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乙女の戦  作者: 葛葉
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09

目指すは週一更新です!!!

……元気いっぱいに言ってみました。

ブクマ、ご評価よろしくお願いします。

来年からもがんばれますように。

皆さま良いお年を。

 


 約束の日は平民街の中の大衆食堂、立地的には貧民街寄りにある店で昼食を摂った。

 言ってしまえばそれだけのことだが、中々に大変だった。




 彼女は行ってみたい店を全て回ると4軒になると言い、その日は行けるところまで行きたいが、とりあえず1軒目で昼食を取りたいと言った。場所を聞くと確かに治安の良い場所ではない。


「他の店も同じようなものです。お忍び用の服を着て来て下さい!」


 と別れ際に言われた。「お忍び用」のところでちょっとからかうような笑みを浮かべていた。要するに貴族とバレないような、ということだろう。巷で流行りの娯楽小説ではよく王子や王女が街に護衛もつけずに視察という名の遊びに行くらしい。それを「お忍びで」と言うとのことだ。

 公爵と言えど王都内は歩いたことはある。ただ、普段行く所よりも、同じ平民と言えど低所得者層が厚い所なだけだ。空気くらい読めるさ。



 ……と思っていたときが俺にもありました。その日は指定通りに平民の服を用意させ着て来たが、会うなりうろんな目で見られた。

 若草色のワンピースを着た彼女は、若い娘らしいアクセサリーなども着けているが、それらも流行の型だろうが貴族令嬢が身に着けるには品質が…といったもので、商家の中でも裕福な方の娘のようないでたちだ。

 俺の格好がそんなにハズしているとは思えないのだが……


 お忍びだから公爵家の紋のない馬車で迎えに行き、それも立派過ぎるので目的地から少し離れた路地裏で降りる予定で、中でとりあえずは向かい合って座り彼女が口を開くのを待つ。


「服は…60点なのですけれど……。」


 60点?

 そんな点数今までとったことがない。

 服でさえ不合格と言いたげであるのに、もっと悪いところがあるのか?


「お付き合い頂くのに申し訳ありません。

 ですがこのままでは例え2人で行ったとしても、いえ、むしろ公爵の方が人攫いに遭いそうな…」


 中止にしましょうか……と小さく呟くのが聞こえる。


 だから何が悪いんだよ!

 流れるのはむしろ好都合な筈なのに、何となく負けたような気がして悔しい。


「どこが悪いか具体的に教えてくれないか。善処しよう。」


「いえ、悪いというわけでは……」


 本当に、そんなことはありません。公爵様が悪いなどとは…滅相もございません。お忍び用ですね、バレバレな感じの…。

 何度問いかけても言葉を変えて繰り返す返答。しかしだからと言って良しとは絶対にしない。だんだんとイラついてくる。


「言えよ!」


「良いですね!」


「ごまかすな!」


「いえ!そうではなく…ちょっと雰囲気というか、滲み出るオーラが上品過ぎたので。顔の造作とかは変えられないとしても、言葉遣いを荒くすると良いですね!それにもう少し服を着崩して、良すぎる姿勢をだらけさせたりして…」


 なるほど。

 言いたいことはわかってきた。


「じゃあまず服をどうにかしてくれ。」


 そう!そうです!やさぐれ感がグッドです!!


 と、そう言いながらタイみたいなのを抜き取り、ボタンを外し、上着の前を開け、腕をまくり上げた。


「あとは顔…顔をどうにか……」と呟いている。


「失礼します」


 そう言うと俺の頭に手を伸ばし、髪をグシャグシャと掻き回した。長めになっていたため後ろに固めていた前髪が目にかかり鬱陶しい。


「何すんだ!」


 これも意味のあることなのだろうとはわかってはいるが、つい言ってしまう。

 しかしそれさえも彼女は「その仏頂面が最高です!眇めた目がチンピラ感も出してきましたよ!」と満足げだ。


「あとはこう、全身に定規が入っているような姿勢をやめて、お行儀悪くして下さい。」


 彼女を見ると、服も髪型も変に隠したり地味にしているというのではないが、高位貴族令嬢らしさは全くない。姿勢やなんかも下品ではないが、いつもの優雅さを感じる動きではない。質の悪い使用人みたいな…あぁ、そういうことか。

 最近入ってきた、口調も覚束ない見習い庭師を思い出しながら姿勢を変える。


「さすが公爵様!なんでもできますね!これなら大丈夫だと思います。さあ行きましょう!」


 ちょうど予定の場所に着き、外からノックの後、ドアが開けられる。彼女はエスコートを待つ事なく、さっと一人で降りてしまった。


「クレア!」


 腕を引き、突き進もうとする彼女を制止する。

 そして驚きに目を見張る彼女の肩を抱き寄せながら囁いた。


「アーヴィン、だ。『お忍び』なんだろう?」


 未婚の令嬢に対する距離感としては失格だ。

 だが平民同士の男女の距離感としては?


 驚きに目を見開く様に満足感を覚える。

 いつも置いてけぼりを食らわせられる身としては一矢報いた気分で、エスコートと言うには強引な力で彼女を引き寄せたまま歩き出す。


「アーヴィン…」


 小声で囁かれた声に前を見ていた目を向けると、羞恥に目を伏せながら頬を染める様が見えた。その後、いつも真っ直ぐに向けてくる視線をわずか揺らしながら見上げてくるその様に、何かがこみ上げてきそうになったが、慌ててまた前を向いた。



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