あ、転職したよ。
「は!? もう一度聞こえるようにクリアな声質で言ってくれない?」
「だ・か・らー転職したった! 雪花ちゃんの言う通りに、やりたくもないことを選んでみたよ」
「やりたくもないことをやれと誰が言ったって? そうじゃなくて、私が言ったのは習い事とか、普段あんたが興味の無さそうなことをやってみたら? って薦めただけで仕事までそうしろと言った覚えないんだけど?」
「あ、あら? そうなの? やー、就職しちゃったんだよね。やりたくないわーマジで」
「バカッ!! それで、いつから? あんた部屋にいるの?」
「いるよん。あ、来る?」
「待ってろ!」
んー……相当怒ってた。さすが長年の友達だね。聞き間違えたんじゃなくて、理解を間違えてしまったんだなぁ。でも仕事は仕事だし、収入も上がるし良しとしよう! やりたくないわー……。
「シュウ! あんた、バカだと思ってたけどバカだった! 勘違いのするところが違うでしょうが!」
「ですよねー」
「で、何の仕事?」
「公共性のある……ごにょごにょ」
「はっきり言え」
「ゴミ収集の集積所です。ええ、社会のお役に立てます」
「あんた、仮にも女子だろ! 何で、そんなオフィス職から作業系を選んだ? 言え!」
「やりたくないなーって思ってたから、それにしたよ。だって、雪花ちゃんがー以下略で」
やりたくないけど、人のお役に立てる仕事であることに間違いはないわけで。収入もいいし、やりたくなくてもやるしかないんじゃないかな、と。
「人のせいにすんな! で、いつから?」
「週明けからかな。や、合わなかったらやめるよ? 許して下さいませ」
「蓄えあるの? あんた、家賃とかは払えてるみたいだけど、通販地獄抜け出してる?」
「イイエ。ポチポチと注文しまくってますよ?」
「やめるなよ? 私は忠告したぞ。あんた、いい歳して女捨てるなや……友人としてハズいわ、マジで」
「ご、ごめんね。でも、頑張ってみるから! もしかしたら彼氏出来るかもだし?」
「自分より年上がいいならそれでいいんじゃないですか?」
「ま、待って、見捨てないで下さい~どうすればいいですか?」
唯一、連絡を取りまくってる女子友の雪花に見捨てられたら、マジでやばい。
「……とりあえず、仕事行け。そしてとりあえず、辞めちゃ駄目。いい?」
「う、うん。やりたくないけどやってみる」
「あんた、それでも今年でサー……ふぐぐ」
「や、そこは黙っててね」
そんなわけで、転職を決めて友達を失いそうになりかけたこの日が終わりました。