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不遇扱いされているクラスメイトは明らかに主人公っぽいので謝ろうと思います

作者: 九芽作夜

思い付きと暇つぶしで書いてみました。

気軽に読んで下さい。



「ギャハハ! おい、藤堂、お前ってホント能無しなんだな!!」


 とある神秘的に綺麗な神殿。そこで一人の男子が目の前の男子に暴言を吐いていた。

 普通なら止めるべきなのだろうその光景に、しかし、誰も彼もが静観していた。それどころか、皆が皆まるで汚物を見るような目で言われている男子を睨んだり、嘲笑うように見ていた。


 …ほんと、このクラスってクズだな。


 という俺も静観している一人なので他人のことは言えない。だが、それでも少なくてもここにいる連中よりはマシだという自負はあった。


 ……まぁ、そんなこと藤堂にとっては関係ないか。


 俺たちは今、異世界にいる。とある、異世界の人間たちによって召喚されたのだ。

 クラス全員で。

 あれはビビった、放課後にホームルームを終えて帰ろうとしてたらいきなり教室に光が出てきたかと思ったら見たこともない神殿で、見たこともない美少女と無駄に長い帽子をかぶった爺さんたちがいたんだからな。

 あっ、ちなみに美少女はお姫様で召喚した目的はこの世界を滅ぼそうとしている魔王を倒して欲しいというテンプレートなものだった。

 

 いや、普通に考えて嫌なんですけど。どうして、なんの前触れもなく無理やり異世界に連れてこられて、あまつさえ命を賭けてまで魔王なんて倒さないといけないんだよ。

 しかし、そんな普通が通じない野郎がいたんだなこれが。

 それが、今藤堂に暴言を吐いた神沢。イケメンで運動神経もよく、頭もいいと来た。生粋のリア充でクラスの中心人物である。

 彼は何を狂ったかいの一番にお姫様に微笑むと「はい、任せてください!」なんてほざきやがった。これにはさすがに反対する奴がいるだろうと思っていたのだが、皆神沢の意見に賛成したのだ。

 さすがの俺も、「こいつらバカじゃねぇの?」って思ったもん。

 で、あれよあれよと事が進んでいき、今各自の能力を計測されているのだ。


 この世界に召喚された勇者には等しくそれぞれにしか使えない固有スキルが与えられるという。

 言うならばチート能力である。それを各自、長い帽子の爺さん(あとから知ったけどこの人たち神官だった)たちに報告をして、それと並行してステータスを計ろうとしていた。

 何で、ステータスとスキルを別に? と思っただが、どうも一般のスキルはステータスと共に計れるのだが、固有スキルは測れないのだそうだ。つまり、自己申告しないと誰にも分らないらしい。

 〈鑑定〉っていうスキルを持っている高レベルな人にはわかるらしいけど今この場にはそこまで高レベルの人がいない。


 俺? 俺はもう終わって。ステータスとスキルはこんな感じです。



並木 省吾 Lv1


ステータス

HP:500

MP:200

STR:150

AGI:130

DEX:100

VIT:100

INT:50


スキル:なし

固有スキル:身体強化(ブースト) Lv1



 お姫様の説明だと、一般人の平均でSTRは50。兵士で100くらいだという。HPも結構高いそうだ。

 このステータスを見る限り、俺は近接戦闘タイプということになるだろう。異世界だから、魔法とか興味あったけど、まぁ、仕方ないか。

 

 と、ちょっと思案しているとまた神沢が藤堂にをバカにして盛大に笑っている。それを見て他の奴らも笑っていやがる。

 藤堂は何も言わず、ただ俯いてその嘲笑を耐えていた。


 藤堂はクラスでイジメられている。主犯は神沢とその取り巻きたち、他の奴らは積極的にイジメをしようとはしなかったがイジメられる藤堂を見て、ニヤニヤと楽しんでいる。そんなクラスを俺は冷めた気持ちで眺めているだけだった。

