした。



 ラルクが再び寝た後、イリヤと話し合ったがいつまでも話の内容が平行線のままだったし、イリヤも徹夜からの緊張の連続で頭が回らず、凛も先に片付けたい事があるので、一度時間を置いてまた話し合う事になった。

 その際、1週間後に必ずイリヤとの話し合いに戻ってくる事を条件に、ラルクがごねてしまった場合に渡す凛からラルクへ宛てた手紙をイリヤは預かった。


 きっと凛が消えた時のようにロクでもない嘘が書かれた手紙なんだろうなと想像出来るだけにイリヤは渡す機会がない事を祈った。




 そして、その夜、再び凛は消えた。

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