保護(ラルク視点)
王宮へ戻ったあと、すぐさま凛を抱いて自室に向かう。ユベルとイリヤも黙ってついてくる。
ひとまず状況を確認し治癒の回復魔法をかける為、服を脱がせる。
凛の体を見たイリヤは“ヒッ”と思わず声を上げ、ユベルは思いっきり顔を顰めた。
凛が綺麗なのは顔や手先など服から出て見える部分だけで首から下は黒ずんでしまった縄の後、えぐれた跡、火傷跡、鬱血痕など様々な傷が治っていない。
そして、高熱。こんな体でよくあそこまで平然と喋れて動けたものだ。
――凛に作り物の笑顔を向けられた時は冷や汗が垂れた。
本物の笑顔を知ってるからこそ、あまりにも作り物めいてて怖かった。それにあの目は熱に浮かされたような期待を含んでいて、目の前にいる人が誰かも識別しておらず、空想を見ているようで壊れているのは明らかだった。
1ヶ月でこうも変わるとは、変えるきっかけを与えてしまったラルクは自分が許せなかった。
凛の気持ちを考えず、自分の事ばかりにいっぱいになってしまい、自分がどんな酷いことをしても、凛には行く場所がないし自分の側からは離れないだろうと何処か慢心していたのではないだろうか。
そんな奢りがこの結果を招いたのではないかと。
治癒の回復魔法をかけても、治りが遅い。それだけ損耗していたのだろうが、あと2、3日発見が遅かったら遺体となっていただろう。
回復魔法を使えない人からしたらシオンの状態が分からない為、元気に喋って動けているあの状態を見てまさか死にかけだとは誰も思わなかった筈だ。
1時間治癒の回復魔法をかけ続け、何とか体の表面の傷は回復させた。後は高熱だけだ。
高熱が出たままの状態で眠りの魔法を解くのは可哀想だが、栄養を取らせる為にもいつまでもかけとくわけにもいかないので一度解く。
すると、しばらくして凛の目が覚め、キョロキョロ辺りを見回して、自分の体を見て俺を見る。
「リン?」
「……てんしさま?」
どうやら、まだ分からないようだ。
「治しちゃったの?」
凛が今にも泣きそうに問いかけてくるので、ラルクは肯きで回答した。
凛は悲しそうな表情で淡々と言葉を紡ぐ
「あとちょっとで、頭なでなでしてくれる筈だったのに……」
「俺がしてあげるよ?」
「いらない」
「他に何かして欲しいことあ、る……?」
言ってからこれは出会った時と同じ事を聞いている事に気がついた。
ならば凛は……
「じゃぁ、殺して」
一瞬で今までの幼い雰囲気がなくなり、初めて会った時と同様の雰囲気を醸し出し、心の底からの希望なのだろう、美しい恍惚とした笑みで言った。
後ろに控えている2人が、思わず息を飲む。
ラルクも一瞬頭が真っ白になってしまったが、ずっと言いたかった言葉を紡ぐ。
「俺には殺せない。俺と一緒に生きよう」
「……そう」
ラルクの言葉を聞いた凛は諦めたように儚げに笑うとゆっくり目を閉じて眠りについてしまった。
♢♢♢
ーーまた死ねなかった。
ーーもう疲れたのに。
ーーでも、もう良いよね。
♢♢♢
あれから、3日3晩凛は高熱が出続けその間、意識を失ったまま一度も目覚めなかった。
4日目にやっと熱が下がり始めた時、再び目を覚ました凛は
「リン!」
「「リンちゃん!」」
「ーー。」
表情もごっそり抜け落ち、視点も合わず何の反応も示さない、”人形”となってしまっていた。
♢♢♢
6日目になりやっと平熱に戻った。
ラルクの回復魔法と頑丈で自己治癒能力の高い凛だからこそ乗り越えられたが、普通の人間なら死んでいただろう。
4日目に目覚めたが、意識を失う前に最後に話して以降、凛は1点を見つめたまま何も喋らず、意識が覚醒すると目が開き、寝ると目を閉じる。それ以外は一切動かない。
宮廷医師が言うには、心が完全に壊れて体だけが生きている状態になっており、こちらの声も届いている可能性が低く、また以前のように喋ったり出来るようになるかは不明という事だった。
宮廷医師はそんな者達の専用の施設に凛を預けるように言ったが、ラルクは医師の助言を突っぱね自分の寝室で面倒を見ると決めた。
そんな寝たきり無反応な凛に対して、いつか返答を返してくれると信じてラルクは執務の合間をぬって語りかけながら回復魔法を使い続けた。
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