 どうして、藤堂がイジメを受けているのか、その理由は分からない。きっと本人だってそうだろし、イジメている神沢だって大した理由もないのだろう。多分、地味で何をしても反抗しない藤堂を見て日々のストレスを発散させているだけなのだろう。

 なんで、そんな奴がクラスの中心なのかと問いたい。けど、藤堂以外には神沢は基本いい顔をして、優等生キャラを演じているのだ。だからこそ、イジメられている藤堂に問題があるのではという意思がクラスにはびこんだ。


 俺は、それに心底共感出来なかった。が、神沢を止めれば教室にいづらくなるから俺は何もしてこなかった。ただ、イジメられている藤堂を苦渋な気持ちで眺めるだけしか出来なかった。

 そんな、自分が心底嫌になりそうだった。


「おぉい、藤堂。お前、スキルなんだったなんだ? 教えてくれよ~。いいスキル手に入れたんだろう?」


 神沢がバカにしきった顔と口調で藤堂に訊いた。その顔は自信に満ち溢れていた。

 それだけの根拠が神沢にあるのだ。あいつの固有スキルは〈剣聖〉と〈獲得経験値2倍〉というまさにチートなスキルなのだ。そいつを聞いた瞬間、爺さんたちと姫様から「おぉ!」という声が上がった。

 通常、与えられるスキルは一人一つまでなのだが、奴は二つも手に入れていた。それは中々凄いことである。


「………〈生産〉だよ」


 藤堂がぼそり、と呟く。声が小さくてよく聞き取りにくかったが神沢が盛大に噴き出していた。


「〈生産〉? なんだそれ、どんなスキルだよ」

「……鍛治や裁縫とかが出来るみたい」

「……ブハハハ!! 〈生産〉って、なんだよそれ。なんの役にも立たない生産スキルじぇねぇか。やっぱりお前クズで能無しなんだな!!」


 神沢の言う通り、〈生産〉は普通に一般人でも持っているスキルである。その効果は、鍛治や大工など文字通り物を作るだけのスキル。このクラスで唯一、戦闘系以外のスキルであった。

 藤堂のスキルを聞いた姫様と爺さんたちは露骨にがっかりとした表情を浮かべ、クラスの連中は嘲笑を浮かべていた。

 しかし、ここで俺はとある考えが芽生えた。


























 ……ひょっとして、この中で強いの藤堂じゃね?

 だって、小説とかでこういう明らかな不遇な能力を持った奴が後に無双するという王道なパターンじゃねぇか。

 だとすると、早々に藤堂を味方につけないといけない。大体、この跡のパターンは読めている。藤堂はなんやかんやで森に置いていかれて、生きることに必死になるあまりそのチート能力を開花させる。

 うん、間違いないな! 某一般的な職業で最強になった主人公もいるし絶対そうだな!


 となると、俺のすることは一つ。

 ……藤堂に謝ろう。




□■□■□■□■□■




 この世界に召喚されて数週間が経過していた。

 俺たちはその間、姫様の暮らしている王城で訓練をしていた。簡単な武器の持ち方から体力の増加まで結構きつい訓練でもあったが、俺のスキルの効果から必要なことである。

 俺の固有スキル〈身体強化〉は、自分のステータスを2倍にすることが出来る。だが、持続時間が持って5分程度なのでまだまだ訓練が必要らしい。だから、元のステータスを上げるためにもこうやって日々の訓練に熱を入れているのだ。


「ふむ、今日はここまで」

「ありがとうございました」


 俺は訓練をつけてくれた兵士に頭を下げると、あてがわれている部屋へ帰ろうとした。

 勇者として召喚された俺たちは結構な優遇を受けている。部屋は一人一人にあるし、世話をしてくれる人も配属されていた。男子にはメイド、女子には執事とこれまた異世界だなと感じさせられるとものである。


