梅子のあるじ様2
今回も作者に送り付けられたメールによる梅子日記風にお送りします。
皆さんこんにちは。
今日もあるじ様のインナースペースにいます、座敷童子の梅子です。
麒麟の松珀さんを迎えて、8月にあるじ様は無事に44回目の誕生日を迎えました。
相変わらず自分用のケーキを買ってのお祝いですが、あたし達もいますからね~
明天幸昇龍
と言う龍が12日から15日まで来ていたと天考命龍さんが言ってきました。
なんでも【敬想龍天司】とか言う母性愛の称号を与えたかったとか…
龍の波動を持っていて慈愛に溢れる方に?
ふうーっ
じゃあ何であるじ様はボッチなんでしょう?
教えてくださいよ。龍さん!
あたしがつぶやいたら天考命龍さんが入場拒否してくれていたようです。
良い判断です!
一人身で母性愛だけ増えるってあるじ様の人生に悪影響を及ぼします!
誕生日が過ぎてからでしょうか、インナースペースの地面である草原がかすかに光を発し始めました。
「これは『彩縁結光波ですね」
散策をしながら調べていた辰巳様が言ってました。
簡単に言うとモテ期に溢れる波動だそうです。
それから、8月の末に大型の台風が来ていました。10号でしたね。
その台風が過ぎて気が付くと空に浮かぶ球体が現れていました。
これは天神寿ですね。
見たらそうなんだとわかりました。
持ち主を求めて漂う衛星のような玉です。
インナースペースに来られてもあるじ様には見えませんし無駄だと思います。
あ、逆に見てもらいたがりなんでしょうか?
辰巳様の話では、あるじ様の前世の一つに陰陽師があったそうで、彩縁結光波はその時の一生を終えた時に44年目に始まると決まったそうです。
つまりどんなに頑張ってもあるじ様が若いうちには良縁は無かったという事ですか……仕方ありませんねぇ。
しかもあの天神寿には松珀さんの双子の弟麒麟の魂が入っているとか……会いに来たのでしょうか?
「成財豊気を持っていても自覚がないといけないですからね」
辰巳様が苦笑しています。
あるじ様は幸せになる気質は持っているらしいのですが自覚がない上に、運気のめぐりが遅かったんですね。
そんな9月の末、天考命龍さんが良い風が吹いていると言っていたその翌月に
辰巳様が出雲に出かけてすぐの10月27日、その辰巳様から鳥式神が急ぎの手紙を運んできました。
何でしょう?
『大変だ! 私達が守護しているあの子が神恵麗使に選ばれてしまった。
しかも煌凛天慶神様に目を付けられてしまったらしい』
『しかも天叶神祭に連れて行きたい。とか言い出したんだ』
慌てていたのか辰巳様の口調が崩れています。
鳥式神は小鳥に言葉を覚えさせてそのまま送り先に向けてしゃべらせる式神なので臨場感たっぷりです。
……整理しましょう。
まず伸恵麗使は年に一回神無月に出雲に神様が集まって今年の観察対象にされる人間を決めて名付ける呼び名です。
代わりに幸運が舞い込むらしいです。
そして煌凛天慶神様ですが、気に入った魂を見つけると輪廻の輪からさらって自分の手元に置く。という性癖のある美形の男神様です。
その代りその魂の持ち主が死ぬまではきっちり守って幸せにしてくれるらしいです。
つまりこの神様に目を付けられて守護されるという事は、来世が存在しなくなる=あたし達守護者はお払い箱という事です。
えらいこっちゃ!!
あたしは急いで天考命龍さんと松珀さんを呼びました。
一人ではとても対処できる話じゃありません!
慌てるあたしに天考命龍さんがハァ~と息をかけてきました。
あ~ポカポカします。
「あるじが自覚無く決まるものでもないのだろう?」
あたしは頷きます。
でも相手は神様です。そこには祈りもこもっています。
「ならばこちらの守りを強めておこうではないか。丁度空には天神寿もいる、松珀殿はあちらに助力を求めてもらえるか?」
天考命龍さんに言われて松珀さんは天神寿に向かいました。
でも、弟さんだって知らないんですよね?
知らせるのは今年の為の願掛けが終わってからだと天考命龍さんに念を押されちゃいました。
弟さんは前世の陰陽師仲間の相棒だったそうで、その生の間にこの願掛けの核になる事を了承しているとか。
兄である松珀さんにばれたら願掛けが無駄になるらしいです。
目の前にいるのに寂しいでしょうね。
「小さきことだ。こちらも癒気巡幸術の準備をするぞ。手伝ってくれるのだろう?」
もちろんです!
