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013.なぜS級ダンジョンは英雄を求めるのか

 勇者さんたちは、弱点である逆鱗を破壊し古代龍三体を倒した。


 ……はずだった。


「なぜ開かない!」


 このダンジョンのボスである龍は倒したはずだった。しかし、勇者さんたちが入ってきた重く大きな扉は開かない。

 みんなボロボロだ。そして、それだけに悪い予感がする。


「まさかとは思うが……」


 龍ちゃんは勇者さんに竜玉の鎖を掛けてもらい人間の姿に戻っている。龍の姿をしていると余分に体力を使ってしまうのだ。


「あまり考えたくはないですが、真のボスはまだ他にいるということですね」


 賢者さんは尽きてしまった魔力を回復させるために目を閉じて瞑想しながら口を開く。ゆっくりと大きな胸が上下していた。


「でも、なんの気配も感じない」


 ボスの部屋を隈なく歩きながら、何か仕掛けがないか探していた弓さんが戻ってきて答えた。


「どうする? 私が一度死んで扉を開けるか?」


「そんなことはできない」


 戦士さんの言葉をすぐに勇者さんが否定した。確かに誰か一人が死ねば扉は開くかもしれない。だが、死んだ瞬間に真のボスが出てきてしまうと最悪の事態になる。

 未だ解くことのできない緊張の中、勇者さんは考える。

 今までのダンジョンで似たようなことがなかったか。扉が開かない場合、何をしてきたか。


 そして、気が付いた。


「龍を解体しよう」


 ボスを倒した後に、解体することで強力なアイテムを取得できることがあった。まだ戦士さんや賢者さんと会う前のことだ。

 勇者さんは一番手前にいる黒い龍の腹に近づき、巨大な鱗を引きはがす。もう生命力がないからか、そこまで力を入れなくて引きはがすことができた。


「手伝う」


 弓さんが勇者さんの横について鱗を引きはがすのを手伝い始めた。


「俺も」


 戦士さんも加わった。龍さんと精魔さんは周囲の警戒に当たっている。


 勇者さんはある程度、鱗を剥がして露になった皮に剣を突き立てる。戦っているときとは異なり、すんなりと切り取ることができた。脂肪、筋肉と切り開いていき、内臓に達する。

 人間の内臓とは異なり、龍の内臓は魔力を帯びた魔石のように見えた。魔石の魔力で照らされた体内を隈なく見ていくと、ちょうど心臓にあたる部分に白く輝く真球の魔石が見えた。

 魔石は白に近ければ近いほど魔力の蓄積量が多く珍重されている。しかも、人間一人がすっぽり収まるサイズであり、その価値は天文学的な数字になるであろうことは素人でもわかる。


「これはすごい」


 弓さんが呆けていると、勇者さんは白い魔石の近くまでよじ登る。


「……」


 じっと見ていると、その中にうっすらと少女の影が見えた気がした。


「人が入っているのか?」


「龍ちゃん、戦士さん。ちょっと手伝ってください」


 勇者さんの声掛けに「なんだ、なんだ」と慌てて寄ってくるふたり。


「この白い魔石を下に下ろしてほしい。中に人が入っているみたいだから気を付けて」


「え、人?」


「わかった」


 疑問に思いながらも魔石を固定している骨を砕き、魔石を取り外すと、三人で慎重に床に下ろしていく。大きさの割に重さはそこまでなく、どうやら中空構造のようだ。龍ちゃんも戦士さんも勇者さんの「中に人が入っている」の意味を理解した。

