011.英雄の死と復活と魂の複製
龍ちゃんが変化した赤真龍は古代龍を三体相手取って互角の戦いだった。
隙を見てはアタッカーの弓さんと清魔さんが矢と魔法で攻撃している。もし弓さんの矢と清魔さんの魔力が無尽蔵にあれば、このまま力押しも可能であっただろう。しかし、開始早々に矢も魔力も尽きる。
与えたダメージは少なくない。三体の龍のうち、一体はすでに瀕死であり、このまま待てば死が訪れるのは確実であろう。
だが。
「回復魔法が詠唱されています!」
賢者さんが古代龍が回復魔法を詠唱しているのを捉えた。
「キャンセルできないか?」
このまま龍に回復されてはまたふりだしに戻ってしまう。いろいろと消耗が激しい勇者さんたちとしてはどうしても避けたいところだ。
「私の魔力では抑えきれません。発動します!」
賢者さんの悲痛は叫びとともに瀕死の龍が復活する。すべての流血は止まり、傷口が泡を吹いてふさがっていく。回復魔法による再生能力の強化が今まで与えた莫大なダメージをないことにしてしまった。
「矢を回収する。支援をお願い!」
「わかった」
戦士さんが弓さんの後を追う。龍の足元に転がった矢の中にはまだ使えそうなものもあった。それを修理し、再度射撃に使おうというのである。もちろん、一度放った矢はゆがんでしまって狙い通りに命中しないこともあるだろう。ただ的は大きい。打てばどこかにあたるかもしれない。そして、当たれば万が一にも急所にあたる可能性もあった。
勇者さんは当初の作戦通り逆鱗の位置を確認していた。しかし、無数にある鱗のうち一枚だけが逆鱗だと言われている。激しく動く龍を観察してそれを見つけ出すのは大変な作業だ。現に勇者さんは一枚も見つけていない。
気ばかりが焦る。
今までのボス戦は敵の弱点がすぐに見つかった。勇者さんはそれを不思議に思わなかったが、ここにきて実感している。あれはレベル差で発生するボーナスだったのだと。
ここにいる三体の古代龍は勇者さんよりレベルが高いのだ。だから勇者さんは弱点も見つけることができない。ずっと観察していればいずれは弱点を発見することができるかもしれないが、その時には勇者さん以外の仲間は死んでいるだろう。
「賢者さん! カウント二十で極大氷結魔法を撃ちます!」
賢者さんが準備していた呪文を遅延発動させる。その間に味方は範囲外に脱出する打ち合わせになっている。氷結魔法を撃てば一瞬ではあるが、龍の動きが止まるはずだ。その間に弱点を見つけるしかない。
「十!」
その合図を聞いて龍の近くにいた戦士さんと弓さんが引き上げる。
「五!」
勇者さんと龍さんも最後の攻撃を当てて龍を押し返すと離れる。
「三、二、一」
強烈な爆縮が発生し、真空状態になると急激に周囲の熱を奪う。魔法の効果範囲にいる龍は瞬間的に凍り付いた。
「弱点を探す」
一般的に逆鱗は顎の下にあるはずだが、勇者さんには見えなかった。
「見つけました! マーキングします」
賢者さんが逆鱗にライトの魔法で目印をつける。そこまで来て勇者さんはやっと弱点を認識した。
「まずは回復魔法を使った奴から集中的に行きます」
「了解! ぼっこぼっこにしてやんよ」
『弱点さえわかれば敵ではないな』
戦士さんと龍さんが勇者さんに呼応した。
氷結魔法の効果は本当に一瞬で再び三体の龍が動き始める。勇者さんは気を引き締めた。