第一話 生技の勇者。
ほぼ下ネタな話を書きたいな…
と思い、メインで進めている『エンディング専門の人気作家』執筆の合間に気分転換で書き始めました。
下ネタ過多のギャグ系BLとお考えください。過度な性的描写を書くつもりはありませんが、数多のイケメンキャラ達が当たり前のように勇者の尻を狙います。
あくまで気分転換に書いているものなので、更新は不定期となります。こういったジャンルがお好きで気長に待てると言う方は、よければブクマなどよろしくお願いします。
『勇者は!大変な名器であった!!』
封印の間際、魔王が放った最期の言葉は瞬く間に世界中に拡散し、俺は正義の勇者から一転『性技の勇者』として、後世にまで語り継がれることとなったのである。
「ふざけんなよ…あんのクソ魔王!!負けた腹いせに、とんでもねぇデマ撒き散らしやがって!」
冒険者で賑わうギルドの酒場、テーブルに叩きつけた木製のジョッキから酒が飛び散る。
「だから…それはユウヤが、負けを認めて大人しく封印されようとしてる魔王をアホだの雑魚だのと幼稚に罵倒し、玉を蹴り上げ、髪を鷲掴みにした挙句、眉毛諸共見事に剃り落としたりしたからで…。はぁ、もうそれくらいにしとけって。飲み過ぎ。」
濡れたテーブルと床を丁寧に拭きながら溜め息混じりに言うのは、俺の三人居る仲間のうちの一人で魔法弓士のモヴだ。強制的に切り上げるつもりなのか、皿を重ねテーブルを片付けている。
酔っている自覚はあるが、この苛立ちを抑える術が無い。
更に酒を呷り、空になったジョッキを壁に放れば、派手な音を立てバラバラに砕け散った。
「あのやろぉ、こっちが必死で封印の門閉じようとしてんのに顔面で煽ってくんだぞ!?めちゃくちゃムカつくだろ!それとも何かぁ?俺のが悪いってのかよぉ!」
「別に、そうは言ってないけど。魔王の最期の言葉として遺ってしまったものは、今更どうにもできないのは知ってるだろ?歴史の一片として各地で記録され後世まで伝わる。ま、長年戦ってきたんだから、もっと相手を知り冷静に事を済ませるべきだった。…とは、流石に思ってるよ。」
これといった特徴も無いごく平均的な顔を、無の極みの如く仕上げ見下ろしてくる。
ハイレベルな風魔法を使いこなし、弓の腕は超一流、統率力があって、生活能力も高く、博識で冷静。外見に一切そぐわぬハイスペックな中身がいつにも増して憎らしい。
「モブ面なのに中身ぜんぜんモブじゃ無いのマジ何なんだよ!モヴのくせに!!」
定まらぬ指先を突きつけ、羞恥も無く喚いた。
「最近、酔うと毎回それ言うよな。正確な意味は知らないけど、僕に対しての嫉妬を含んだ恨み言なんだってのは何となくわかったから。ほら、いい加減帰るぞ。」
パーティーの財布も管理するモヴは、魔王封印を受け王国より支払われた多額の報酬から、本日の飲食代と破壊したジョッキの弁償代金をきっちりと支払う。
魔王討伐に発つ以前から通っているこの店は、どの店員もすっかり俺達の扱いに慣れた様子で。心做しか哀れむような視線をこちらに向けつつ、見送りの言葉をくれた。
「ご馳走様でした。お騒がせしました。」
店員と他の客に向け二度三度と頭を下げては丁寧に謝罪する。
モヴの右手がすくい上げるような動きを見せたと同時、ふわり浮かび上がる俺の身体。
「ちょっ…うわっ!やめ、吐く!吐くか…ら……ぅおえぇぇ」
冒険者達の嘲笑飛び交う中、お得意の風魔法で逆さに釣られ、騒々しく酒場を後にした。
前世。俺は日本で生活する頗る平凡な一般社会人、二十七歳独身だった。
出世とは無縁のポジション、大学の頃から付き合っていた彼女とは俺の低収入が原因であっさり破局。
そんな時、孤独を癒してくれたのは、オンラインで気軽に購入できる個人制作のゲームたちだった。
仕事の時間を除けばゲームするか食うか寝るか。自堕落な生活はあっという間に脂肪に変わり…
何の取り柄も無いただのデブと成り果てた俺は、見事肥満による余命宣告を受けるまでに至ってしまっていた。
このままではダメだ。
あの日の俺は、何故かやる気に満ち溢れていた。
思えばその辺りから、自我はすっかり奪われてしまっていたのかもしれない。
夕暮れ時、ダサいジャージ姿でアパートを飛び出した。
裏山の長い坂道を、息を荒らげ、汗に塗れて駆け上った。
やさぐれた今日までの自分とはおさらばだ。
絶対に元の体型を取り戻し、幸せを掴んでみせる!
拳を高く掲げ雄叫びを上げた瞬間―――
俺はイキったスポーツカーに撥ね飛ばされ、呆気なく即死した。
次に目を覚ました時、俺はどこまでも真白な空間に居た。
突如目の前に現れたのは、女神カミエラを名乗る鼻息の荒い女。
そいつは俺に世界を救えと命じ、前世の記憶を残したまま『トォートイヤン』という星に赤ん坊として転生させる。
新たな人生。生まれたのは、王国の外れの小さな村に住む若い夫婦の元。
手の甲に浮かび上がる紋章で勇者と認められた俺は、王国の支援を受けながら何不自由無い生活を送った。
七歳の誕生日を迎えたその日。さしたる説明も無いままに親元から離され、国立魔導学院へと入学させられる。
王の後ろ盾により、平民の出でありながらも王族や貴族の子供達とも格差無い扱いを受けることはできたが、特別に組まれた勇者育成の課程は優美な学院の印象とは裏腹に過酷を極めた。
あらゆる種族の語学に歴史学、魔法基礎学、生物学。新たな知識の獲得は鮮明な前世の記憶が妨げとなり、受験勉強などとは比にならぬ程難しい。
座学を除いた時間はひたすらに剣と魔法の鍛錬を強いられた。それこそ死ぬギリギリまで追い込まれるのは当たり前。
十八歳となり旅立ちを許された時には、ようやく得た自由に高揚し涙したことを思い出す。
それから七年。
俺は勇者として世界を巡り、道中三人の仲間を得て多くの人々を救った。
伝説の装備を揃え、大精霊の加護を受け、満を侍して臨んだ幾度目かの魔王戦。
ついに彼の王の封印を果たし、世界に平和を取り戻した―――
転生してから二十五年。
女神に与えられた役目を全うした俺は、世の人々に讃えられながら悠々自適な生活を送れるものと信じていたのに…
魔王を封印したところで、魔物の発生頻度は変わらず多少弱体化しただけ。各地に散った魔王の部下たちは、封印直後から王の復活を目論み密かに動いていると言う。
俺はいったい何のために頑張ってきたのか。
魔王の遺した頭のおかしいデマのせいで、人々は勇者を讃えるどころか、その功績も一瞬にして忘れ容赦なく嘲る。
これが飲まずにいられるか。
愚痴らずにいられるか。
「もう、嫌だ。家に帰りたい…」
弱音と共に流した涙は、使い慣れた枕をぐっしょりと濡らした。