彼氏って何だっけ?
動いても動かなくても、変わらなさすぎる平凡な日常。これは、一般的な一般人過ぎる、彼氏なし数十年目で一人暮らしの女が、ある日を境に劇的に変わっていく生活記録の物語。
「おはよーございます」
「おはよーさん! いやに機嫌がいいけどなんかあったのかい?」
「いえいえ、何にもないです。挨拶だけでも機嫌よくしとかないとやってられないなーと思ってるだけなんで! なので、どうか……お気になさらずに~」
「そ、そうなんだ。それならそうしようかね。まぁ、柊花さんは家賃滞納したことない優秀な住人だし、文句の付け所もないしね」
大家さんの言う通り、わたし沖 柊花は、年齢は秘密。そんな自称女子は、家賃だけはきちんと納めてる女だ。それが当たり前ではあるけれど、なにせ同じ所に数十年も住んでいると、滞納しても許されてしまうくらいに大家さんと距離が近くなっているのだ。
動こうと思えば動けたよ? でも、交通手段いいし周辺にスーパーも病院もコンビニも溢れてるんですよ? やっぱり動きたくないじゃないですか。なんてことを、引っ越ししまくる友人に自慢? している。
「で、シュウは仕事も変えていない……と?」
「変える必要ある?」
「や、本人がいいならいいんだけどさ、あんたならもっと収入いい仕事出来るし、そしたら彼氏出来そうな気がするんだけどな~」
「彼氏? なんすかそれ……しばらく聞いたトキないですね」
「あーうん。私が悪かった。すまん」
そんな感じのやり取りを数十年ほど繰り返してる。彼氏、ナニソレ? どうやったら出来ますか? とりあえず、収入上げてもっと部屋が広くて、お洒落しとけば寄って来るんですかね。
なんてことの自虐的な呟きをずっと繰り返してた。でも、トモダチは多いけど。男女問わずに。
「まぁ、他人事って言えばそれまでなんだけどさ、外に出るとかもしくは何か習い事とか、やってみようとか思わないモノをやってみればいんじゃない?」
「思わないモノを何故やる気になるの?」
「意外過ぎるし、知らない、知りたくも無い所に案外、彼氏ってかイイ感じの男が転がっているもんだと思うよ? やってみ?」
「へいへい。努力してみますよ。ありがとね、雪花ちゃん」
「うん、また連絡してよ。彼氏欲しいって気持ちはあるみたいだし、紹介するからさ」
「ありがとん。おやすみー」
「おやすみ、シュウ」
彼女は、和木 雪花本人自称の28歳。イベントバイトで仲良くなっての長年の友達。暇さえあれば……わたしはいつでも暇だけど、相談に乗ってもらってる仲。
彼氏は欲しいです。でも、動きたくないんデス。どうすれば出来ますか? そう思いながら、今日も一日が終わります。