港町ミッドネル(2)
腹ごしらえを済ませた私は、先程の買い物で軽くなった自分の財布を見て唸る。
いくら物価が安いとはいえ、このままでは所持金が尽きてしまいそうなほどである。
今夜の宴代と宿泊料、明日の朝ごはん代ぐらいまでは確保しておきたいところ。
私は町の外へ飛び出し、魔物が活発化してしまう日没前に事を済ませることにした。
ここで突然だが、私のいつもの超楽チン狩りスタイルをご紹介しよう。
1、まずは地面に魔物の大好物であるお肉を置く。
2、それを中心に直径人10人分ぐらいの魔法陣を描く。
3、あとは見てる。以上!!
私が描いた魔法陣の効果は、設置型トラップのようなもので、魔物が陣の中に侵入すると忽ち体を電撃が襲うというものだ。
中心のお肉に魅かれてやってきた魔物は次々に蒸発していき、その場にはアイテムやお金が散らばる。
「いやー、一体ずつ短剣でちまちま倒すのなんか疲れるし効率悪いっすわー」
そんな独り言を漏らしながら太陽が沈む様をのんびり見届けるのが密かな楽しみでもある。
しばらくして、アイテムとお金で魔法陣が見えなくなる頃に私は帰り支度をする。
誤作動防止のため魔法陣を消し、アイテムを回収する。
そんな時ふと何処からか女性の叫び声が聞こえたものだから驚いて周りを見渡す。
するとかなり遠くの方で魔物に追われて走り回っている冒険者がいるではないか。
細身の剣をブンブン振り回し、魔物を寄せ付けまいとしているが、それでは魔物から身を守ることなどできない。
「初心者か。かわいそうに。」
見てないフリをした。
私はアイテム回収に戻る。
「助けてえええええええ!」
先程よりなんだか声が近くなっているような気がしたが、私は気に留めることもなくせっせとアイテムを拾い上げる。
「タスケテ」という名の攻撃魔法なのかもしれないし狩りを邪魔しちゃ悪い。
「ちょっ、助けっ、聞こえてるでしょ絶対それ!」
「やだぁ、本当にこっちに向かってきてる」
お嬢様っぽい金髪ウェーブの冒険者が涙目でこちらへ向かって全力疾走している。
え、ちょっとまって魔物増えてない?魔法陣消しちゃったんだけど。
「仕方ない。こういうのは得意じゃ無いんだけどね。」
私は溜息まじりに言うと右手を金髪冒険者に向け、魔法の詠唱をはじめる。
金髪冒険者もそれに気付いたのか、走りながらもパァッと表情が明るくなる。
もう少しで私のところへたどり着くというところでカッと目を開き、
「それじゃ、町の入口あっちだから。そこまで頑張ってね。」
「えっ?」
そう言って自分だけ透明化した。
昔から透明化の魔法は詠唱が必要な上に成功率もよくないのであまり得意じゃないのだが、今回は上手くいったようだ。
「ええぇぇぇぇぇ!?なんでぇ!?」
そのまま休むことなく町の入口まで走る金髪冒険者を見ながら、元気だなぁと呟き、回収作業に戻った。
いろいろあったがなかなかのアイテムが集まったのでものすごく換金が楽しみである。
私はさっきの冒険者にバレないように透明化したまま町に帰った。
町の換金所は冒険者ギルドの隣の小屋にあり、ギルドや商店などとは違って閉まることがない。
なので夜中に落ち着いて換金することもできるのだが、私はこれからの至福の時間に向けてどうしてもお金が必要なのですぐに換金をする。
「合計で6480リュクスです」
「うん。ありがとう。」
まぁまぁの収入である。
直接魔物から得たのが約4000リュクスなので、あわせて約10000リュクスの収入だ。
宿代が一泊1500リュクスで朝ごはんがだいたい400リュクス。元々の持ち金とあわせたり差し引いたりすると、
「今晩は10000リュクス使えるのか!!なかなか豪勢になりそうだ!!」
そう言って私はミッドネルでは2度目の酒場へ駆け込んだのであった。