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乙女の戦  作者: 葛葉
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04

お読みいただきありがとうございます。

第4話も、お楽しみいただけましたら嬉しいです。

 


「キャベンディッシュ公爵家に嫁ぎます。

 公示は明日、ぴったり3週間後に婚約式、半年後に結婚です。」



 決定事項のように姉は言った。


「姉上!?」


「もうマクシミリアン様との話はつけてきました。あちら側のことはあの方に任せて大丈夫。当主として婚姻の許可をちょうだい、アーヴィン?」


「そんな…どうして…」


 そう言いつつわかっていた。

 我がスペンサー公爵家と筆頭公爵家の座を争うキャベンディッシュ公爵家。

 兼ねてからの因縁の仲だ。

 お互いに大掛かりな争い事こそ避けているものの、宰相位一つとっても現在はあちらの当主、その前は親父、さらにその前はあちらの先先代の当主と常にギリギリの攻防を続けている。


 元々姉とあちらの当主、キャベンディッシュ公爵マクシミリアンが恋仲であったなんてことはない。

 この上ない政略結婚だ。一番の敵を味方に変え、かつ強力な後ろ盾も得る最上の策。


 姉は不甲斐ない俺のため、屋敷の使用人や領民達の生活を守るために一人で敵陣に飛び込んでいた。

 なんてことだろう。

 自分のことで手一杯になっていて、悩まなかったはずはないのに、もうたった一人になってしまった家族の様子にすら気付かなかったなんて。

 家族とは、ある日突然永遠に離れてしまうかもしれないものだと、つい先頃知ったばかりだというのに。

 姉は、自己嫌悪に打ちのめされて膝をつきそうになっている俺に、慈愛を込めた眼差しで言った。



「ねぇアーヴィン……だって私、もう20歳なのよ?」



「…………は?」


 いきなりなんだ?

『どうして』とは、言った。

 え?それが答え?

 驚きに、じんわりと滲み出てきていた涙が引っ込んだ。



「まぁ!忘れてたのね!……でも無理ないわ、アーヴィンは忙し過ぎ


「姉上!話を逸らさないで下さい!」


「いえ?逸らしてないわよ?」


 逸らしてない?

 何から?あぁ、姉上の結婚の話だ!


「そうじゃなくて……、そりゃあ一般的には20歳って行き遅れになる


「アーヴィンヒドイわ!」


「姉さん!」


 姉さんはふふっと笑った。その時俺は肩の力が抜けていたのに気付いた。

『姉さん』なんて呼んだのは何年ぶりだろう。



「そうねアーヴィン。私、父様と母様に『恋愛結婚しなさい』って言われて、公爵令嬢なのに婚約者も勝手に決められたりしなかったわよね。そのことに感謝してるのよ。」


 懐かしむような遠い目をしていたずらに椅子の肘掛をなぞる。

 政略結婚が当たり前の貴族の娘なのにね。でも…と続けたのは


「この環境で恋愛ってぶっちゃけ無理じゃない?てゆーか無理なのよ。だって男たちはみんな自滅するか、足を引っ張り合うか、信者になって遠巻きになるかで、私にたどり着く前に居なくなるんだもの。

 贅沢を言ってるんじゃないわ。もはや物理的なレベルで無理なのよ。

 私には行かず後家になる未来しか見えない…!

 そしたら、もう20歳の私にとっての優先順位って恋愛よりも結婚なの!!結婚して子供産みたい、そんで出来るだけ可愛い子!!!」


「ね、姉さん?」


 勢いに押され、涙が引っ込んだ代わりに心の冷や汗的なものが出てくる。


「マクシミリアン様ってこの国で一番のイケメンじゃない?子供もきっと可愛いわ。」


 酷く即物的かつ俗物な事を言う姉は、外側だけは夢見る乙女のように愛らしい。


「でも姉さん!あいつは女関係の噂も絶えないし、あっちの家に入ったら、今のウチの状態から足元を見られてどんな扱いを受けるか…」


「アーヴィン、大丈夫よ。私は母様から色々良い所をもらったわ。

 傾国と謳われ、男爵令嬢から筆頭公爵家夫人まで上り詰めた母様と、瓜二つのこの顔と体


「姉さん!」


「最後まで聞きなさいよ。ここで切ったら単なる下品な話じゃない。一番は強く生きれるこの性格よ。母様の教えはあなたに聞かせられない話ばかりだったけど、今思えば聞かせてあげればよかったかもしれない。

 あなたは真面目なところとロマンチストなところが父様に似ちゃったもんね。…ま、何て言うか、だから大丈夫よ。私、一番好みの顔の男の所に嫁ぐんだから。」


 そう言って笑った姉は、やはり姉だった。

 背を越しても、当主になっても、守っているつもりで守られている、俺の敵わない姉だった。




 翌日顔を合わせた義兄になる男は丁寧だが事務的な態度で婚姻契約書を作成し、公示のための手続きに向かった。内容は極めて適切なもので、せめて時間をかけて読んだがどっちにしろサインするしかなかった。

 しかしその事で諸々の問題は全て好転し、逆に擦り寄って来る人の対策に追われているうちに結婚式を迎えた。



 その日約半年ぶりに会った義兄になる人物は、明らかに対外的なポーズではなく姉を大切にし……いや、それでは足りない。

 明らかに姉にデロデロにベタ惚れしていて、俺は全身に鳥肌が立った。



「……姉さん、何したの?」


 ややひきつりながら親族控室で2人きりになった時に聞くと


「何も?まだ処女よ、私」


 と返ってきた。

 魔女め、本当に何をした…。



 エスコートしたバージンロードは胸を張って歩いた。



十二国記読みたい…

読みたい、けど時間がない。

&読んでいると過去作品も読み返したくなってくる。

そしてあの普遍性たるや!

さういふものにわたしはな…りたいけどなれない。

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