両手にこぶしを作って、胸の前で小さくガッツポーズをします。
天考命龍さんが池の中に立つ水晶の上に立って空を見上げました。
あたしは池の水面を見つめます。
離れた上空で天神寿が光を放ち始めたのを確認して、天考命龍さんが天神寿に強めの息を吹きかけました。
放たれた光がその息の風に乗ってこちらに戻ってくるのが見えて、それを舞い上がった天考命龍さんが集めて池の水晶に巻き付けて行きます。
風の中の光が次第に減って行きます。
それと反対にあたしが見ていた池の底に光が貯まっていくのが見えます!
そう報告すると天考命龍さんが口の端を持ち上げました。
笑ってます。
「巡波掌握!」
そう空に向かって言うと、池の中の光が水に反射して広がり空に向けて光の柱を作りました。
キレイです。
上手くいったって事ですね。
癒気巡幸術は結界のようなものなんだそうです。
これで少し安心かな?
11/8昇る半月上弦の月
結界の浄化力が上がっていく気がします。
11/14エクストラスーパームーン
辰巳様がお帰りになって少し落ち着いて来たけど、神恵麗使は決定なので知らずに見られているんだと思うと落ち着きません。
そんなインナースペースの空に昨日から川が流れているのが見え始めました。
「環幸波動ですね」
月の光によって活性化した天の川の高潮状態だそうです。
今まで流れ去ってしまった高運気を呼び戻す力があるのだとか。
少しでもあるじ様に力を取り戻してもらいたくて、辰巳様が川に向かって両手をかざしました。
「止巡波」
辰巳様の力で引き寄せられた波は、手元まで来ると何故かコインの形になってジャラジャラと足元に積み上がってびっくりしました。
これはあるじ様の金運が具現化したもののようです。
これで金運が少し上がるのかもしれません。
なくさないように集めて池に沈めます。
11/20
あれ? 朝日が変な方向から昇ってきています。
あっちは北です!
「まるで御来光ですね」
「あれは百寿恩徳光でしょう。しかも800年前の光ですね」
「夕焼けより濃い赤紫色ですね。朝日なのに」
「あれは朝日ではないですよ。この子の先祖からの眼差しで……優しいな」
神様的には十月から新年の扱いなので良い年になる様に照らしてくれているのだとか。
あるじ様もご先祖様の想いを感じられたらいいのにと思ってしまいました。
「紫至十二天将の玄武様までこの来光の為に力を分けてくださっているようですね。ありがたい事です」
それって4月に来られた勝負の神様ですよね?
まだ見守ってくださっていたのですか! ビックリです!
11/21
その日の晩、辰巳様は東屋の前に立っていました。
「周りの注目度が高いので月凛祈祷をしておきたいね」
悪縁を払い良縁を引き寄せるおまじないだそうです。
それは是非お願いしたいです!
あの神様の動きがどうなるのか不安ですから。
辰巳様が両掌を合わせてお祈りの態勢に入ります。
「月の力、切言の未来成就へと……魂縁」
あるじ様に今年も悪い虫が付きませんように。あたしもお祈りしながら見守っていると、周りの空気から何か集まってくる気配がします。
何か風が回るような音をさせて東屋の屋根のてっぺんに顕現した物ありました。
キレイな黄金色の球です。
「命開示」
辰巳様の声に反応して球から噴水のように何か噴き上げて東屋に降りてきました。
ビックリして一歩下がってしまったけど、仕方ないと思います。
そのまま見ていると、それは東屋を囲うように付けられている梁に絡まり上半分を覆う暖簾になって落ち着いたみたい。
半透明で貝細工のようにいろんな色がキラキラしています。
「これで少しのプライベートは確保できると思いますよ」
辰巳様はあたしに向かってそう言って微笑んでいました。
どういう意味でしょう?
11/27
暖簾を分けて東屋に辰巳様が入ってきました。
中を見て微笑むと内側から暖簾に向けて小さく『月煌』とつぶやき、暖簾が輝いて中が見づらくなります。
中で寝ていたあたしは目が覚めて辰巳様の気遣いに恥ずかしくなってしまいました。
プライベートってあたしの寝顔の事ですか?
黙って微笑む辰巳様は我が子を見るような顔をされてます。
あたしだってあるじ様を守る立場では負けてないんですからね!
11/29
「純金の風が来るぞ」
天考命龍さんが伝えてきました。
「風のままに任せます」
辰巳様が伝えるとまた空に戻って行きました。
何が起こるのか聞いてみると、お金の消費を1/10に節約する事が出来る運気だそうです。
それなら風に任せた方が良いですね。
12/2
グルウオオオオオォォォ……
どこからか大きな獣の遠吠えのようなものが聞こえます。
方角を確認すると西ですね。
西の獣……白虎様ですか?