「お疲れ様です。並木様」

「あ、どうも…」


 部屋までの帰り道の途中、どこから現れたのかメイド服に身を包んだ。女性が俺に声を掛けてきた。

 俺の世話係に任命された、名前はセラさん。猫目できつい感じはあるが、仕事を真面目なだけで悪い人ではないというのが俺の印象だ。その証拠に…


「湯浴びの準備をしましょうか? それとも軽く食事など用意させましょうか?」

「……いや、あのセラさん」

「なんでしょうか?」

「俺の世話はしなくていいと言いましたよね?」


 そう、俺は皆に配属されている世話係を断ったのだ。

 理由? そんなの、この人たちが信用ならないからに決まっているだろう。

 クラスの連中は、どうも姫様や王様を信じているみたいだが、俺は警戒している。だって、俺たちは召喚されてから全くこの世界の、王城の外へ出たことがない。この世界での常識みたいなのは、セラさんに教えてもらっているが、それだけだ。

 この国がどういう政治をしているのか、国民の暮らしがどういう風になっているのか、本当に魔王なんているのか、いたとして、そいつが本当に悪い奴なのか。俺の頭は常に疑問でいっぱいだ。

 だから、俺は世話係として配属されているこの人たちは実は俺たちの監視の任が為されているのではないかと疑っている。だからセラさんには、悪いが俺はメイドは断った。

 しかし、セラさんは今もこうして俺の世話をしようとしている。それが上司からの命令なのか分からないが、断わられても食いつくその姿勢は好感が持てた。


「しかし、国王より皆さまの世話をしろという命令が為されている以上、私はナミキ様の世話を見ないといけないのです」

「まぁ、確かに仕事熱心なのはいいことですが、俺には不要なので……何か言われたら俺が王様に言いますから」

「……私が何かナミキ様の気に障ることをいたしましたのでしょうか?」

「いえ、そういう訳ではないですが…」

「でしたら‥‥‥「あっ、そうだ」」


 なおも食いつこうとするセラさんの言葉に被せるように俺は聞いた。


「藤堂がどこにいるか知りませんか?」

「トウドウ様ですか? いいえ、存じ上げておりません」

「…そうですか」


 俺は謝ろうと決めた日から、まだ藤堂に謝れていない。

 藤堂が今、どうしているのすら把握できていない。まだ王城にいるのは確かなのだが。

 訓練は個人個人で時間が違うし、王様と姫様を交えた食事でも藤堂は現れなかった。

 聞いた話では王城にある図書館で一人この世界の知識を蓄えているらしい。あぁ、まさに不遇な扱い。もうすぐ奴が最強になる日もそう遠くないだろう。


「分かりました。では、俺は部屋へ戻ります」

「そうですか、なら軽食をお持ちいたしましょうか?」

「…いえ、お気持ちだけで」

「…そうですか」


 セラさんの申し出を断った俺は再び部屋に向かって歩き出した。すれ違う途中でセラさんが悲し気な表情を見せたような気がしたが、気のせいだろうと切り捨てた。







 数日後


 俺たちは、とある森へとやってきた。

 目的は実戦を想定した訓練である。この森にはゴブリンがいるらしく、魔物の討伐の練習に丁度いいらしい。丁度いいらしいと聞いていたのだが……


「うわぁぁ!」

「逃げろぉぉぉ!!」

「きゃあぁぁぁ!!」


 周りは阿鼻叫喚。逃げ惑うクラスメートたちと護衛としてついて来た騎士が目の前の相手と対峙していた。

 目の前には無数の魔物、ゴブリンからオーガ、狼といった多種多様な魔物たちに俺たちは襲われていた。

 あまりの数に騎士たちも太刀打ちできない。ならば、いくら勇者と言われようが初めての実戦で碌に動けない高校生が対応できるわけもなく。あっという間に逃げる羽目となった。

