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クリスマスイブにプレゼントを

作者: 天川ひつじ

世界中から、願い事のお手紙が届いています。


***


「大変ですっ!」

サンタクロースの家で。

ロッキングチェアでくつろいでいたお爺さんのところに、小人さんが駈け込んできました。

お爺さんは驚いて身を起こして尋ねました。


「どうしたんだい、そんなに慌てて」

「サンタクロース様へのお願いを、1つ、忘れてしまったのです!」


今はクリスマスイブ。

サンタクロースは、すでにたくさんのプレゼントをソリに詰めて出発した後です。


「大変だ! すぐにサンタクロースに電話だ! トナカイたちなら、すぐに戻ってきてくれる!」

お爺さんは慌てながらも、自分が電話をしようと、お家の電話のある場所に向かおうとしました。

けれど小人さんは慌てながらも首を横に振り、こう叫びました。

「駄目なんです! サンタクロース様のソリはとっても早いから、電波が追いつかないのです!」

「なんだって?」


「電話しても繋がりません、無理なんです! だからどうかお願いします。もうサンタクロースを卒業されましたけど、この1つだけ、あなたに届けに行ってもらえませんか!」

小人さんの必死の訴えに、お爺さんは、分かったと頷きました。

「良いとも。届くべきプレゼントが無いなんてなったら可哀想だ、ワシが息子に代わって届けに行こう」


実は、このお爺さんは、去年まではサンタクロースでした。

けれど、ものすごくお爺さんになったので、サンタクロースを卒業したのです。

このお爺さんの息子が立派なお爺さんになったので、今年から息子が立派なサンタクロースです。


さて。お爺さんは急ぎます。

去年まで自分が着ていた赤い服に着替えます。帽子だって忘れません。勿論、靴も手袋もつけますよ。

「これです! お願いします!」

小人さんから、小さなプレゼントが1つだけ入った袋を受け取りました。

それからお爺さんは袋を担いで、急いで家の外に出て、トナカイたちのいるところに向かいます。


今はクリスマスイブ。とても速く走れる若いトナカイたちは、すでに息子のサンタクロースのソリを引いて空を飛んでいるところなので、もう残っていません。


だけど、お爺さんがサンタクロースだった時にソリを引いてくれていた、お爺さんになったトナカイたちが残っています。

「やぁ、みんな、力を貸してくれないか。一人、プレゼントを届けたいんだ!」


お爺さんが事情を話すと、トナカイのお爺さんたちもやる気を出してくれました。

「一人だけなら、私たちだって十分走れます! でも、それなら急ぎましょう」


小人さんたちが手伝ってくれて、古いソリを出してきてくれました。

お爺さんはソリに乗り込み、トナカイのお爺さんたちも列になります。


「さぁ、出発だ! ほほほーい!」

「いってらっしゃーい!」

空に駆けだしたお爺さんのソリを、小人さんたちが手を振って見送ってくれました。


***


しゃんしゃんしゃん、しゃんしゃんしゃん


古い鈴は、どこか柔らかい懐かしい音がします。

「去年で空を飛ぶのも終わりだと思ったけど、やっぱりこの日は特別だね。あわてんぼうの息子のおかげで、またプレゼントを渡しにいけるなんて、嬉しいよ」

お爺さんが空でトナカイたちに話しかけると、トナカイのお爺さんたちも嬉しそうに笑います。

「空を駆けるのはやっぱり良いものですね」

空を飛ぶのは、今日だけの魔法なのです。


話しているうちに、お爺さんは、小人さんに持たされた住所まで辿り着く事が出来ました。


町中の、一軒家です。


お爺さんはあたりをそっと見回しながら、家に向かって言いました。

「ワシはサンタクロースです。本当はもう、サンタクロースはワシの息子だが、このお家にとってはワシがサンタクロースになります」

すると、扉がキィと静かに開きました。

今日は世界中がサンタクロースの訪れを待っているので、お家も、本当のサンタクロースにだけ、特別に扉を開いて迎えてくれます。今は、煙突の無いお家が多いですからね。


