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4話 同僚はくだを巻く

 田中はサチ子ママが背を向けるのを確認した後、肩をすくみながら意味深な笑みをこちらへ向けてきた。

 その顔には“ドンマイ”と、書かれている気がして、僕は苦笑いで応えた。


 さすがすすきのといったところか、こんなアンダ―グラウンドな場所があるなんて夢にも思わなかった。

 というかこの店は一体なんなのか?

 最近のニューハーフバーのように綺麗に着飾ったキャストが接客する店とは違い、昔からあるオカマバーを踏襲しているという認識でいいと思うが・・・・・・。

 そもそも、何故こんな客も来なさそうな路地裏に店を構えているのか。

 よく潰れないな、常連さんで成り立っているのか? それとも店になにか仕掛けでもあるのだろうか?


 僕は奇っ怪な店をきょろきょろと見廻した。

 壁には昭和の香り漂うポスターが飾られ、照明はブリキ製のランタン。インテリアは振り子が揺れるアンティークな置時計に、絵本のなかでしか見たことのないようなレンガの暖炉が隅に置かれている。

 店内はレトロな調度品がアクセントとなり、ノスタルジーな味わいを醸し出している。

 まるでこの空間だけ時代に取り残されたかのようだ。

 

 察するにサチ子ママは無類のレトロ好きに違いない。

 サチ子ママが凝った内装を施すうちに、ほかのレトロ好きにウケてヒットしたのではと、僕なりの仮説を立ててみるが、客が少なすぎるので却下した。


 僕がこじつけに近い推理に思案を廻らせていると、


「は―い、お待たせしました」と、サチ子ママがやけに甘ったるい声色で、酢の物の“お通し”と注文した酒を持ってきた。


 田中は待ってましたと言わんばかりにビールジョッキを掴み、


「じゃあ、何度目になるか分からないけどカンパイ」と言ってグラスを突き出した。


 グラスが軽妙な音をたてて、なかの酒が躍った。

 僕はとりあえず運ばれて来たカルーアミルクを口に運んだ。

 カルーアミルクの口当たりの優しい甘さが全身に沁みわたり、後を追いかけるようにアルコールが全身に溶けて広がっていく。

 酒を酌み交わした後、僕たちは仕事の話、特に共同プロジェクトについて大いに語り合った。

初めはああだ、こうだと忌憚のない意見を出し合いつつ、互いの見聞を広める有意義な時間であったはずだが、いつしか話しは脱線していき、ついには田中がくだを巻き始めた。


「だ~からあいつ等は駄目なんだよ、ったくよぉ、話を聞いただけで分かった気になっちゃってよお」


「うん、そうだな。その通りだ」


 僕は心のなかで溜息をついた。一体なんでこうなってしまったかなと。


「で、俺は言ってやったわけよ、問題は会議室で起きているワケじゃない! 現場に起きているんだってな。それで~」


 その武勇伝はもう四,五回は聞いて耳に胼胝(たこ)だ。

 あまりに酷いので僕はむくむくと湧いてきた悪戯心を抑えきれなかった。

 田中が発した「この契約が決まれば~」に対して思わず、


「本当にできるのかよ?」と言い放ってしまった。


 僕のからかいにムッとした田中はジョッキをテーブルにドンと置き、


「なにがなんでも契約をもぎ取ってやるさ。これが決まれば赤字続きだったウチの会社は一躍業界のトップに躍り出る」と気炎を上げた。


 うちの会社の採算が取れていないことは周知の事実で、今回の共同プロジェクトも苦肉の策として、我が社が積み上げてきた秘中の秘であるノウハウを開示することを条件に技術提携したのだ。

 だがしかしこの件がうまくいけば、トップに躍り出るかはさておき、起死回生の一着になることは明白だ。そうなれば僕の給料も跳ね上がり将来は安泰だろう。

 僕は自分と我が社の未来に思いを馳せながら、田中との会話に相槌を打っていると、いつどのようにしてそんな話題になったのか、田中は人工知能について熱弁を振るっていた。


「これからの時代はAIだ。AIを制したものが世界を制する」


「じゃあウチにも社の導入するか。それで面倒な業務を全て委託してしまえばいい」


「そうなるとお前は真っ先にク~ビだろうがな、はっはっは~」


 田中は高らかに笑った。

 本人には悪気がないのかもしれないが、田中は時折ヒトを見下す言動をとる節がある。そのためか周りから反感を買うことも少なくない。

 現に僕は田中の言動にイラっとした。


「・・・・・・ふんっ、優秀な田中様には無縁だろうがな」


「そう拗ねるなよ、ほら、アレを見ろよ」


 議論がひと段落ついたところで、田中が顎で合図した。

 話に夢中で全然気が付かなかったが、いつの間に入店内してきたのか風変りなドレスを着た、髪の長い女性がカウンターの片隅に座っていた。

 

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