 俺も「やってられるか!」と叫びながら走る。しかし、その途中である光景を目撃した。



 神沢が藤堂を突き飛ばしたのだ。



 自分に向かってくる魔物を退けるため、神沢は藤堂を囮にしたのだ。

 押し倒され、魔物たちに囲まれた藤堂の顔は完全に全てを諦めていた。絶望に立たされた藤堂、そんな藤堂を見て俺は__


「うおおぉぉぉぉ!!」


 体が勝手に動いていた。 

 俺は〈身体強化〉をかけ、藤堂のいる場所へまっしぐらに駆けた。

 狼のような魔物が藤堂に噛みつこうとしていたので、その首目がけて剣を横へ振る。強化されたSTRのおかげか何の障害もなく狼の首を切断することに成功した。


「……えっ?」


 藤堂が呆け声を出す。

 助けが来ることが意外だったのか、俺が助けたことが意外だったのか、それともその両方なのか。ただ俺は狼を斬ることに成功すると藤堂を無理やり立たせ、担ぎ上げた。

 日々の訓練のおかげか上がったステータスで藤堂を担いでまったく問題なかった。

 俺はそのまま、藤堂をつれて逃げた。方向も、目的もなしにただただ逃げた。迫りる大量の魔物から自分ともう一人の命を賭けて走った。





 どのくらい、走っただろうか。もう既に身体強化の効果も切れて足もフラフラだった。

 だが、背後を見ると追いかけてきた魔物たちの姿はなく目の前には見たこともない村があった。

 それに安堵した俺はその村の光景を最後に意識を手放した。









 目覚めたら知らない天井だった。

 えぇと、俺どうしてんだっけ? 確か、森に入って……そうだ、藤堂!

 バッ、と体を起こすとそこはやはり、王城で借りていた部屋じゃなかった。ベッドと机、押し入れみたいなものしかない質素なものだった。

 ここはどこだか分からないが俺はベッドから出ようと足を出すと部屋の扉が開いた。


「……あっ、起きたんだ」

「藤堂……」


 藤堂が起きた俺を見てほっ、と安堵の表情を浮かべていた。


「でも、まだ、寝てたほうがいいよ。疲労が溜まってると思うから」

「お、おぉ……」


 言われた通り、立ち上がろうとしていたのを止めて再びベッドで横になる。藤堂もベッドの傍にある椅子に腰を下ろした。


「……ここは?」

「王都から少し離れた村だよ。並木君が倒れた後、村の人たちが僕らを見つけてくれて治療してくれたんだ」

「そうか…」


 どうやら、運よく村人に拾われたということか。ほんと、良かった。もし、森の中で倒れたままだったら今頃どうなっていたことか……。


「ありがとう…」

「えっ?」


 俺が思案していると不意に藤堂が言った。俺は意外な言葉に少々戸惑う。


「……どうして」

「ん?」


 どうして、そんな顔が出来るんだ。

 どうして、俺なんかにお礼を言うんだ。


「…俺は、お前にお礼を言われることなんてしていない。俺は、今の今までお前を助けなかった」


 それどころか、俺はお前を打算的な考えで謝ろうとしていた。

 そんな俺が、一回助けたくらいで笑いながらお礼を言われる資格なんてないんだ。


「だから、俺はお礼を言われるどころか、お前に恨まれて罵られたって文句は言えないんだよ」

「そんなことないよ!」


 俺の言葉に、藤堂は今まで聞いたことのない大声で否定した。


「えっ?」

「だって、並木君。僕がイジメられている時凄い苦い顔して見ていた。僕を助けられないから、悔しそうみたいだった」

「それは…」

「それに、僕が困らないように裏から助けてくれていたって知ってるよ」

「はっ!?」

「僕が放課後殴られた後に机に絆創膏置いてくれたり、昼休みに誰もいない校舎の空き教室があるってことを教えてくれたり、色々とよくしてくれていたじゃん」

「なっ!? 何でお前それを!!」


 確かに、よく藤堂が殴られた後に湿布とか机に置いていたけど、誰にも見つからないようにしていたし。空き教室だって手紙で伝えたから気づかれるはずないのに…。

 

