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囚われの魔女とベネディクトイズム  作者: 空色ねずみ
後日談(ジャーナリズム)
87/88

「結婚してほしいんだが」(1/2)

この話で物語を完結に戻します。

長らくお付き合いいただいた方、ありがとうございました(特に後日談はいろいろ迷走しておりすみません)。拙作をお楽しみいただいた方が一人でもいれば万々歳です。


それでは、しばしお付き合いくださいませ。





「結婚してほしいんだが」


 食後の紅茶に口をつけたタイミングでそんな台詞を吐かれ、私は思わず盛大に咽せた。変なところに入ってしまったようで、ごほごほと咳が止まらない。


 そんな台詞を吐いた男はというと、涙目になりながら咳を続ける私をどこか冷静に観察している。普通は大丈夫か、などと声をかけてきそうなものだが、咳が落ち着いたタイミングでかけられた言葉はそっけなかった。


「どうした?」


 どうしたもこうしたもない。


 そう言ってやりたかったが、言ったところでまともな反応は返ってくるまい。とはいえ、急な台詞に思わず咽せてしまったが、ベネティクトの言葉を真正面からのプロポーズととるほどおめでたくはないし、彼という人間を知らないわけではなかった。


「……結婚してどうするの?」


 彼がそもそも魔女(わたし)を買ったのは、偽装結婚をするためである。各所からの求婚を断るための口実として、身よりもなく後腐れもなく、貴族たちの比較の対象にもならず、結婚したところで跡取りも生まれない——魔女から生まれるのは魔女だけであり、男子は産まれない——魔女を敢えて選んで結婚しようとしたらしい。


 彼にとっての結婚とはその程度のものだし、面倒ごとが減りさえすれば、きっと結婚相手が魔女だろうが牛だろうが関係はない。


「どうとは?」


 首を傾げたベネティクトに、私も首を傾げ返す。


「私と結婚したところで、結局、法的な確約にはならないのでしょう? 多少の虫除けにはなるかもしれないけど、王女様クラスになると痛くも痒くもないみたいじゃない」


 魔女はそもそも公に存在を認められていないので、婚姻の書類を出したところでそれが認められるかどうかは謎らしい。魔女と結婚したという前例がないのでどう転ぶかは分からない、とベネティクトが言っていた。飼っているワラビーを新婦席に並べたところで、正式や結婚として認められるとは思えないだろう——などと言ったが、ワラビーが何かもわからないのでいまいちピンとこなかった。というか、どうせ例えを出すのなら一般的な動物にして欲しいのだが。


 なんにせよ普通であれば妻にはベネティクトの財産に対しての権利が発生するらしいが、私が妻と主張したところでそれは微妙だということだ。別に彼の財産になど興味はないが——むしろそんなもの手に入れて毒殺に怯えるのは嫌だ——それであればあまり他人に対する牽制にもならない気がする。


 ベネティクトはしばらく首を傾げて考えるようにしていたが、やがて私に聞かれても困ることを言ってきた。


「王女はどうすれば穏便に私に飽きてくれると思う?」


 一国のお姫さまから想いを寄せられても、彼は迷惑でしかないらしい。ならばあまり近づいて幼い少女に気を持たせるようなことをしなければ良いのでは、などと思っていたのだが、実際の王女を見たらそんな思いは吹っ飛んだ。


 先日、急に現れて「わたしに会いに来てくれた」などとのたまっていたのも、ちょうど王女が訪れていた別荘が、あの天文台に近かったかららしい。王女の動向をうっかり確認しそびれた、とベネティクトが言っていたから、いつもは彼女の動向を窺いながら、なるべくニアミスしないように気を付けているのだろう。


「穏便に飽きるってどんな言葉よ」

「派手に嫌われて斬首刑になる、の対義語だ」


 なるほど、と苦笑する。


 好かれるのも嫌われるのも困るというのは、なかなかに大変な悩みである。しかもあながち冗談にも聞こえないから怖い。彼女ならあの笑顔のまま刑を執行しそうだ。


「七歳の頃からもう五年間も思い続けているのなら、あと四年くらいは簡単に継続しそうよね。……彼女が成人したらどうするの? 覚悟を決める?」

「それは結婚する覚悟か? 処刑される覚悟か?」


 首を斬られる覚悟なんて、何回生まれ変わっても持てる気がしない。とはいえ、王女となど結婚してしまっては、ふらふらとこれまで通り好き勝手に生きるわけにはいかないだろう。


「分からないけど、どうするつもり?」

「どうせあと何年も生きないだろうと思っていたから、あまり真面目に考えていなかったな。他国にでも逃げるか」


 いきなりそんなことを言われて、眉根を寄せる。いつ死んでもおかしくないと彼は言っているし、実際に何度も死にかけてはいるのだが、だからと言ってあと何年も生きないだろうというのはあまりに投げやりな台詞に聴こえる。


「何年も生きないだろう……なんて縁起でもないわ。今は考えていない?」


 私の言葉に彼は首を傾げた。


「誰だって死ぬときは死ぬ。ソフィアだってチキンボールを喉に詰まらせて死ぬ確率はゼロではないからな。十分に気をつけてくれ」

「……それこそ縁起でもないこと言わないで」


 その日の夕飯がチキンボールのトマト煮だったのは偶然なのだろうか。タチの悪い悪戯だったのだとしたら、それこそ縁起でもない。


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