表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/36

語らぬ平穏

「リンごめんね。俺が悪かったから戻っておいで……リン愛してるよ。また後でね」


 ラルクはいつものように1人凛に語りかけると執務室へ戻って行った。



 凛の熱が下がってから2週間経っていた。


 凛はというと、


「(今日もよくやるなぁー。早く諦めちゃえば良いのに。早く打ち捨ててくれないかなぁ)」


 実は体は全く動かないが、宮廷医師の見解に反して起きている時に話しかけられた事は全部聞こえていた。


 

 自分から貴族の屋敷で雇ってもらうように仕向け、ラルクとの日々で感情が戻りつつあったからか、確かにだんだん精神が壊れていくのを感じていた。

 壊れていくのは救いでそのまま壊れていたかったのに、気が付いたら引き戻されていたのだ。

 凛の自己治癒能力の高さ故か、国1番の魔道士ラルクの回復魔法の影響か。

 凛はまさか心まで回復させられるとは思わなかったのでどちらの影響も相互に働いてしまったような気がするが。


 意識が戻った今、体が頑丈な”ドール”は動かそうと思えばすぐに動き出す事は可能だろう。


 だが、目覚めてからラルクに反応を返すことはしない。


 何故ラルクの言葉が聞こえているのに反応を返さないのか。


 それは、反応する気にならないからだ。

 

 幸せを味わってから、失うという”喪失感”はとても辛い事だと分かった。


 ラルクも今は罪悪感と責任感から面倒を見ているのだろうが、目覚めたらまたポイッと捨てられるのだろう。


 それならば最初からいらない。


 それに、貴族の邸宅での働きは無駄にならず、何となく寿命はあと半年位だと感じる。以前同僚が寿命が1年を切ると残りの寿命を感じるようになると言っていたが、本当にその通りだ。

 あと半年動かなければ人生が終わる。

 ラルクが途中で世話に飽きて、このまま何処かにうち捨ててくれれば、もっと早く逝ける。


 今度こそお母さんの元に逝けるのだ。





 と、思っていたのに。



♢♢♢



 早いもので凛が動かなくなって2ヶ月経った。

 その間ラルクは諦めなかった。


 そんなラルクの事を凛は馬鹿だなぁと思う。

 凛のことなど構わずに早く次へ行けば良いのに。


 ラルクは初めて見たとき天使と見間違える程

キラキラしていて格好良いんだから、こんなただ生きているというだけの“人形”さっさと捨てれば良いのにと。


 それなのに、ラルクはまたここ1ヶ月で新しい試みを始めたのだ。

 何も怪我していないのに毎日回復魔法をかけられることに加えて、今日も真昼間に庭園に連れていかれて強制日向ぼっこ。


「流石に秋も終わりだから冷えはじめてきたなー。でもやっぱり日向はあったかいな。そうそう、冬になると外での日向ぼっこはキツくなるから、リンと過ごせる温室作ろうと思ってるんだよー。植物のなー。」


 ラルクの語りかける言葉は最初は懺悔が多かったが、次第に愛の言葉や日常の他愛もない話が増えた。


 そして、凛は

「(もったいないなぁ。私はそんなに居られないのに。まぁ、温室なら誰かが使うか)」

 決して、声に出すことは無いが、ラルクの言葉に心中で返答をするようになっていた。



 そんなまったりした時間が進む中、誰かが近付いてくる。


「お忙しい中すみません。少し確認したいことがありまして執務室までよろしいでしょうか」

「(この声はイリヤだな)」


「……リンちょっと行ってくるよ。もうちょっとここで日向ぼっこしてて」


「(はいはい。いってらっしゃい)」


  ラルクはイリヤに連れられて離れて行った。

 “時は悲しみを薄れさせる”“前へ進む為に人は忘れる生き物だ”と何かの本で読んだことがあったけど、確かにそうなのかもしれないと凛は思った。

 記憶力が良いから忘れる事は出来ないけど、いつの間にか“感情”を理解して、流暢に思考する事が出来ている。人間とは不思議なものだな。


 ……この2ヶ月ちょっと思考する事しかやる事がなかった影響かもしれないが。



「……だ。……でも、……だから……」

「……とはいえ、……だから」


 何かを話しながら近付いてくる集団がいる。二手に分かれたようで片方の集団が隣の生垣まできていた。

「やはり、“紫瞳の君”に去って貰うのが1番だよな」

「そうだ。数少なくなった龍人の血を引くあの方には高貴な方の子孫を残していただかないと」

「この間、心の広い西の侯爵令嬢様が“紫瞳の君がいても良い“と言ったにも関わらず、婚約を断ったらしいぞ。そんなに”紫瞳の君”が良いのかね。何も喋らず反応もせず、そんな相手に毎日喋りかけてるとか。殿下は人形遊びにでもハマってしまったのかね」

「お前、声が大きいぞ。もうちょっと声を抑えろ」


「(ん? これはもしかして私達の話で、”紫瞳の君“とは私の事かな? 確かに毎日人形遊びしてるわ。本当さっさと辞めれば良いのにね)」


「ここだけの話、あの方は王を味方につけているからな。ただ、婚約の話を一切合切断っていてこのままでは拉致があかないと、”紫瞳の君“の暗殺計画が上がっているらしい」


「(あら。私のの暗殺計画。それはぜひとも頑張って欲しいな)」


「ただ、”紫瞳の君“の守りは最強って聞いたぞ」

「それなんだよな。この国1番の魔道士のあの方が率先して守られているし、あの方が”紫瞳の君”から離れる時は、国2番目の魔道士と、最優秀騎士が常に守ってるという」


「(今ならガラ空きですよー)」


「この間あった誘拐未遂事件も、犯人のアジトはなんか溶岩化してて、資金提供してたって噂の貴族は局所的竜巻が発生して屋敷は崩壊したらしいぞ。ここだけの話、あの方の報復じゃないかと言われてる」


「(誘拐未遂なんてあったのか、全く知らなかったし、報復が苛烈だな)」


「だから、“紫瞳の君”の暗殺計画も上がってるが、あの方自身の暗殺計画も上がってるらしい。最近はやり過ぎで恨みを買いすぎだと」

「噂じゃあの方も少しずつ壊れてきてるんじゃないかと言われているらしい」

「あの方の刃がこちらに向いたら、国は滅亡するだろうからな。周りも大変だな」


 集団は再び歩いて去って行った。


 足音と共に、ラルクの気配が近付いてくる。

「全く、リンに何てこと聞かせてくれるんだ。リンは気にしないで寝ておいで」

 そう言うと、ラルクは凛の頭を撫で、眠りの魔法をかけたのか凛の意識が遠のいてった。



「俺の最愛を害するものは許さない」


 意識が完全に落ちる前にそんな言葉を聞いた気がした。

続きが気になると思ったら執筆の励みになりますので、よかったら1つでも、良いので↓↓↓ポチりお願いします。

☆☆☆☆☆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