「えっ? だって、よく並木君体育なんかで怪我した人から絆創膏あげていたし、手紙だって筆跡が並木君のものだったから。並木君の筆跡って結構特徴的なんだよ?」

「……知らなかった」


 まさか、全て知られていたとは…。恥ずかしくて死にそうだ。


「でも……嬉しかったよ」

「………」

「並木君が大っぴらに僕の味方する訳にいかないのは知っていたよ。でも、それでも僕を助けようとしてくれていたことは………感謝してる」


 あぁ、そうか。

 藤堂は、弱くなんてなかったんだ。スキルだのチートだの無しとして、こいつは強い奴なんだ。

 普通に俺程度の情けなんてのは、邪魔でしかない。それどころか、余計に腹が立つ行動だ。

 でも、それでも藤堂は俺に感謝をしていると言った。ありがとう、と言った。

 だからこそ、そんないい笑顔が出来るんだ。

 そう思うと、今まで藤堂に同情していた自分が恥ずかしくなってくる。藤堂を舐めていたのは俺のほうだったんだ。


「……藤堂」

「ん?」

「すまなかった」


 俺は上半身を起こして、藤堂と対峙すると頭を下げた。

 俺の行動に藤堂は慌てたように手をわちゃわちゃさせる。


「えぇ!? ど、どどどうしたの並木君! 頭を上げてよ!!」

「いいや、お前がよくても俺が良くねぇ。ちゃんとケジメをつけないといけないんだよ」

「ケジメって、僕本当に気にしてないし。並木君に怒ってもないよ?」

「それでも、俺はこうしないと気が済まないんだ」


 これは、決別だ。過去の浅はかだった自分との、必要なことだ。

 藤堂は困ったように「あぁ、うぅ」とか唸っていたけど結局、俺が頭を上げるのを待っていた。

 数秒して、俺は頭を上げると藤堂と目が合う。自然と、互いに笑い合っていた。この時、俺ようやく藤堂の顔をまともに見られたのかもしれない。

 しばらく、笑い合うと俺は藤堂に提案を出した。


「さて、藤堂。これからどうする?」

「え? どうするって言われても……」


 俺の質問に藤堂は困った表情を浮かべていた。きっと、藤堂には考えが一つあるのだろう。


「誰にも言わないから、考えがあるなら聞かせてくれ」


 俺は藤堂の目をしっかりと見ながら言う。その言葉を信じてくれたのか、藤堂は口を開いた。


「……王都から離れようと思う。多分、神沢君たちは僕が死んだと思ってるだろうし」

「あぁ、多分そうだろうな」


 あいつら、俺が助けに入った時には遥か彼方だったからな。


「それに、僕がいてもいなくても王様たちは困らないと思うし。あと…」

「あと?」

「……僕たちはまだ、この世界のことについて全然知らない」

「………」


 藤堂の考えは、俺も感じていた。確かに俺たちは、この世界についてまだよく知らない。一般教養的なものは教えてもらっていたがそれはあくまで耳に入れた程度でやはり、目で見ないと分からないことだってある。


「だから、僕はこの目で色々と見てみたいと思う……」


 藤堂は、自信なさげでそう言った。きっと、止められると思っているのだろう。こいつのスキルは戦闘向きじゃないし、ステータスも低いと聞いている。だから、国に保護を受けたほうがいいと思うのが普通だろう。

 しかし__


「そうか、なら取り敢えずは情報収集だな」

「…ん?」

「そうだな、この村の人に近くの街までの道を教えてもらって……それに、武器や食料も色々といるな、あ、それだと金も必要になる。冒険者ギルドとかあるのか「ちょ、ちょっと待ってよ!」…どうした?」

