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乙女の戦  作者: 葛葉
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07

お久しぶりでございます。

 


 さて、何をしようか?

 彼女には今後もし姉に聞かれたとしても「楽しかった」と答えてもらわねばならない。


 女の喜ぶこと……ぶっちゃけそんなことはしたことがないが、適当に宝飾店に行ったり、最近話題のカフェに行けばいいのだろう。たしか貴族令嬢御用達の店は一つの通りに集まっている。行けばもれなく人に会うのが煩わしいが、致し方ない。



「クレア嬢、せっかくの王都だ。行きたい店にご案内しよう。どこか気になる店はあるかな?」


 なければ…と続ける前に応えがある。



「はい、ユグノー雑貨店、マルヌ小物店、マダム・ポピーの服飾店に行きたいと思っておりまして。よろしいですか?」


 機先を制された。

 しかもユグノー雑貨店以外は聞いたことがない。



「ではまず雑貨店に行こう。」


 その間に侍従に他の店の情報を集めさせよう。


「ありがとうございます!行きたいと常々思っていたのですが、中々地理に疎くて…助かります!」


 期待のこもった目で見られる。

 エフェクトを表すとしたらキラキラだ。

 ハードルが上がった。



 マダム・ポピーの店は貴族令嬢が着るドレスの店ではない。主な客層としては富裕層の平民といったところだ。だがそのデザイン性には高い評価があり、現在ジワジワと貴族女性に対しても売り上げを伸ばしている。そのため最近では邸内での普段着や、小物やアクセサリーであれば近所のちょっとした外出くらいなら着けるようになってきているらしい。むしろ親しい友人同士の内輪のお茶会などでは積極的に取り入れることがトレンドである。


 雑貨店に来たものの、商品を手に取って眺めこそすれ、一向に購入の気配がない。「気に入ったものをプレゼントする」という申し出にもにべもなく「いいえ、それには及びません。」とのこと。

 その後の服飾店でも同様かと思いきや、レースやリボンの付いた小物を声をかける間も無くダース買い。小物店ではまた商品を見るだけだったが、とてもショッピングを楽しんでいる女性とは面持ちが違っている。


 休憩にと誘うと、またも知らない名のカフェを指定され、馬車で行く。


「こちらのお店ではポテトパイとサツマイモのキッシュがオススメだそうです。」


 と言うため、それぞれと紅茶を注文した。


 店内はシンプルな内装で、新築ではないが、丁寧に使われてきた建物特有の居心地の良さが滲み出ていた。テラス席も多くあり、今日も天気が良いためそこそこの人数が外の席にいる。俺たちは店内の増築によって出来たであろう壁の出っ張りの影になっているひっそりとした席に座った。


 店員が去るなり「少し失礼します。」とノートを取り出し、真剣な表情で書いている彼女を眺めることしばし。注文の品が届いても無言のまま一向にペンの運びは変わらないため、自分のポテトパイに手をつけた。


 驚いた。甘くない。


 改めてメニューを見ると確かにポテトパイと書かれている。カフェメニューと聞いて勝手にスイートポテトのようなものを想像していたが、これはこれで美味い。

 いい意味で裏切られたと、そのまま食べ進めていると、いつのまにか何かを書き終わったクレア嬢がこちらを微笑みながら見ていた。


「終わったのかな?」


 首肯する彼女に何をしていたのかを聞いてみると、言わば店には市場調査のような形で来たらしい。冒頭のマダム・ポピーの服飾店の説明は彼女のものだ。続いてその他の2店の説明もされた。


「我が領地は辺境伯領であり広大で、農耕が主産業となっています。しかし戦争のない近年では、我が領地よりも国境を越えて隣国からの輸入作物の方がかえって輸送距離が短く鮮度が高くなり重宝されたりしています。

 新たな産業としての繊維業に舵取りをして来ましたが、その業績も今は良いのですが、このままだと頭打ちになるでしょう。新たなニーズの拡大のヒントを探しに王都に来たのです。」


 え?

 商売のため?


「今年デビュッタントだからではないのか?」


「まぁ父のご学友の方のお屋敷にお世話になる口実にもなりますのでデビュッタントも致しました。私は領地の方でやってもよかったんですが、小さな頃から可愛がっていただいている方で、『娘がいないから』と楽しみにしてくださっていて…」


 デビュッタントをついでのように言う目の前のご令嬢に驚く。


「クレア嬢はお父上を手伝っているんだね。」


 感心したような声を出すと、曖昧な笑みを浮かべた。

 最近の辺境伯領の経済的はめざましいものがあった事を思い出す。我が領とは幸い競合する品がなかったが、特に昨シーズンなどはその話題で持ちきりで、辺境伯を夜会で取り囲む輪が出来ていた。その影響もあり今年のクレア嬢は様々な夜会へ招待もひっきりなしだったのかと納得もした。


「そうか……むしろ、主導で行なっているのはあなたか。」


 一種の確信を込めて言うと一瞬瞳を揺らめかせるも肯定した。


「……未婚の女がとお思いですか?」


 彼女にしては珍しく歯切れが悪い。

 確かに貴族の令嬢にとっては良い嫁ぎ先を探し、出来るだけ家の利になる結婚をする事が最重要なのだろう。

 これはもう常識すぎて、言うに能わずだ。

 結婚後も夫の領地の経営を妻が行っているということはあれど、公然の秘密としておいて表立っては夫の名前を出す。未婚女性が行うことが是非を問う以前の問題であり、知られれば攻撃されないわけはないだろう。


「いや、男女、年齢など関係なく才能というものは降ってくるんだろうな。そしてそれに努力を上掛けすれば……非難する意味がわからない。」


 男であったのに、親父の死後年若いという理由でいわれなき中傷や被害にあった。そんな俺がどうしてクレア嬢を貶める事ができるというのだろう。


 彼女はジッと俺を見つめた後、やっと安心したように微笑んだ。




流行りのインフルエンザではありませんが、体調を崩していました。

皆様もどうかお身体をご自愛下さい。

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