起動
ーー時は遡り、ラルクが消息を、経って3日。
凛はユベルとイリヤに世話をされながらこの日も執務室にいた。執務室はラルクの捜索でひっきりなしに人が出入りしている。
と、そこへラルクの護衛騎士の1人が怪我をしながら帰ってきた。
公爵邸を出た後、飛行魔法で帰ろうとしたラルク達に向かって賊が襲ってきた。他の護衛騎士と散り散りになってしまったが賊が自分と同じように殺したと言っていたのを聞いた。
犯人達は自分を殺したつもりだったようだが、うまく急所は避けられて、暫く動けなかったが動けるようになると、馬車の向かった方向は分かっていたので一刻も早く情報を届ける為、犯人を追わず戻ってきたらしい。
犯人達はラルクの拷問方法の話もしていて、丁寧に扱われない可能性がある為、一刻も早く見つけないと危ないかもしれないと一通り報告すると、治療するため退室していった。
場は騒然として、捜索隊を馬車の向かった方に出したり更なる情報を探るべく動き出した。
「(ラルが拷問……。駄目だ……。それにあの護衛の目……。)」
「馬車は東の方へ向かったと言っていた。ここから東というと……」
「次の東の町を一度封鎖するか?」
イリヤとユベルが話す。
「(違う……。もっと初歩から見直す必要がある)」
凛は心の中で語りかける。
「証拠もないし犯人の要求が分からない」
「待った方が良いのか?」
「(無事かどうかが分からない現状、そんな悠長なことしてられるか! )」
凛はラルクを思い心の中で憤る。
「俺たちも東の町へ向かうか?」
「東の町という確証が持てない。絶対にその町に居ると言えない状況で違かった時のリスクが……」
「違う。見るべき所が違う」
ユベルとイリヤが声のした方に振り向くと、いつもはドアの方を向いている凛が、2人の方を向いていた。
凛は久しぶりに体を動かす為少しふらつきながらも、立ち上がるとユベルとイアンの方に近付いていく。
「今すぐ、護衛騎士のフルネームを教えなさい。まずは今ある情報を整理する事からしなければならない筈です。どれが本当でどれが嘘なのか見極めなければ話は進まない」
「リ、リン、ちゃん?」
「え? 口調が変わって……」
「そんな事より今は早く集めてください。ユベル様は護衛騎士のフルネームを教えてください。身辺調査や経歴書があればそれも一緒に。イリヤ様はラルが今まで潰してきた貴族の概要を」
今まで何ヶ月も全く動かなかった凛が、いきなり流暢に喋りだし、その上現在の状況も把握しているようなのだ。そんな混乱してる2人を凛は一瞥すると再度2人に向かって言う。
「早くしてください」
凛の言葉に“そんなことも出来ないのかこの愚図が”という副音声が聞こえた気がしたユベルとイリヤは、疑問だらけで機能停止した頭だか、とりあえず凛の言うことを聞くのだった。
「まずは護衛騎士だが……」
♢♢♢
情報を洗い直した後、帰って来なかった護衛騎士4人は今までラルクが潰した貴族の親戚だったり、何らかの理由でラルクを恨む理由がある家に縁のある者だった。
そして、情報を持ち帰った護衛騎士は夜こっそり出て行こうとしている所を凛に見つかり、尋問の末、賊なんておらず、護衛騎士4人が主犯格でそのうちの1人に脅され協力させられていたことを突き止めた。
現場を混乱させる為にわざと傷つけられ嘘情報を流すように吹き込まれていたのだ。
ただこの騎士は本当の黒幕の情報や実際に何処に連れ去ったのかの情報は持っておらず、暗礁に乗り上げたかと思ったが、凛が残りの4人と共通して又は共通する協力者となり得る貴族を絞っていき、最終的には1家に絞られた。
因みに、「何の為の貴族名鑑だと思ってるんです?」「婿に入ったからと言って縁が切れるとは言わないでしょう?」「領の税収や取引状況を見れば実際の力関係なんて分かりますよね?」「こんなざるな情報だけなんて”身辺調査”という言葉の意味、分かってますか?」等の凛の毒舌の嵐が執務室に舞った。
イリヤとユベルは無表情で淡々とぐうの音も出ない正論を突いてくるこの凛を”鬼上司凛”と名付けたのだった。
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