「い、いや、どうして並木君もついて行くみたいな話になるの?」

「いや、ついて行くに決まってるだろ。というか、実は俺もこの世界について調べたいと思っていたんだよね」

「で、でも、それだとクラスの人と離れることになるし。国の後ろ盾もなくなるよ」

「いいって、クラスに仲いい奴もいなかったし。それにいいのか? 俺と一緒の方がお前のためにもなるぞ」

「………」


 俺の言葉に藤堂は沈黙する。

 きっと、俺を連れて行くことで生じるメリットを考えているのだろう。

 戦闘向きのスキルを持っていない、つまりは道中色々な危険が付きまとう俺がいるのといないのとでは生存率は違ってくる。


「……いいの?」

「いいに決まってだろ」


 すぐに肯定を示した俺に藤堂は「ふぅ…」とため息を吐くと


「うん、分かった。よろしくね、並木君」


 藤堂はそう言うと手を伸ばして来た。

 俺は、その手をじっ、と見てから呟いた。


「省吾…」

「えっ?」

「これから、一緒に旅する仲間なんだ。名前で呼び合おうぜ昴」

「……うん、分かった。よろしくね省吾」


 そう言う、昴は今まで見てきた中で一番いい笑顔で俺はその手を握ったのであった。




□■□■□■□■□■




 それから一体どのくらいの月日が流れたのだろうか。

 あの日、俺たちは世界を知るために旅に出た。

 最初は、まぁ、大変だった。最初の街に辿り着くまでに何度も盗賊と遭遇して、魔物を倒して。ギルドで冒険者として登録したら、厄介な依頼ばかりで命を落としそうになったことなんて数えきれない。

 昴には、街の鍛治職人や薬草師といった職人たちに片っ端から弟子入りしてもらった。昴の〈生産〉は、作業の工程をしっかりと理解出来ていれば質のいい物が出来ることが分かった。

 …と、まぁ、最初はそういう風に理解していた。

 


 まぁ、立派にチート化したね。うん、チートというよりバグだな。

 だって、普通の剣を作るはずが魔剣を作ってしまったのだ。さっすが~、さらにそこから進化して〈生産〉が〈創造〉というスキルになってしまった。

 そのおかげか、昴は元の世界の武器や神剣までも作れるようになり、さらにはスキルまで作り出してしまった。もうね、ゲームバランスむちゃくちゃ。

 まぁ、その恩恵を受けているから文句はないんだけど。


 

 そして、旅をして分かったことが沢山あった。

 まず、俺たちを召喚した国は魔王が侵略してきたから魔王を助けてくれって言ってけど、実はその逆で人間側が魔族のいる大陸に侵略、略奪と好き勝手やっていたらしい。勇者として召喚された俺たちは用は兵器扱い。

 それに王族も悪政をしていて、国民からの評判は最悪と救いようがないと来た。

 この時点で、どちらにつくかなんて分かりきっていた。

 しかし、やはりというべきか人間側との戦争は避けられず、クラスメイトとの戦闘は余儀なくされたが、バグ化した俺と昴に勝てるわけもなく、あっという間に鎮圧した。その時の神沢の表情は中々面白かった。

 勇者がやられてしまったら、国も勝てるわけもなく、魔族側の完全勝利となった。

 


 そして、現在。

 

「省吾…」

「おっ、どうした昴」

「いや、ちょっと逃げてきた」

「あぁ……なるほど」


 開城された王城のデッキにいた俺の所に昴が疲れた顔をしてやってきた。

 

「お前も大変だな…」

「まぁ、しょうがないしね」

「嫁が6人もいる奴は違うな~」

「からかってるでしょ?」


 むっ、とした顔をする昴であるが、こいつ主人公補正働かせて予想通りハーレム作りやがった。

 魔王、獣人、双子の女冒険者、亡国の姫、エルフ、と多種多用な種族で美少女たちを嫁にしていた。まぁね、傍で見ていた俺もため息つきたくなるくらい予想通りだったよ。すっごいね、成り上がりの英雄。


