ローシェルティア号(2)
乗船チケットを買い、船に乗り込む。
客室は個室になっており、居心地の良さそうな空間が広がっている。
私は自室に荷物を置き、窓を開ける。
外にはつい先ほどまで私がいた港が見え、そこには少し吹っ切れたような表情をしたエリンの姿があった。
私はきっと、いろいろな感情が混ざり合った、複雑な顔をしていただろう。
「フィーナ!!」
遠巻きながら、エリンと目が合う。
「私、絶対貴女を捕まえてみせるわ!!世界中のどこにいたって必ず見つけ出す!!」
つい昨日仲良くなったばかりのロクでもない私なんかに何を言っているんだこのお嬢様は。
それほどまでに、それほどまでに。
「だからそれまで、好き勝手やってなさい!!」
ふふっと吹き出してしまう。
好き勝手て、言ってくれるじゃないかこの世間知らずめ。
私がどんな思いで旅をしているのかも知らずに。
「エリンこそ、次会う時までにはまともに魔物ぐらい倒せるようになっときなよ。」
「なっ、なぁっ!?」
そこまで言って私は窓を閉め、そして詠唱する。
エリンには貰ってばかりだった。
いくら他人との友好を避けてきたとはいえ、このまま素っ気なく去るだなんて私にはできない。
恩を返さなければといつまでも頭に置いておくのは、面倒だから。
あくまで、それだけだ。
詠唱を終え、窓の外を見る。
エリンは目の前に現れた紙と箱を見て、目を白黒させていたが、すぐに私の魔法だと気付いた様子。
私に向かって笑顔で手を振る。
私もそれを見て、軽く手を振り返す。
プオーと間抜けな汽笛とともに、出港の時間は訪れた。
「はぁ、らしくなかったかな。カッコ良く去って行くつもりだったんだけど。」
誰にも何も言わず、何も残さず、静かに街を去る。
という私のポリシーに反する、らしくない旅立ちだったが、まぁそれもたまには悪くない。
港を出て暫くしたところでコンコンと個室のドアを叩く音が個室に響く。
予期せぬ音に私はビクリと体を強張らせ、はいと返事をした。
「お寛ぎの所失礼。私はこのローシェルティア号の船長をしているソーンと言う。」
「お世話になります。それで、その船長さんが何のご用事で。」
「この船に関する案内をして回っているのだが、今時間は空いているだろうか。」
「ええ、構いませんよ。」
船長ソーンが言うには、この船に食堂はなく、料理や酒は全て客室へ運んで来るシステムなのだそうだ。
必要になったら客室のドアの横にあるヒモを引き、注文を書いた紙をやってきた船員に渡してオーダーが完了するという。
そしてこの船の行き先は、城下町グランピレオであるという。
「わざわざご苦労様です。」
「いえ、こちらも失礼した。なにかあれば船員まで申し付けてくれ。」
そういってソーンは去った。
部屋には再び静寂が訪れる。
「城下町グランピレオか。初めての町だなぁ。」
放浪の旅を続けている私だが、まだ行ったことのない町も数多くあり、そこへ行くと想像しただけでも何か体の奥からジーンと湧き出るワクワク感のようなものを感じる。
城下町というぐらいだから、さぞ栄えている賑やかな町なのだろう。
「はぁ、賑やかなの嫌いじゃないんだけどあんまり得意じゃないんだよね。」
そう言って私は紙に麦酒と書いてヒモを引いた。