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囚われの魔女とベネディクトイズム  作者: 空色ねずみ
後日談(ジャーナリズム)
73/88

「しまった」(2/6)


 なるほど、彼女がファンディーヌ殿下か。


 そう考えてまじまじと少女を見る。彼女がベネディクトに七歳の頃から一目惚れをしているという国王の孫娘なのだ。十二歳の美しい姫だと聞いていたが、思っていたよりずっと美しくて可憐で——そして想像していたよりずっと幼く見えた。歳の割に小柄な体もあどけなさの残る顔も、まだまだ幼い子供のようで、なるほど、恋愛や結婚など考えられないというベネディクトの話もうなずける。


 王女はベネティクトを立たせたうえで、上目遣いに彼を見上げる。


「犯人はまだ見つかってないのでしょう?」

「そのようですね」


 心底どうでも良さそうにベネディクトは言ったが、彼女は怒りに身を震わせた。


「わたくしのアルフレド様に怪我をさせるなんて許せない。早く見つけ出して、火炙りにしてやらないと」


 天使のような顔で不穏な台詞を吐いた王女に、私は密かにぶるりと体を震わせた。怪我をさせた人間を火炙りにしようと言う彼女は、ベネティクトの横にいる魔女は串刺しにすべしなどと言い出さないだろうか。


「お手やわらかに」


 何を思ったのか——過去にお手柔らかでなかった恐ろしい事例でもあるのか——静かにそんな言葉を発したベネティクトに対し、王女ははっとした顔をする。想い人の前で不穏な台詞を吐いたことを後悔したのだろうか。と思いきや、彼女は翠の瞳をきらきらに輝かせた。そしてほうっとため息をつくような声を出す。


「怪我をさせた相手に対してもそんな慈悲を……なんてお優しい」


 そんな言葉にも、ベネティクトはただ黙して王女を見下ろす。余計なことは言わない方が良い、というのは私だけでなく彼自身に対しても当てはまるのだろうか。だが王女にはそんな沈黙すら、お互いの視線が絡み合う、濃密な時間に感じられるのかもしれない。彼女は恋する瞳で男を見上げた。


「それはそうとアルフレド様、こんなに急にわたくしに会いにきてくださるなんてどうなさったの?」


 意味の分からない言葉に私は首を傾げ、ベネティクトは微かに嘆息した。


「今日は天文台を見学に来ただけです——殿下へのご挨拶も、後日、伺うつもりではありましたが」


 後日あいさつに行くとは聞いていなかったが、たしかに彼はこれから天文台に向かって朝まで星を観察するのだと言っていた。なぜ天文台にこんなドレスアップとハイヒールが必要なのかは分からなかったが、彼のドレスコードが普通とズレているのはいつものことだ。


 だが、ベネティクトの言葉をどう解釈したのか、小さな王女様は飛び上がって喜んだ。


「アルフレド様と二人で星を見られるの? うれしい、とってもロマンティックで素敵ね!」


 もともと高い声が、三倍くらい高く弾む。そんな王女に対して、ベネティクトはやんわりとした口調で言った。


「ご一緒したい気持ちはありますが、殿下を日の落ちる時間まで拘束してしまっては、陛下に叱られてしまいます」


 たしかに子供を暗くなって星を見る時間まで連れ回すのは問題だし、女性とそんな時間まで一緒にいては色々と誤解されかねない。——というか、王女殿下を朝帰りさせてしまっては、きっと祖父である陛下に八つ裂きにされるのだろう。


 だが王女様はにっこりと笑った。


「星を教えてくださるのでしょう? 天文台でのお勉強は、もちろん昼間には出来ませんものね?」


 可愛らしく首を傾げて言った王女は顔はとても無邪気なのだが、話している内容も表情も多分に作為的なのだろう。そういえばベネティクトは、たまに王女の家庭教師をやらされていると言っていた。


「大丈夫、おじいさまの許可もわたくしが責任を持ってとります。もし反対したら、家出してやるんだから」


 彼女はそう言いながら、ベネティクトを自分の乗ってきた豪華な馬車へと誘う。可愛らしくエスコートを頼んだ王女に対して、ベネティクトは世にも恐ろしい台詞を吐いた。


「申し訳ありませんが、今日は連れがいますので」


 ベネティクトの視線がこちらに向いた瞬間、王女の翠の視線が私にぐさりと刺さる。改めて真正面から見ても、絵画から飛び出た天使のようだった。美術品のような彼と二人で並ぶと見た目の圧がすごい。


 彼女は私の存在に気づいて無視していたのか、それとも完全にベネティクトしか見えていなかったのか。なんにせよ私の姿を見て、王女は少しだけ驚いたような顔をする。


「アルフレド様、このかたは?」

「ソフィア・メーヴィス・レインです」


 別に名前を問われたわけではないだろう。


 私は直立して静止しながら、内心でベネティクトにつっこみを入れる。だが、だからと言って他に何も言えなかったのかもしれない。ここで間違って恋人だとか一緒に暮らしているなどと言われて、火炙りになるのは嫌だ。


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