さて、お爺さんは、玄関からそっと家の中に入りました。

子どもに見つかってはいけない決まりなので、静かに注意をしながら。


だけど変だな、とお爺さんは思いました。

この家には、子どもがいないような気がします。


変です、でも小人さんのくれた場所はここです。場所は間違いありません。


首を傾げながら、お爺さんは、プレゼントを置く場所を探してお部屋の扉をそっと開けました。


***


「メリークリスマス! サンタさん」

「うわぁ!!」

パッとつけられた明かりに、お爺さんは跳び上がりそうなほど驚きました。

部屋の中には、男の人が一人立っていました。大人です。


大人には、見られても大丈夫です。

あぁ良かった。お爺さんは大人だったことにホッとして、息を吐きました。


「プレゼントを持ってきましたよ」

とお爺さんは、落ち着いてから言いました。

「ありがとうございます」

と、ニコニコと、その男の人が手を差し出します。


お爺さんはやっぱり不思議に思いました。

この男の人は、プレゼントを自分宛てだと勘違いしていそうな気がしたのです。

気のせいでしょうか?


お爺さんが小さなプレゼントを、男の人に手渡すと・・・。

大変です! 男の人は、包みをあけてしまいました。止める間もありませんでした! 


驚くお爺さんに、男の人はニコリと笑いました。

「大丈夫です。これは、僕がお願いしたプレゼントです」

「え、いや、でもきみはもう大人じゃないか」


そう尋ながら、お爺さんは男の人が開けたプレゼントを見つめます。

お爺さんが大好きな、小人さんが作ったジンジャークッキーだったようです。


「はい、僕はもう大人です。だけど、子どもはサンタクロースに会えないでしょう。だから大人になったら叶うと思って、そうお願いしていたんです」

「おや、まぁ」

「僕が子どもの時にプレゼントをくれていたサンタクロースに、僕はずっと会いたくて、お礼を言いたかったのです」


男の人は、ジンジャークッキーをお爺さんの手に渡しました。

「メリークリスマス、僕たちが子どもだった時のサンタクロースさん。本当に毎年ありがとうございました。僕たちは、あなたが心から大好きです」


お爺さんは目を丸くしました。嬉しくて頬が赤くなりました。


「今年から、あなたは卒業して休まれるのだと分かったので。これは小人さんたちから、あなたへのプレゼントです。あなたに会えたことが、私にとってのプレゼントです。感謝の気持ちが、あなたにとってプレゼントになりますように」

男の人は言いました。


そして、男の人は大事そうに、棚から古い本を持ってきました。

お爺さんは思い出しました。お爺さんがサンタクロースだった時、ずっと昔に、小さな男の子に、新しい、これと同じ本をプレゼントした事を。


その日の夜、お爺さんは、昔、男の子だった男の人と一緒にジンジャークッキーを食べながら、楽しいお喋りの時間を過ごしました。


***


ニコニコしながらトナカイのお爺さんたちのところに戻ると、トナカイのお爺さんたちがニコニコして言いました。

「メリークリスマス! 特別な夜を!」


トナカイのお爺さんたちも知っていたのです。

サンタクロースを卒業したお爺さんは、クリスマスイブ、昔の子どもたちのお家に招かれて、懐かしいお話をしたりご飯を食べたりして過ごすということを。


「知らなかった、驚いた!」

「驚かせたくて秘密にしていました。私たちからのサプライズプレゼントです」


ほっほーい、とお爺さんは嬉しくて愉快に笑いました。

「なんて嬉しいプレゼントだろう。ありがとう、トナカイたち!」

「どういたしまして。私たちも、また空が飛べて嬉しいです」

お爺さんの様子に、トナカイのお爺さんたちも、とても嬉しそう。


卒業すると寂しいと思っていたけれど、毎年こんな風に過ごせるなんて。これからもこの日が楽しみです。


「ほっほーい!」


***


サンタさんへ。愛と感謝を込めて。メリークリスマス

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