「気合いが入っているようですね」
辰巳様が苦笑しています。
なんでも11月までの功績で四神の一体の白虎様が『厳戒聖域』に入ることを許されたのだそうです。
そこには八十八の恩恵が眠っているとかでそれぞれの恩恵を手にした者に与えるとか。
それはすごいです!
「白虎様パワーアップですね」
「しかも今回は人の術師の力まで借りて全部集めるつもりのようですしね」
「そうなんですね」
もしかしたらその術師さんに恩恵を分けてあげたいから誘ったのかも。
あたしはそう思いました。
12/3
池のほとりに辰巳様が座り込んでいました。
珍しく思って後ろから覗いてみると、何か作っていました。
土の器……陶芸を始めたのでしょうか?
「梅子はこういう作業は珍しいですか?」
「今までされたことないですよね?」
「これは極皇天命の器の下地ですよ。成功するかはわかりません」
「そんなに難しい作業なんですか?」
「きちんと器が出来ればこの子に新しい運が付くはずなんです」
「それは上手くいくと良いですね!」
「明日の幸祭に間に合えば他の力も借りられるはずです」
「それは楽しみですね」
12/4
朝日に照らされた池の水がキラキラ輝いているな~と見ていたら、ほとりで座っていた辰巳様(徹夜でしょうか?)が上を見上げていて、そこには八角形の輪が浮かんでいました。
何ですかあれ!
「辰巳様ー!」
「巡幸天輪です。良いものが当たりました!」
こちらを振り返った辰巳様が微笑んでいます。
『八』は末広がりで縁起が良い数字なのだそうで、ただの天輪より良い物だそうです。
あの輪の向うから恩恵を招くのが辰巳様の力量にかかってくるとかで気を引き締めた表情になっています。
「幸祭の恩恵をここに」
辰巳様が両手の指で輪を作ると、それを頭上の巡幸天輪に向けて力を込めた龍の息吹を吹き込みました。
「ギャウギャウ」
何か鳴き声?が聞こえてきました。
「待つでし!ありゅじのとこに一番乗りはぼくでし!」
「いいや、あるじのとこ一番乗りは俺だ!」
ちゃんと喋ることが出来る生き物で安心しました。
ギャウギャウではあたしが困っちゃいます。
そうして巡幸天輪から姿を現したのは背中に鳥の羽が生えた二頭の小虎でした。
子供喋りの方が凛龍虎。
俺様しゃべりがの方が赤虎丸と言うらしいです。
「今までもあるじの近くには居たんだが白虎様のお力を借りてここまで近づけた。よろしく頼む」
「ありゅじの為に僕の出来りゅ事をがんばりゅでし!」
気合いは感じますが可愛いです。
12/10
小虎の二頭の落ち着きがないです。
どうしたのかと聞いたら、視線と感じるそうです。
「今日は虎の日ですから感覚が鋭くなっているのでしょう。梅子もわかっているでしょう?その為に結界も強化したのですし」
煌凛天慶神様ですね。
口に出したら意識がこちらに向きそうなので名前は言いませんが。
あるじ様の魂をさらおうとしている神様がいると二頭にも教えておきます。
「ありゅじが気に入らりぇるのは嬉しいでし。
でもでも、その神様はありゅじが好きなんでしか?
ううう……複雑でし……ありゅじが幸せになれるなら応援したいでしが、でもありゅじが選んだ人と幸せになってほしいでしね」
「俺は反対だ!俺の主だぞ!
愛してるのは俺だ!絶対譲らん!
幸せにするのも俺だー!」
赤虎丸のテンションが高くて、愛してるなんて口にするのはあたしには恥ずかしいけど、気持ち的には一緒です!
今だけでなくこれからも傍で見守っていたいです!
「何だか失礼な事を考えておられませんか?」
いきなり後ろから知らない声がしました!
え?結界は!?
