森の中
新連載です。こちらは完結まで用意しておりますのでご安心ください。
凛は全身の痛みで目が覚めると、そこは森だった。
「(2週間振りに基地に帰ってきてた筈だけど……ここは何処だろう?)」
辺りを見回してみるが、鬱蒼とした森でどうやら夜らしい。
怠い体を起こし近くの木につかまりながら立ち上がる。
「(そうだ、久しぶりにベットで寝てたら、轟音と共に衝撃があったんだった。最近テロが多かったからうちの基地も標的にされたかな)」
改めて周りを見回すが、爆発で吹き飛ばされた割には破片も何も無いし、凛だけが森にいる。
寝てたから、Tシャツとズボンという軽装で、ベット脇に置いてあった武器も持ってない。
「(あーあ。何で爆破の時に死んでないんだろ? ……でもこのままここにいれば、獣に殺られるか餓死か)」
凛はズルズルと木の根本に背中を預け座り込む。
連日の体の酷使で微熱も出ていて立っているのも辛かったのだ。
「(私は頑張って”生きた”からもう良いよね)」
凛は目を閉じて意識を落とす。
どの位たったのか、近づいてくる人の気配に癖で意識は覚醒してしまう。ただ動く気力も無いので、ぼんやりと気配の方角を見ていると、軍服でもなく随分野性味の溢れた服装の男達と幌馬車がやってきた。
凛は幌馬車を生で見たのは初めてだ。科学技術が発達した日本で馬車なんて遺物、昔の御伽話の絵本でしか見たことない。一体何処に飛ばされてしまったんだと表情は全く変わらないが心では驚愕する。
そうこう思っているうちに、男達のうちの3人が警戒しながらやってきた。
「おい、コイツ逃亡奴隷じゃないか?」
「こんな森の中まで逃亡出来るか?」
「……なんか体調悪そうだし、ヘマやって主人に捨てられたんじゃね?」
男達3人の中でも体格の良いのが近づいてきて、凛の長い前髪を掴み無理矢理顔を上げさせる。
「「「……!?」」」
爆発で乱れた黒い髪に隠れていたのは、綺麗な紫の目と整った顔、今は擦り傷が所々あるが元は色白でニキビも何もない思わず触りたくなるようなつるりとしていたことがうかがえる肌、何処か諦めたような動かない表情も異様な色気があり嗜虐心をそそられるようだ。
「こりゃぁ……。随分別品さんだな。この首輪も隷属の首輪か? 見た事ない形だが、まぁここに1人でいるって事は俺たちが貰っても文句はないだろ」
そう言うと、男は凛を担ぎ馬車の方へ連れて行き、足枷と手枷をつけ幌馬車の中に入れるとまた進み出した。
幌馬車の中には、今の凛と同じような姿の者たちが多くいた。その中でも面倒見の良さそうな赤毛のそばかすのお姉さんが凛に話しかけてくる。
「お前さん大丈夫かい? なんだか体調が悪そうだ」
「……少し熱がありまして。この馬車は何処へ向かってるのかご存知でしょうか?」
「あぁ。王都の娼館だよ。こんな所に捨てられてたなんて……。少しでもグレードの高い所に入れると良いな」
「(王都? 少なくてもやはり日本じゃないな、タイムスリップでもしたのか? でも、言葉が通じてる……)ありがとうございます。少し休みますね」
「あぁ、夜も長いだろうし、今のうちに休んでおきな」
不穏な言葉だなと思いつつ、凛は意識を落とした。
♢♢♢
凛が森で囚われてから3日後には王都についた。王都に着くまでには凛の体質もバレてしまいただの娼館ではなく、さる貴族に法外な値段で売られ、秘密の邸宅に囲われていた。
凛は床に転がったまま怠くて上手く動かない体に目線だけを向けながら思考する。
囲われた先は痛みつけるのが趣味の貴族の邸宅で、今回は後ろ手に縛られたまま動けないようにして存分に鞭を打たれるというものだった。
ーーガチャ。
「今日も派手にやられてるねー。風呂に入れるよ」
凛の世話係がきて縛られている手を外し、横抱きにしつつ風呂場へ連れて行く。
「お前さんもそんな体質じゃなけりゃなぁ……」
そんな事を言いながら手際良く体を洗い流し、体を拭いて服を着せるとベットへ連れていってくれた。
この貴族に法外な値段で売られた理由は凛の自己治癒能力が高い事、体が頑丈な事があの奴隷商達にすり傷がすぐに治った事でバレた為だ。
凛は元々遺伝子操作されて生まれてきた人間だ。
第三次世界大戦後、核による戦争は地球を痛めつける事がわかっている為、各国が人間による原始的な戦争に移行したのだ。日本はそもそも国土が狭い為、戦争に行く人間が足りていない。
ならば戦争用の人間を作るという目的の為、秘密裏に人体実験が重ねられ、通称”ドール”と言われる遺伝子操作された人間達が戦争に参加するようになった。
一時期”ドール”にも人権をという運動があったが、戦争で日本の負けが濃くなるとその風潮は消えた。
実際、一般にはあまり知られていないが、人間と”ドール”の違いはそこまでない。クローンでも人造人間でもない、ただ遺伝子操作された人間の為、痛みも感じるし、感情もある。違うのはIQが高い事と、身体能力が高い事、体の作りが頑丈なこと位だろうか。後は”ドール”という名前の所以ともなったのだが、意図した訳でもないが総じて顔が整っている。
それと、遺伝子操作の副産物か個体によりちょっとした能力が備わる事があり、凛は自己治癒能力が高い事がその能力だった。
軽い打撲や切り傷等は大体半日位安静にしていれば立ち所に修復してしまう、ただ、自己治癒能力の弊害か、体が頑丈な筈の”ドール”にしては珍しく凛は良く熱を出していた。
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