ローシェルティア号(5)
甲板から見る夜空は、周りの暗さも相まって、星達の輝きがよく見える。
視線を落とせば目の前には大好きなお酒と肉料理の数々。
私はどこかで死んでしまったのではないかと錯覚してしまうほどの幸せな空間。
「はぁ、たまらないわ。」
一口、また一口と喉を潤していく最中、独り言のように呟く。
「はい、とても美味です!」
「あー、うん。」
独り言にはならないのだが。
私自身、目の前にこの娘がいる事を失念しており、なんだか恥ずかしい感じになってしまった。
「私、普段はあまりお肉を食べないのですが、その、おいしい、ですね!」
羽をパタつかせながら星空に負けないくらい目をキラキラと輝かせる彼女。
私はそんな姿を見ながら、エリンにも羽があったならこんな喜び方をしたのだろうかと少し考える。
この娘もなかなか酒が進んでおり、お互い少しだけ口が動きやすくなった所であろうか。
いつまでもこうしていたいのは山々だが、甲板に来たのには目的がある。
「ねぇ、そろそろお話を聞いてもいいかしら。」
「あっ、ごめんなさい!私ったらつい、その、夢中になっちゃって。」
慌てて手に持っていたグラスを置き、テーブル上にあった布で口元をゴシゴシ拭って、真面目な顔をする彼女。
「あの、聞いていただきたいお話というのは、えっと、グランピレオの事なんです。」
この船の行き先も、確かグランピレオだった。
聞けば、かなり大きな土地らしく、それだけにいろいろな噂が絶えないという。
正直言って噂話やその類ならば引き受けるつもりはまったくない。
「その、いきなりなんですが、グランピレオに地下墓地があるのをご存知でしょうか。」
「地下、墓地?」
まったく知らない。
あの大きな町のことだから、水路や食料保管庫などが地下にあることはおおよそ想像のつくことではあるが、墓地まで地下にあるとは。
「あの墓地に、どうしても行きたいのです。」
「え、あなた墓地に行きたいの?」
「はい、それで、あの、道中かなり魔物が出るそうなので、一緒に行っていただけないかと。」
私は考える。
どうしてこの娘は墓地へ行きたいのか。
そこに何かがあるから行きたがるのはほぼ濃厚だとしても、場所が場所なだけになんだか嫌な感じもする。
親族が埋葬されていて、わざわざ墓参りに行きたいという線は薄いが無きにしも非ず。
「ねぇ、貴女はどうしてそこに行きたいのか聞いてもいいかしら。」
考えても出てくるのは可能性の薄い線ばかり。
私は返答を期待しない質問をした。
「実は、その、うう。」
なにやら顔を伏せて震えている。
次に見た彼女の顔は、涙でぐしゃぐしゃだった。
「わ、悪かったわ。いいの、無理しないで。私はこれ以上踏み込んだりしないわ。」
「うう、ありがとうございます。」
反応を見るに、やはり身内が埋葬されているという線が有力だろうか。
ならばついでに道中の護衛で魔物を狩りつつお金を稼ぎ、地下墓地の中を好奇心の赴くまま探索するのも良いかもしれない。
最悪、不測の事態に陥ったとしても、この娘には悪いが私一人でなら魔法による離脱も可能だ。
我ながら、なかなかに腐った考え方だとは思うが。
私はグラスに残っていた果実酒を一気に飲み干し、彼女では無く卓上にある注文用のメモ紙に視線を向け、追加の注文を書きつつ言う。
「グランピレオに着いたらすぐに準備するわ。貴女もついてきてね。」
「えっ、あの、ぐすっ」
まだ状況が飲み込めていない亜人娘に、私の腰鞄から取り出したハンカチを差し出す。
「これで顔を拭きなさい。短い間とはいえ私の側で行動するんだから、みっともない顔や態度で歩かれちゃ困る。せめて私といる間だけでも強くありなさい。」
「それって、あの、引き受けて下さるんですか?」
「ええ。『損得の天秤が良い方向へ傾いた。』だから受ける。」
感極まってまた泣こうとする亜人娘の頭にポンと手を乗せ、目で戒める。
私は自分の気分が急激に落ち込むので、人の真面目な顔や泣き顔が大嫌いだ。
それを察してか、目尻に涙を溜めたまま、これ以上泣くまいと、ただただしっかりとした眼差しで私の目を見る。
「貴女、というのもいい加減飽きたから、名前を教えてくれる?」
「はっ、はい。あの、わ、私は。」
と言ったところで、彼女は突然立ち上がり、気合いを入れるように自分の頬を二回叩いてから、
「私はリリア。リリアと言います。」
弱々しい態度など微塵も見せまいとする眼差しで名乗った。