 床に下ろされても白い光は変わらず、じっと見ていると勇者さんの言う通り人影が見える。水の中にいるかのようにゆったりと動いていた。


「どうするんだ?」


「割ってみよう」


「お、おい。大丈夫か? 割ったら真のボスとか出てくるんじゃ……」


「その時は、一緒にあの世に行きましょう」


「勇者さん……、わかった。俺も戦士だ。そのときはそのときだぜ」


 勇者さんは剣の柄で魔石の表面を叩いてみる。すると魔石は勇者さんの意思を受け取ったかのようにひび割れ、弾けた。

 同時に中に入っていた液体が飛び散り、勇者さんは目をつむる。

 飛沫を袖口で拭うと、何が出てきたか見ようとした……ところで、戦士さんに目隠しされた。


「戦士さん? 手をどけてくれますか?」


「ま、まだ、お前は見ちゃだめだ」


「え? なぜです?」


「裸なんだよ」


「誰が?」


「魔石の中の人が女の子なんだ!」


「あぁ……なるほど。納得しました」


 勇者さんは状況を理解するとそのまま待機した。弓さんと精魔さんが何やらわいわい言いながら女の子の裸を隠そうとしているらしい声が聞こえてきた。


 しばらく待つと戦士さんの目隠しが外される。目の前には大事なところだけ布で隠された半裸の少女が横たわっている。液体は拭き取られており、黒色の髪がしっとりと湿っている程度だった。


「……とりあえず、大丈夫そうですか?」


 勇者さんが見た感じ、女の子は寝ているだけのようだ。薄い胸がゆっくりと上下していた。

 半裸の女の子をじっくり見るのは気が引けたが、勇者さんは女の子に見覚えがあった。


「幼馴染ちゃん……」


 勇者さんが少年だった頃、のどかな農村に住んでいた。両親は農業をして生計を立てており、隣の幼馴染ちゃんの家も農家だった。農作業を手伝いながら勇者さんと幼馴染ちゃんは一緒に遊んだことを覚えている。

 だが、あの日、勇者さん故郷が魔物に襲われた日、幼馴染ちゃんは死んだ。ほかの村人も、勇者さんの両親も。


 生き残ったのは勇者さんだけだった。勇者さんが助けられた後に入れられた孤児院でそう教わった。


「知り合い……ってわけじゃないよな?」


「ええ、昔の知り合いによく似ている女の子です。でもその子はここにいるはずがありません。死んだのですから」


「そうか」


 戦士さんはこういうときにかける言葉を持っていなかった。戦いの中に身を置く戦士さんだからこそ、一緒に戦った友人が死ぬことは多々あった。それでもなれることはなく、戦士さんはそういうときに何を言ったらいいか未だに知らなかった。


「他の龍も解体してみましょう」


 女の子が黒い龍から出てきたのだ。そのほかの二体の龍から何か出てきてもおかしくはない。


 その後、金色と銀色の龍を解体すると同じように少女が出てきた。年の頃はよく似ており、明らかに違うのは髪の色だった。黒い龍からは黒い髪の女の子、金色の龍からは金色の髪の女の子、銀色の龍からは銀色の髪の女の子が大きな魔石の中から出てきた。


「どうやら扉が開いたようですね」


 賢者さんがボス部屋の扉が開くのを確認すると、全員が安堵の息をついた。それとともにS級ダンジョンを踏破したという実感が湧いてくる。

 最初は三人で挑戦し手も足も出なかったダンジョンだが、龍さんと弓さん、精魔さんの三人を加え六人になり、喧嘩しながらも次第に連携が取れるようになっていき、ボス部屋では古代龍が三体も出てきて「もうだめか」というようなピンチも乗り切った。


 最後に三人の少女が古代龍の魔石から出てきたのは驚いたが、勇者さんは概ね満足していた。これが最後の冒険となっても後悔はしないだろう。


「さあ、地上へ帰ろう」


 あとはボス部屋を出て帰還石を使えばすべて終わりである。


 勇者さんはボス部屋を出ていく仲間たちの背中を見て気が付いた。


 ボス部屋の扉が閉まりかけている。音もなく閉じる扉に仲間たちは気が付いていない。勇者さんは声をあげようとしてすべての音が消えていることに気が付いた。


 急いで扉をくぐろうとしたが、無情にも直前で閉まってしまう。ボス部屋は暗闇に閉ざされ、勇者さんが力いっぱい扉を叩くも扉はびくともしなかった。




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