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015.童貞を殺すサキュバスジョークはやめてください

 マッドさんは手に入った実験材料に満足していた。


 見目麗しい少年で裸に剥くのも触るのも楽しい。もちろん、切り刻んだりはしないが、実験材料は綺麗なほうがやる気もでるというものだ。


「おっと」


 本題と違うところで時間を使ってしまったことにちょっと後悔しながら、マッドさんは勇者さんのステータスを確認していた。マッドさんは聖人である。人間のステータスを確認することもできた。

 人間のステータスには履歴も記録されていた。それを見れば勇者さんがどんな人生を辿って来たのかある程度わかる。それに勇者さんは死んだ記憶がないままヴァルハラDCに現れた。つまり、履歴になんらかの記録が残っている可能性が高いということだ。


「とりあえず、古い記録から見ていくか」


 マッドさんはショートケーキを食べるとき、イチゴは最後に食べるタイプだ。楽しみはいつも一番最後に取っておくのである。それが人生を楽しく生きる秘訣だと思っていた。いや、もう死んでいるから人生ではないのだが。






 ボス部屋を出た戦士さんは一番最後に出てきた勇者さんを見て違和感を感じていた。一番長くいた戦士さんだからこそ気が付いたのかもしれない。


「勇者さん。どうかしたか?」


 そこにはヴァルハラDCに居たはずの勇者さんがいた。つまり、ヴァルハラDCにもいたし、S級ダンジョンにも勇者さんはいるのだ。同時に二つの場所に勇者さんは存在していた。


「どうもしませんよ」


「そ、そうか」


 短いやり取りにも違和感を感じたが、勇者さんは命の危険を感じた戦闘のあとだから、気が高ぶっていつもなら気にならないところも気になっているのだと結論付けた。


「みなさん、集まってください」


 賢者さんは持っていた帰還石を取り出す。半径五メートル以内のパーティメンバーをダンジョンの外へ転送する効果がある。すべてを知っている賢者さんをもってしても原理はわかっていない。ダンジョンの中でそこそこ見つかる魔道具のひとつだった。


「転送する前にパーティー編成をやり直さないと」


 勇者さんの提案に賢者さんはうなづく。パーティーになっていないメンバーは帰還石の対象外になってしまう。それに今はパーティーの最大人数である六人を超えている。二つのパーティーに編成しなおす必要があった。


「じゃあ、僕が三人をパーティーに入れるね。賢者さんはそっちのパーティーをお願い」


 勇者さんは未だに目を覚まさない三人の少女を指さす。


「いえ、私が第二パーティーに……って、勇者さんはもう脱退しているんですね」


 賢者さんがパーティーの編成しようとしてステータスを確認すると「勇者さんがパーティーを抜けた」というログが出ていた。


「じゃあ、勇者さんの周りに少女を寝かせましょう」


 少女を背負っていた戦士さん、龍さん、弓さんが賢者さんのいう通りに少女たちを寝かせる。


「では、勇者さん。帰還石をどうぞ」


「ありがとう。先に戻らせてもらうね。また地上で会おう」


「はい。私たちもすぐに戻ります」


 賢者さんは後に後悔することになる。地上に出ても勇者さんがいなかったのだから。






 エンちゃんは新しく稼働した仮想基盤のサーバーにオーケストレーションツールをインストールしていた。色々なオーケストレーションツールがあるが、やはり最大手の有料ソフトウェアが一番使いやすいと思っている。何より何か障害が発生したときに責任を転嫁できる先があるというのはエンジニアにとって精神的安定につながる。

 しかし、エンちゃんの所属しているスモールダンジョンはそこまでお金がない。ダンジョンひとつひとつの売り上げはそこそこ良いのだが、大手と比べたら規模が小さすぎるのだ。

 量産効果が働かないと利益は上がらない。それはダンジョンサービスも同じだった。


 営業さんはエンちゃんが作っている新しいダンジョンを大々的に売り出すつもりらしく、広告宣伝費の予算をかなり多く取っていた。そもそも仮想基盤自体も安いとは言えない金額で、下手をするとエンちゃんの十年分の年収を超えるぐらいになる。


 初期投資が大きい分、売り上げ予算も大きい。今頃、営業さんはヒーヒー言いながら仕事をしているはずである。


「エンちゃん。できた?」


「できませんよ。まだ完成は先だって何回言ったらわかるんですか?」


 営業さんはエンちゃんを背中から抱きしめるようにのしかかった。大きなおっぱいがエンちゃんの後頭部に当たる。正直、顔が自然ににやけてしまうような幸せを感じてしまう。

 どうにか顔を引き締める。


「心配なんだよ」


「何がですか?」


「完成予定日の翌日からダンジョンに入ってもらうように宣伝しているからさ」


「どうやってるんですか?」


 基本的にダンジョンは人間が発見し、最初に探検した人間が噂を広げることで段々とダンジョンに来る人間が増えていくものだ。だから最初はアイテムをばらまき、人間たちをたくさん呼び寄せる必要がある。普通は広告宣伝費はこのばらまくアイテムの購入に使われる。


「いや、今のダンジョンで新しいダンジョンの地図をばらまいてるんだよ」


「え、そんなことできるんですか?」


「まあ、今まで誰もやってないからな。俺のオリジナル」


 エンちゃんは営業さんを少し見直した。普段はエンちゃんをからかってばかりの営業さんだが、やはり凄腕なのだ。


「だから、絶対に予定日に完成させてくれよ。俺のおっぱいをもんでもいいから」


「え?」


「念のために言っておくけどサキュバスジョークだからな」


 エンちゃんは一瞬喜んでしまった自分を呪った。


「一気にやる気がなくなりました。そういう童貞を地に落とすようなからかい方はやめてください」


「わ、悪かったよ。今度、先輩さんのおっぱいをもませてもらえるように頼んでおくから、機嫌をなおしてくれ」


 先輩さんは営業さんと同郷の悪魔である。先輩さんと同じく大きなおっぱいを持つサキュバスだった。最近知り合った悪魔なのだが、話を数回したぐらいで、おっぱいを揉ませてくれるほど親しいわけではない。


「いや、無理でしょ。いいですよ。おっぱいは諦めます。それに仕事ですからちゃんとやりますよ」


 エンちゃんは意趣返しができて少し気分がよかった。それにエンちゃんも深夜まで仕事をしているから営業さんが深夜まで仕事をしていることを知っている。頑張っている営業さんを応援したい気持ちもあった。


「あ、ありがとう。じゃあ、よろしく」


 そそくさと撤退していく営業さんを見ながらエンちゃんはオーケストレーションツールの設定を始めるのだった。





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