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010.英雄が得た権利を施行しない勇者さん

 S級ダンジョンの最下層に勇者さんはいた。


 ここに来るまでに何回トライしたか数え切れない。とにかく仲間同士の連携が取れず、ときには喧嘩をしながら、時には罵り合いながら、なんとか折り合いをつけてきた。

 ダンジョンに宝物は豊富にあった。マジックアイテムの効果は詳しい鑑定待ちだが、おそらくは過去最高の価値になっているだろう。それだけでもS級ダンジョンに潜って良かったと思っている勇者さんだったが、困難な状況になったことで、曲がりなりにもパーティーの連携ができるようになったことが一番の収穫だと思った。

 今までは力押しで戦ってきただけに連携が取れるようになると、それまで苦労していたダンジョンの強敵も余裕を持って倒せるようになったのだ。


「ついにここまで来ましたね」


 賢者さんは持っている杖で大きな扉を指した。ダンジョンに必ずある最下層のボスの部屋の扉だ。この扉の前には魔物が現れることは一切なく、ここで準備をしてからボスに挑むことになる。


 今回のアタックで勇者さんたちはボスに挑むつもりだ。


 ボスの部屋では帰還アイテムを使うことはできない。ボスを倒すか、ひとり誰かが死ぬか、どちらかで再度扉が開く。勇者さんたちは幸いにも今まで誰も死んでいないが、裏ワザとしては誰か死んで扉を開け脱出してから蘇生魔法を使うという手もある。

 ただボスは強敵だけにパーティーから一人欠けた状態で脱出するのは困難を極める。裏ワザを前提として戦わない方がいいことは明白だった。


「じゃあ、行くよ」


 勇者さんが先頭に立って扉を開ける。


 柱一本もない異様に広い空間。奥には赤く光るふたつの目があった。


 部屋の奥にはS級ダンジョンにふさわしく古代竜が待ち構えている。


「予想通りだな」


 戦士さんは大剣を構えて中に入る。それを見ても古代竜は動かなかった。じっと待っている。


「作戦通りにお願いします」


 賢者さんの立てた作戦はこうだ。最初に勇者さんと戦士さんが弱点である「逆鱗」の位置を確認する。龍ちゃんはその間、後衛への不意打ちを警戒する。


 そこを弓さんが攻撃をしかける。


 ヘイトが積み重なりターゲットが移ったところで、賢者さんにアタッカーを変更し、ドラゴンの気を引く。当然戦士さん、勇者さん、龍ちゃんが前線に出てドラゴンを食い止め、後衛三人を守るのだ。


 単独のボスにはとても有効な戦術だ。


 しかし。


「もう一体います!」


「こっちにも!」


 部屋の奥にいる龍だけに気を取られていた勇者さんは、両隣にいる龍を見て自分たちが圧倒的な不利な状況になったことを理解した。


 三体の龍はほぼ同じ大きさではあったが、中央にいる龍は金色、右は銀色、左は黒色だった。見た目だけで判断するのは難しいが、それぞれは異なる性質を持つ龍であることは明白だ。


「どうする?」


 前衛ができるのは三人。しかし、一対一と言えども一人で古代龍を完全に防ぐのは難しい。


「ふむ。ついにワシも進化するときが来たようじゃな」


 龍ちゃんは胸の前にぶら下げた竜玉の鎖というネックレスを見る。これは龍へ進化できる龍神族だけが持つことができるマジックアイテムだ。ある呪文を唱えることで龍へと進化できる。

 当然、龍になることで身体能力も魔力も激増し、その能力は古代龍に匹敵するようになるが、引き換えに自分の力では龍から元に戻れなくなってしまう。龍から龍神族に戻るには再び竜玉の鎖を首にかけてもらう必要がある。


 言葉にも音にもならぬ、呪文を発すると龍ちゃんはまぶしい光に包まれた。


 そして、光が収まるとそこには赤い龍がいた。


 光線の加減なのだろうか、赤い龍の鱗は燃える炎のような揺らめきがあった。


 炎の加護を受けた神龍。それが龍ちゃんの進化した姿だった。


『さあ、行くぞ』


 静かに響いた龍ちゃんの声に勇者さんは気を引き締めた。




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