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旅立ち

 ラルクに貰った青いリボンで髪を結び、緑の石がハマったヘアピンは耳の横にさした。


 凛は魔道士塔の部屋を後にする。


 そして、やはり出て行く前に一目ラルクを見たいと、ラルクの部屋を人目につかないルートで目指す。

 最初の1ヶ月で王宮内部は勿論のこと、魔法などの使用がなくても使える隠し部屋・通路は全て調査済みなのだ。図書室と部屋の往復の合間に散歩がてら、護衛もするかもしれないしと把握していたのだ。

 それがこんなところで役に立つとは。


 暗殺もこなしていた凛には、赤外線センサーもないサーモグラフィーもない部屋に窓から音もなく入る事は容易い。


 久しぶりのラルクの自室。

 短かったとは言え、ここで幸せな時を過ごしたので感慨深い。


 寝室へ向かおうとしたら、ラルクはその前のテーブルで突っ伏して寝ていた。


 離れているのに酒の匂いがする位だから相当飲んでいるのだろう。

 眺めるだけで行こうと思ったが、せっかくなのでベットに運んであげる事にする。


 小柄で華奢で筋肉も付いていないように見えるが、“ドール”は皆丈夫になる様筋肉含め調整されている為、ラルクを運ぶことくらい造作もないのだ。


 一度椅子の背もたれの方に体を起こしてから、以前絵本でみたお姫様抱っこをして寝室に向かう。


 その間、一度も起きない。

 寂しいような気もするが、拒絶の感情を向けられることもないから安堵もしていた。

 服はそのままに布団を胸元までかける。


 じっと顔を見つめた後


「さようなら」


 と一声かけて、その場を後にしようとした時




「……リ……リン……好、きだ、よ……」


 と、ラルクが寝言を言った。



 凛は思わず口元を手で覆う。


「(……凄い奇跡だ! 最後にそんな言葉を贈ってくれるなんて! 例え今思ってなくても嫌な顔せずそんな言葉をくれるなんて、なんて幸せなんだろう)」


 ポロポロ流れる涙を止める事が出来ないまま、踵をかえすと一度外に向かう。

 もう一部屋寄るところがあるのだ。

 目元を拭い次の部屋を目指す事にした。



♢♢♢



 ーーコンコン。

 こちらは同じ王宮内でも王族の住居ではなく部屋の前に護衛などいない為、普通にノックをする。


 暫くたったあと、どちら様ですか? と声がかかったので名乗るとドアを開けてくれた。


「イリヤ様、夜分にすみません。少しお話ししたい事がありまして」

「はぁ。リンちゃん取り敢えず、中へどうぞ」

「失礼します」

 イリヤの部屋らしく、物がきっちり整頓されたきれいな部屋だった。

「こんな夜中じゃなくて、明日の昼間でも良かったんじゃないです?」

「明日朝1で出てしまうので」

「……お茶飲む?」

「いえ、すぐ出ますので」


 夜中の訪問の為か、眠そうでいつもより言葉が短く雑だ。本当はこちらが素なのかもしれないが。


「話ってその事?」

「はい。特にラルク様へお役に立てる事もなさそうですし、町で働こうかと思います」

「……行く当てはあるんです?」

「はい。この前町へ出た時“森の木の実”という雑貨屋さんがお手伝いを募集していたので、そちらに行ってみようと思います。私では一度王宮の外へ出てしまったら、単身でこちらへ戻る事は出来ないと思いますので報告を兼ねて夜分に失礼させていただきました」

「……本当にそれで良いの?」


 嘘をついてないか探るような目でルイスは凛を見つめる。

「はい。ラルク様に助けていただき、こちらで過ごせた日々は本当に幸せでした。もし気が向いたら見に来ていただけるようにお伝えいただければと思います」

「ラルク様から会いに行くのは良いんだね?」

「勿論です。実はこちらに来る前にご挨拶しようと伺ったのですが、既に就寝していらしたようで、御目通り願う事は叶いませんでしたので。あ、部屋の外までお酒の匂いがしてましたので、お酒の飲み過ぎには気をつけていただいた方が良いかもです」

「ラルク様もタイミングの悪いこと。……分かった。きっと割とすぐに迎えに行く事になると思うよ。だから、もし他の店で働く時はその“森の木の実”の店主に行き先を告げておいてください」

「かしこまりました」

「頑張ってね」

「はい。ありがとうございます。夜分に失礼しました」


 イリヤとしては、このまま城にいた方が安全で良いとは思ったが、水面下で他の貴族への牽制等行っているが凛自体へは放置しかしていない事実が負い目となっており、心を決めているようなのに、未だ悩んでいる様子のラルクの行動を起こす“きっかけ”になれば良いと了承する事にしたのだ。




 ……この判断が後に大変な結果となる事を連日の疲れと、深夜の訪問で頭が回り切っていないイリヤには予期できなかった。

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