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囚われの魔女とベネディクトイズム  作者: 空色ねずみ
番外編(ミーイズム)
56/88

ミーイズム(3日目)


 はじめに言っておくが、今日の彼はちゃんと起きていた。

 毎日、昨日のような生活をされては、良い迷惑である。せっかく始めた観察日記が二日目にして頓挫してしまうではないか。幾らベネディクトのことを知りたい奇特な人物がいたとしても、毎日彼の寝顔をリポートするだけの日記では燃やしてしまうに違いない。皆さま、どうぞ火事にはご注意あれ。


 さて。これはきっと、皆さん興味を持つことだろう。

 部屋で退屈そうに本を読んでいる彼に、女性の好みを聞いてみた。何せ彼は、貴族のご令嬢方からのラブレターを片っ端からオニオンスープの燃料に変える男である。彼の好みを押さえないことには、どんな女性も彼を攻略することなど出来ないはずである。

 私の問いに、彼は本から顔を上げずに言った。


「好みといっても、人間には色々な面がある。外見的なことを聞いているのか? それとも、知性的なことなのか、性格的なことなのか、感性的なことなのか、性的なことなのか。質問を限定してもらいたい」


 いちいち面倒くさい男である。


「じゃ、外見的な好みは?」

「目立たない人」


 意外な答えが返ってきた。自分自身が抜群に目立つ美形だから、目立たない、おとなしめの容貌にあこがれるのだろうか。そう思っていたが、そんなまともな理由ではないらしい。


「本当は視界に入ってこないのが一番だが、どうせ視界に入ってくるなら気にならない人間が一番だ」

「……あっそう。じゃあ、性格は?」

「物静かで、大人しい人」


 これまた意外な答えである。――が、一つ思いついて聞いてみた。


「騒がしくなくて、気にならないから?」

「ああ、そうだな」

「……」


 他の質問を投げても無駄な気がしてきたのは、私だけではないだろう。

 こんなことなら、外見だの内面だの言わず、始めから女性の好みを「いても邪魔にならない人」と言っておけば良いのだ。


「女の人が嫌いなの?」

「いいや、別に。抱き心地は良いな」


 聞きたいのはそういうことではない。私は盛大に顔をしかめた。

 幾ら結婚の申し込みを片っ端から断ろうと、この屋敷にはたまに女性が出入りする。全て金で買った女性らしいが、その辺を見る限りでは、何にせよ女性に全く興味が無いわけではないらしい。


「……抱き心地以外には何かないわけ」

「抱き心地以外は、女性も男性もさほど変わらないだろう。同じ霊長類だ」


 皆さん、ここまで投げやりな台詞を聞いたことがあるだろうか。女性に興味があるとかないとかそんなレベルではない。彼はそもそも人間に興味が無いのだ。私はまた顔をしかめてみせたが、彼の視界には私の表情など入っていない。というか、彼は質問中、一度も顔を上げてない。

 

 ――本当に、どうして彼なんかに人気があるのか私には理解が出来ない。みなさまどうか、もう一度、よく考えていただきたい。人生、お金よりも重要なものがたくさんあるはずだ。

 私からの、心よりの忠告である。


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