「どうやら私達が警戒していたのとは違うお方のようですね。お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
辰巳様が静かに虚空を見つめて言うとホッとした溜息が聞こえました。
「金乗倍烈火と申します」
断臂護身明王様の左腕から出た炎がその名前だったはずです。
一切衆生への慈しみの心を体現された神様の身体から生まれた炎まで神格化されてしまうものなんですね。
「ありゅじの魂持って行かない?」
「そんな!愛しい方にそんな真似は致しません」
「悪ぃけど、主との縁結びは出来ねぇぞ。主を幸せにしてくれるなら幸せ置いてってくれよ!」
「彼女自身とは引き合わせてはいただけませんか?」
インナースペースにそれを求めて来られても無理よね。
あるじ様の自覚がないと。
あ、何だかガッカリしてるみたい。
「わかりました……祝宿輝箔をお送り致します」
「……想綬」
金乗倍烈火様の言葉に乗せてインナースペースの空に光る雲が現れて光を振り撒き始めました。
4月にあった天礼賛降幸粒雨に似ています。
でもあの雨よりも一粒一粒が輝いていますね。
二日間は縁結び効果が続くそうです。
「彼女の幸せを影ながら祈っています……」
寂しそうな言葉を残して金乗倍烈火様が帰って行かれました。
ありがとうございました。
12/12
光を振り撒く雲の上に神様が佇んでいるのを見つけました。
辰巳様によると歳天瓏皇神様のようです。
迷う者に道を指し示す神様です。
見ていましたが特にお言葉をくれるつもりはないようです。
雲が消えたら一緒にいなくなっていました。
12/14満月
空には満月、草原からはかすかな光、それに照らされた地面すれすれの水蒸気が白く曇って霧の雲を見せてくれています。
「幻想的な光景ですね」
「そうですね」
ゆっくり流れる霧の雲がまるで薄い雲海のようです。
その中に踏み出すと見た目はまるで
「雲に乗っているように見えませんか?」
「見えますよ」
微笑む辰巳様は我が子を見るような顔をされてます。
思わずほっぺが膨らんでしまいます。
東屋から離れて池を見に行くと、霧は池にも流れ込んでいました。
でも何だか水は霧を弾いているみたいです。
水と霧って相性悪いのでしょうか?
近い物のように感じるんですが。
「自然現象的には近い物ですが、このインナースペース的に言えば『かすみ』は空気とも水とも合い入れない異物ですね」
「あるじ様の中のここに異物があって大丈夫ですか?」
「清廉潔白な人間などいませんからね。こうして目に見える形にして光や熱で浄化するんですよ」
それでこの満月の光ですね。
じゃあいっぱい照らしてくださいお月様。
人間が時々お日様に当たりに行きたくなるのは浄化したい気持ちが貯まっているからなのかもしれませんね。
あるじ様は満月のお庭に出て空を見上げる事が時々あります。
満月は月に一度なのでそんなに頻繁ではないですけど。
いつまでも元気でいてほしいです。
12/15
「キャン!」
草原を走り回っていた羽のある小虎、凛龍虎の悲鳴が聞こえました。
駆けよってみると前足を舐めていました。
「何かにつまづいたみたいでし」
「その位の受け身取れよな」
「ぶつかられた時ならできましゅけど、固い物がいきなり当たりゅのは痛いでし。避けられると思って出した足が箪笥の角にぶつかるのと同じでし!」
飛べるなら出来そうと口を出しかけましたが、具体的な例えを聞いて閉じました。
それで何につまづいたんでしょう?
そこには木の箱がありました。
からくり箱のような寄木細工の箱です。
あたしの両手の中にすっぽり入る位の小さい箱。
これなら気付かないでつまづくかも。
でも何でしょう、力を感じます。
「役目を終えたご神木を集めて作ってあるな」
「冷気を感じるでし。寒いとこから来たんでし?」
触っていいのか迷いますね。
一回つまづかれたのだから触るのは平気かもですけどと悩んでいると、珍しく(笑)松珀さんが舞い降りてきました。
つまずいた話をすると地面を走っているからだと言われてしまいました。
小虎達は地面も空もどっちも好きなようで反論していましたが。
「それは真幸問答箱だろう。名前の通り幸せを問いかければかなえてくれる占術具のはずだ」
人間の術師に仕えた事もある松珀さんは道具にも詳しいのでしょうか?
「ありゅじの為に使えるでしか?」
「人が使う道具なのでな、我らが使えるかはわからぬ」
「もったいねえな」
箱を見つめる松珀さんと小虎達。
あるじ様が使う道具がここに現れるのは初めてではないので、あたしは落ち着いたものですよ。
12/18
ガタンッ!
15日から東屋で目を閉じて集中してた辰巳様が勢いよく立ち上がって椅子が倒れました。
「何てことだ!」
かなり狼狽えています。
辰巳様には何が見えているんでしょうか?
