表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
囚われの魔女とベネディクトイズム  作者: 空色ねずみ
番外編(ミーイズム)
54/88

ミーイズム(1日目)

こちらから、しばし番外編になります。

本編完結後に余計な話はいらないよーと言う方はUターンをお願いします!

物語中盤くらいの時系列で読んでもらえれば助かります。


 アルフレド・ベネディクト・ベラスコとはどのような人物か。


 彼は、とにかく掴めない人間である。

 先日の話だ。朝起きると彼は、私の部屋の前で待っていた。何をするでもない。ただ待っていたのだ。私が何を聞いても、別に、しか言わない。食事を取るときも必ず目の前に座り、じっと私を見ている。トイレに立とうがお風呂場に向かおうが当然のようについてきて、就寝する際にはなんと一緒に部屋にまで入ってこようとした。もちろん寝室への侵入は押しとどめたが、それが一週間も続いたのである。当然のように私は気味悪がったが、いくら拒絶しようと彼は私の側から離れなかった。

 その謎の行動の理由が分かったのは一週間後である。彼がまとめた最新の論文のタイトルは"魔女の生態調査"。いったい私の日常をどのように書き連ねれば、論文なんかにまとめられると思ったのか。内容が非常に気になったが、論文を盗み見ても何語で書かれているかすら分からなかった。どうでも良いが、ベネディクトは五ヶ国語と二地方語が堪能らしい。国外どころか屋敷すら出ない人間のくせに、実に無駄な特技である。


 ともかく、ちょっと腹が立ったので、私も彼の観察日記を付けることにした。

 何の変哲も無い私の日常をつづった"魔女の生態調査"よりも、多くの人々に興味をもたれることは間違いない。なんとか彼を味方につけたいと画策している男たちは大勢いるし、彼の心を掴み玉の輿に乗りたいと奮闘している女性たちは掃いて捨てるほどいるのだ。そんな人間たちにとって、謎に包まれた彼の私生活を垣間見れる本著は垂涎の的であろう。大ヒット間違いなしである。


 と言うわけで、彼の観察日記を次に記す。

 ベネディクトなどに興味のある奇特な紳士淑女の皆さま。とくとごらんあれ。



*1日目



 まずは、彼の人気についてである。


 彼の元に結婚の申し込みが多いというのは、あくまで事実である。

 確かに、彼は格好良い。頭も良い。才能もある。なんと言っても金がある。――が、どうして彼のもとに山ほどの手紙が届くのか、私にはどうしても理解が出来なかった。幾ら金を持っていようが、相手は彼、ベネディクトなのである。そこのところをみんな、どのように考えているのだろう。どう頑張っても外面が良いようには見えないから、よっぽど、彼に対する誤解があるはずである。

 たまに、手紙では飽きたらず、直接屋敷に乗り込んでくる自称花嫁候補もいる。そんな女性に対しては、ベネディクトは丁重にお帰り願う。彼の考える、丁重、とは例えばこんな感じである。


「悪いが、私は女に全く興味が無い」


 相手を傷つけないように配慮した、最大限の台詞がそれらしい。

 とはいえ、それくらいで引き下がる女はいない。女に興味が無いという男ほど、堕ちた時ははまりこむものである。大抵は諦めきれずにまたやってこようとするのだ。が、中には変わった考え方をする人間もいる。その翌週、やってきたのはその女の兄だった。


「悪いが、男にも興味は無い」


 ベネディクトはあくまで平然とそう答えた。そこは、突っ込むべきところではないのだろうか。――ていうか、正気かみんな。金に目が眩んで正常な判断が出来なくなってるのは間違いない。


 そのため、彼の屋敷には、結婚の申し込み状や贈り物を押し込むためだけの部屋がある。私の使っている部屋と同じだけの広さがある部屋だが、なんと、そのほとんどが奇特な人間が送ってくる贈り物で埋まってしまっているらしい。天井まである書棚のしきりには、おそらく差出人の名前だろう、人の名前が彫ってあり、中には書状が整然と並べてある。床には宝石やら剣やら壺やら絵画が、やはり名前ごとに綺麗に並べておいてある。

 初めてそこに足を踏み入れた私は、ぽかんと口をあけた。


「なにこれ。全部、結婚の申し込み?」

「全部かどうかは、目を通したことがないから分からない。暇な人間がせっせと送ってくる代物を、暇な執事がせっせと並べているんだ」

「何のために?」

「さあ。手紙の重さで結婚相手を決めても良いと言った私の戯言を、まさか本気にしているわけではあるまいが」


 そういうと彼は、女性の名前が書かれた棚から無造作に手紙の束を取り上げた。ざっと百近くはあるだろうか。これが全て同じ差出人から届いたラブ・レターだとすると、何ともご苦労なことである。ある種尊敬の念を抱き、感心している私に、彼は手紙の束を押し付けた。


「何?」

「あっちの部屋に運ぶから、持っててくれ」

「運んでどうするの?」


 彼は私の疑問を聞きながらも、どんどんと私の手の上に紙を乗せていく。両手で抱えるようにしてそれを受け止めている私に、彼はあくまで平然と言い放った。


「厨房で、薪が足らないらしい」

「燃やす気なの!?」

「もちろん、通常、紙は燃やしたところで燃焼効率は悪い。だが、加工次第では十分に燃料として使用できるんだ」


 ――私が言いたいのはそういうことじゃない。

 そう言いたいのは山々だったが、言ったところでロクな回答は返ってこないだろう。何せ、手紙の厚みで結婚相手を決めるなんて戯言を吐く人間である。手紙の中に書かれた心のこもった文面など、彼にとっては灰ほどの価値も無いらしい。

 

 とは言え、手紙を燃やして作られたオニオンスープは、やはり普通に美味しかった。差出人の皆さん、ごめんなさい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