その世界の中で、私は記録係として仕事をする。
少年は願い、少女は求めるシリーズ第20弾
これで最後です。
世界に神が戻った。
長い時の中、神は世界に降りられなかった。信仰心が足らずに、世界から神々が姿を消したといわれていたが、それは違った。
神が世界に姿を現さなくなったのは、神々の事情であり、下界の信仰心は関係がなかった。
世界に姿を現した神々は、謝罪と共に、神々の世界で起こっていたことを神殿に説明をされた。その説明で、私は驚いた。神々の世界でも、そういうことがあるのかと。
光の神、ピリカ。
この世界で最も知られていたであろう、神様。その神様の暴挙によって、神々はおかしくなっていたそうだ。そして、ウィント様———最近下界に現れていた神様は、ピリカの暴挙によって、封印されてしまっていたのだと。恐るべき魅了の力を持っていたピリカは神々を魅了し、おかしくしてしまっていたのだと。
封印されていたウィント様が復活を出来たのは、魅了がきいていなかったウィント様の夫のフラン様がウィント様のためにウィント様のことを忘れないようにと伝えていっていたのだという。そして、八百年間、存在が消されずに生き延び、そして、復活を遂げた。八百年、なんて、なんて長い時間だろう。
長い期間、フラン様が耐え抜いて、ウィント様のことを復活させることをあきらめなかったから、だからこそ、こうして復活が出来た。
また、ウィント様の話の中では、ピリカはとある人間に加護を与えていたのだという。そのせいで、地上でも少なからず影響が起きていたという。
冒険者として有名なディーとミーナもその被害者だったのだと。ウィント様はそのあたりのフォローをしなければならないといっていた。そして神殿にもそのフォローをお願いしたいとも言われた。そのあたりのことも色々動かなければならない。
私は、神殿の記録係として、正しい歴史を、正しい事実を世界に伝えていけるようにしたいと思っている。だから、ディーさんやミーナさんにも話を聞きに行こうと思った。そして、もう二度と、こういう悲劇が起きないようにしなければならないというのも私を含めて神殿のものたちは考えていた。それは神様たちも同じで、そのために私は正しい記録を記したかったのだ。
ディーさんは……話に聞く限りは大変な目にあっていたというのにとても幸せそうだった。ディーさんのもとに、何人もが謝罪に来たと言う話も聞いた。ピリカが加護を与えていたというルイス・アブルストは、ディーさんの評価を奪っていっていたのだという。ディーさんを大切にしていた人がルイスさんを大切にするようになった。ルイスさんのことをディーさんと思い込んだまま。だから、ルイスさんの周りにいた人々は、全てを思いだし、謝りにきたのだと。
「正直神様の事情とか、そういうのを聞いて色々納得した。アルマたちに謝られても昔のようには戻れないけれども、それでも……嬉しかったのは確かだった」
そんな風に言っていた。
変えられない過去。どうしようもない過去。謝罪があってもどうしようもないことを、ディーさんが受け入れられたのはミーナさんがいるからであろうと思えた。
……ルイス・アブルストに関しては、旅芸人の一座で一時的に保護されている。それは、ルイス・アブルストが神の加護が原因とはいえ、それだけ多くの人の人生を歪ませてしまった。それもあって、ルイス・アブルストを憎んでいるものは少なからずいるのだ。加えて、彼も、神の被害者である。だから彼が普通の生活を出きるように手助けをすることも必要だということだった。とはいっても、何から何まで世話をするわけにもいかない。そのあたりも含めて、ルイス・アブルストの存在は厄介としか言いようがない。
だけど、神様の世界での出来事の影響で、ルイス・アブルストも人生を狂わされた存在なのだ。もし加護がなければ、ルイス・アブルストだって、幸せに生きたかもしれない事実がある。だからこそ、そのまま放り出すということも出来ない。
元々ディーさんと仲が良く、ルイス・アブルストの妻になっていたアルノ、ディーさんの兄であったカーク・アブルストなど、様々な人間に私は話しを聞いた。そして神様にも、沢山の話を聞いた。
もし、今後ピリカみたいな神様が現れた場合、どのように動くべきなのだろうか。もし、ピリカのように力の強い神様が居たのなら———。いや、力が強いだけならどうにでもできるかもしれない。もし、魅了の力を持つものが現れたら———、そのことを考えて私たちは神殿は動かなければならない。
神様が居なくなった世界で、神様の世界で何かあったと考えることもせずに、私たちが何かをしてしまったからだと思い込んでいた。神様は完璧なのだと。神様は、間違えないと。思い込んでいた。だけど、そうではないのだ。神様の世界にだって様々なことが起こる。
そのことを、今回の件で私たちは学んだ。神様たち側でも、魅了の対策を行うという話を聞いた。そして、もし、神様の世界で異変を感じた時にこちら側から神様側に、働きかけられるようにする仕組みを生み出そうというそういう話が生まれている。
下界の私たち側から、神界へと働きかけられるようにするのだと。
――――神様と、私たちの関係は変わってきている。
神が下界から喪失し、その時代が終わり、神が世界に姿を現す世界が訪れた。
神様が下界から喪失していた原因も、それによる影響も、全て明かされて。世界はそれなりに混乱している。神様の世界で、神様が下界に現れなく出来事が起こっていたなどと、考えても居なかった。そしてこの八百年で神様が世界に現れないことが当たり前になっていた。そんな世界にまた神様が現れるようになった。だからこそ、混乱をするのは当然なのだ。
少なからずの混乱があるこの世界で、私たち神殿は民のためにも動き続けなければならない。
私の仕事は記録者。正しい記録を、未来につなげるために、正しい歴史を紡ごう。
――――この、神が人と共に生きる世界で。
――――その世界の中で、私は記録係として仕事をする。
(神様が、世界に戻った世界で、記録係は正しい歴史を紡ぐことを目指している)
というわけでこれで少年は願い、少女は求めるシリーズ終わりです。
一番最初の話なんて大分昔です。最初はディークの話しか考えていなかった物語が、頭の中で広がっていって、長い物語になりました。
最後のこの話は、正直難産でした。最後はディー視点でしめようか思ったのですが、折角ここまで視点をかぶらせずに書こうと試みて書いていたのでこんな形になりました。
正直思いついた物語を形にしていたわけですが、この話書くの難しかったので悩みながら書いたのですが、何とか書ききれました。
とある世界の神と人の物語、何か読者様が感じてくれたらと思います。
では、ここまで読んでくださってありがとうございます。感想などいただければ嬉しいです。
2017年11月19日 池中織奈