「辰巳様、あたしにも教えてください」
「ああ、そうだね。すまない。皆に周知しないといけないね」
珍しくインナースペースの守護者一同が勢ぞろいです。
「15日から春日大社で若宮おん祭が行われていて、その裏で行われていた龍の神々の集まりを末端の龍神の私はここから見守っていたのです。
内容は龍神になる為に新しく誕生した龍を預ける親を決めるもので、私的には話に加われるような立場ではなかったのです。
しかし話の流れで今年の神恵麗使に任せてはどうだと言う話が出てきてね……」
「え?」
「ん?」
「はぁ?」
「なんででし?」
「面倒くさがったな上は」
赤虎丸はっきり言い過ぎです!
確か若宮おん祭は今日までですものね。きっと神々の相談も今日までに決めないといけなかったんでしょう。
でもだからって、あるじ様に押し付けるのは……はぁ。
「決まってしまったのか?」
天考命龍さんが不安げな声を上げます。
そうなると龍の天考命龍さんと龍神の辰巳様の負担がかなりになるはずですものね。
「この子自身が了承しなかったから親には選ばれませんでした。でももっと面倒な事に……『龍仁』に選ばれたんです」
「龍神?」
「じんの部分が仁義の仁です。言葉的に言うと龍の依代の事です」
「憑りつかれるって事かよ!」
「そうです」
「体に悪いでし」
「自覚のない主に幼い龍を憑かせるのは私も反対だ」
「そうなると、結局ここに引き込んで親代わりになるのが一番安全か……」
「残念ながらそうですね」
天考命龍さんのため息交じりの言葉に、辰巳様が頷きました。
今から疲れた顔をされてます。
「生まれたばかりなんですよね? それなら言って聞かせれば良い子になってくれませんか?」
「それに期待する他ないですね」
そう話し合いが行われた日の夕方。
インナースペースに耳鳴りのような鳴き声が響き渡りました。
「来ましたね。憑依が始まったらこちらに誘導をお願いします」
「わかった」
「任されよ」
天考命龍さんと松珀さんが上空に出来るであろう空間の薄い部分を探します。
上手くいきますように。
あたしは祈っておきます。
「……!」
「……」
上空での会話は聞き取れませんが、二人ともが同じ場所に向かったので見つけたみたいです。
見ていると空に向けて松珀さんが頭突きを繰り返しています。
しばらくするとそこから何かが出てきて、天考命龍さんが大きな口でわしっと咥えて引きづり込みました。
かなり強引な手段だったみたいですね。
そのままこちらに降りて来たのでお迎えします。
「上手く霊体ごとつかめましたか?」
辰巳様の言葉に天考命龍さんは取って来た龍を咥えたまま頷きました。
両腕を出した辰巳様を前に口を開き、咥えていた子龍を離します。
子龍はかなり驚いたのか硬直していました。
色は桃色ですね。
身体を撫でると硬直は解け、辰巳様はとても手際よく子龍を左腕に巻き付けてしっぽの先をつかみました。
その状態で頭を撫でて覚醒を促していました。
暴れられない為の措置だそうです。
龍としての名前は大天啓愛煌凛慶龍……長い名前ですね。
目が覚めて頭以外が動かせない事に困惑しているようでした。
話をしてこのインナースペースから出ない事を条件に離したようです。
「名前が長いから略称を決めても良いでしょうか?」
「いいんじゃないか? 呼びづらいし」
「あたし的には『天凛』なんて可愛いと思うんですけど」
「桃色の龍さんにはあってりゅと思うでし」
それを聞いた子龍は何だか狼狽えていた。
周りのみんなには真名を言い当てられたと言えるはずもなく、黙り込んでいた。
何度か呼ばれてみて、真名と認識しないで呼ばれる分には行動を縛る効果がなかったことにホッとしていたのだった。
12/21冬至
あるじ様が現実で冬至カボチャを作ったらしく、インナースペースの東屋にもおすそ分けが届いていました。
12/28
「福分けの祭りに言ってきていいか?」
「慶録祭寿伝って言うでし」
そこは神様たちが年末に集まるとこでし。
集められた神様の力をいろんなとこに運ぶでし!
参加すればありゅじのとこにも持ってこれりゅでし」
「いいと思う。良いですよね!辰巳様?」
「行っておいで。良い運気を運んできてくださいね」
「もちろんだぜ」
「もちろんでし」
12/31
「ただいまでし」
「待たせたな」
小虎の二頭が運んできたものは
・幸せを引き寄せる金彩虹珠
・持っている運気を倍増させる『特別極幸恩恵』をもたらす幸凰ノ朱雀像(金色)
なかなか良いもののようです。
皆今年もありがとう。
2017年もよろしくね。
本当は正月の三日くらいに出したかったのですが、書き終わりませんでした。
場違いでスミマセン。