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乙女の戦  作者: 葛葉
3/9

03

よろしくお願いします。

 


「ごきげんようスペンサー公爵。本日はお時間をいただきましてありがとうございます。」


 翌朝には作法に則った先触れの手紙が届いて、いつがいいかと問われたが…面倒ごとは早いところ潰してしまおうとその日の午後に指定した。


 場所は我が家の応接室。

 人によっては威圧感を覚える重厚感のある調度品。

 飾られた花と茶器によってのみ季節に合った軽やかさが感じられる。

 用意したお茶を一口飲んだところで、とりあえず諦めてもらう方向で行くのでまずジャブを一発。


「こんにちは。ところで貴女のお名前を聞いてもいいかな?」


 本当は夜会で何度か数人を交えてでだが話したことはあるし、記憶力はいい方だ。

 何より先触れの手紙には名前が書いてあるんです。

『貴女の名前を覚えられないんですよー興味がなくて』アピールだ。


「はい、クレア・ザムザと申します。よろしくお願いします。」


 満面の笑みつきで返された。


 読めない。

 これは気にしてないフリなの?

 ホントに気にしてないの?

 どっちだ?

 でもどっちにしろ厄介な感じがする。


「クレア嬢、では本日はどのようなご用件でしょう?」


「ご結婚相手に求める条件について伺いたいと思いましてお邪魔しました。」


 どこまでもストレートに打ち返してくる。


 この相手には何かとペースを乱されがちだ。

 こちらが主導権を握らなければなんだかとても嫌な予感がする。


「一言で言うなら…」


 そこで一旦切り、紅茶を口に含む。

 相手が口を閉ざし、わずかに身を乗り出し、瞬きもせずにこちらに意識を集中しているのを確信しながらゆっくりと微笑みを作る。


「姉のような人、だね。」




 ✳︎✳︎✳︎




 7年前、両親が同時に他界した。領地視察の帰りの馬車での事故だった。

 当時俺は18歳で、領地経営には成人前から携わること数年で、中々良く回していたと思う。民からも周囲の貴族からも評判は上々だった。


 だがそれはあくまで父親の庇護下でのことだった。


 俺の名で行われた施策は真に俺の発案で、親父の許可は取れどもほぼそのままの形で実現されていた。しかし親父の死後、以前と同様に領地を回そうとしても上手くいかない。

 経験の少ない若造の提案に乗るには不安があると、頑固ジジイ共が手を引いたのだ。


 それだけですぐに体制は崩れたりしない。だが別の伝手を辿り一つ物事を解決しても、以前に比べたら若干スピードが落ちる。その事に「それ見たことか!」と同調するものが居れば、また次の案件が滞る。そうして徐々に悪循環に陥っていった。


 すぐに困窮するというわけではない。そんな余裕のない経営はしていなかった。一つ一つ、親父の生前よりも滞っているだけで、大きな失敗はない。それならば表立って責める隙とは言えず、数年間このままの状態を維持できれば周囲の信頼も取り戻せる見通しだった。


 しかし全ての事柄で「以前の通りに」の指示で上手く行く保証がない状態。そのためそれらを期日よりかなり前倒ししてトラブルの発生ありきでこなさなければならないこと。


 そして初めて、全てを己の責任のみで行い、失敗できないというプレッシャー。


 毎日が綱渡り状態でこんな日々を数年間過ごすというだけでも絶望的なのに、ここで足の引っ張り合いを仕掛けられたら沈むことは確信していた。

 そしてうちは公爵家だが、もう何代にも渡って折り合いが悪い公爵家がある。

 筆頭公爵家の名を奪い合い、歴史的にも、王家との縁も同程度。さらにあちらの先代の当主は色ボケのボンクラだったが先先代の手によって数年前に襲名した今代の当主は28歳と若いが手腕は確かで、かつその冷酷な性格にも定評があった。


 そんな男がこれを機に仕掛けて来ないわけがない。

 いや、実際には合理主義のあの男が自ら手を下す程の価値はないと判断するだろう。ただこちらへの負の感情をチラと見せるだけで、取り巻き達は我こそはと寵を競うように仕掛けてくるだろうから。



 そんな中、ある日姉が言った。


「キャベンディッシュ公爵家に嫁ぎます。

 公示は明日、ぴったり3週間後に婚約式、半年後に結婚です。」



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