「所で、進捗はどうだ?」

「うん、もう少しかな。ターナとエリザの魔力でどうにか起動は出来そうだよ」

「そうか…」


 戦争が終わった今、俺たち、というか昴は元の世界とこちらの世界を繋げるゲートを作っている。それには多大な魔力が必要であるらしいが、ハイエルフのターナさんと魔王のエリザさんの魔力量が異常な二人が協力してくれているのでもうすぐ完成するらしい。

 と、小説とかじゃ元の世界へ帰還して完結だろう。だから、俺たちの物語ももうすぐ終わる。

 今まで、たくさんのことがあったがきっと物語では昴を中心に語られ、俺はあくまで一仲間、一親友という立ち位置で深く昴と関わるだろうが俺が中心になることはない。語られるのはあくまで昴の生きざまだからだ。


「……ショーゴ」


 俺たちが元の世界での考察をしていると、名前を呼ばれた。

 俺と昴が声のする方を向くとメイド服に身を包んだ、セラの姿があった。


「じゃ、僕は戻るね」

「おぉ、あまり無理するなよ」

「うん」


 空気を読んでくれたのか、昴は俺に一言言うとデッキから去って行った。

 入れ替わるようにセラが入ってくる。


「お話中だった?」

「いいや、別に大したことじゃないよ。それで、どうした? 何か用か?」

「ううん、ショーゴの顔見たくなっただけ」

「そ、そうか」

「うん…」


 セラはゆっくりと隣に立つと、俺の腕に自分の体を密着させた。

 ……めっちゃ、可愛い。



 昴を主人公にした物語があるとしたら、俺とセラの話はきっと番外編とかで語られるようなものだろう。

 

 

 魔大陸を旅していた時に、俺たちの前に突然セラは現れた。

 その時、俺は「また、ハーレムが増えるのか」と思っていたのだが、彼女は俺を探してくれていたらしい。再会した瞬間、俺はセラに告白された。

 話を聞くと、一目惚れだとか。だから、メイドを断っても食い下がってきたのかと納得した。

 しかし、告白されたもののまだその時は色々と余裕がなくて答えを延長させてもらっていたのだが、戦争が終わったから俺とセラは正式に恋人となった。

 そりゃ、こんな美人に一目惚れと言われて、さらに死んだと報告されても俺を探してくれたと訊いちゃ、嬉しくない訳ないじゃないか!

 これで惚れないなら、そいつはホモだ!!


「…セラ」

「なぁに?」


 可愛い。


「元の世界に戻れるようになったら俺の両親と会ってくれないか? そ、その、紹介したいんだ………婚約者として」

「………嬉しい!」


 顔が真っ赤でセラから顔を背けているので、セラがどんな顔をしているのか分からない。

 だが、その声がすごくウキウキとしているのを聞いて安堵もした。


 俺は別に、主人公にも、勇者にもなりたい訳でもない。

 でも、今あるこの幸せだけは何が何でも守りたい、そう誓った。



 









 


 


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 面白かったですが、最後昴がハーレム作っちゃってるのだけが残念。興醒め。 全く勇者ものってお決まりにハーレム作りたがるな! 男がそういう願望あるってのはわかりますが、それを受け入れる女…
[一言] 面白かったです! 普通は、こんな風に片方の言い分だけ聞かずに自分で調べようとするものですが……何故かなかなかまともな主人公がいないので読んでいてスカッとしましたw ただ、セラさんを地球に連…
[良い点] 王道ではありますがいじめられっ子物のモブ視点、主人公との和解というのはあまり見ない展開で新鮮でした。 [気になる点] >神沢が藤堂を押し倒したのだ。 え?┌(┌ ^o^)┐ホモォ…? 多分…
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