港町ミッドネル(5)
「待たせたわね。」
「いや、別に私としては来ていただかなくても良かったんですがね」
例の金髪娘のご登場だ。
酒場の繁忙は落ち着き、客もまばらになり、街の冒険者たちが外へ活発化した魔物を狩りに出かける時間である。
「あら?ここで貴方を切り身にしてお客に振舞ってもいいのよ?」
「その節は誠に申し訳ありませんでした。」
「まずそのお酒から手を離しなさいよ!」
ペコリと頭を下げ謝罪を述べたのだが、どうやらグラスから手が離れていなかったらしい。
分かり易く頰を膨らませてプリプリ怒る金髪娘は私の横に着席し、マスターに飲み物を注文する。
「フィーナとか言ったわねあなた。」
「そうですフィーナです。」
「なんで私を助けなかったのかしら?」
如何様にして本題から逃げるか考えていたというのにいきなり切り込まれてしまった。
金髪娘はその出で立ちに反して足を雑に組みながらマスターから受け取った酒をガブ飲みする。
いけませんよお嬢さん、見えちゃいます色々と。
「いえその、邪魔しちゃ悪いかなって思って。」
「貴方にはあれが魔物とのじゃれ合いに見えたのかしら。」
いけませんよお嬢さん、グラスから聞こえたらいけない音してます。
どうすれば穏便に切り抜けられるか頭をフル回転させていたところ、突然大きな溜息と共にサッとその美しい金髪をかきあげる正面の鬼娘。
「もういいわ、いくら責めたって過去は変わらないし、私もこうして無事にお酒を飲めてるわけだしね。」
「寛大な心に感謝を。しかしまた、どうして街の外に?」
「私も一応は冒険者なの。そりゃ外にだって出るわ。ギルドに冒険者登録だってしてるし装備だって一通り揃えてるんだから。」
誇らしげに言い放つ彼女の側には細身の剣。
しかし一応と言うからには酒場での勤務が生活の殆どなのだろう。
「紹介が遅れたわね。私はエリン・フューリスドナイ。フューリスドナイ家の次女よ。」
「フューリスドナイ家?」
「ひょっとして初耳?やめてよ恥ずかしいじゃないの。」
その日暮らしな生活をしている私には残念ながら初耳な名前だった。
しかしその口ぶりからして、けっこうな有名所なのだろう。
「フューリスドナイ家はこの辺りじゃあ有名な超名家だぜ。」
マスターが横から料理を置きつつ言う。
エリンとの会話に集中していたせいか、気がつけば目の前には注文した残りの品々。
色の美しい魚や野菜が目に訴えかけてくる。
「それなら酒場で働いたり冒険者なんてやんなくても生活できるんじゃ?」
素直な疑問が口から出てしまうが、すぐにしまったと口を抑える。
そうしなければならない、好ましくない理由があるからこそこうして働いているのではないか。
ああ、とマスターとエリンはちょっと気まずそうに目を見合わせる。
「まぁ、その、察してくれると助かるわ。」
「無神経だったわ、ごめんなさいね。」
一変して酒場の一角が暗い雰囲気に包まれてしまった。
人とまともな交流をしてこなかった弊害は、場所を選ばず突然訪れる。