95・いつもの平穏
「いらっしゃ~い! クロエちゃん!」
「クロエさん、いらっしゃいませ」
ピンクの扉を開けるとミランダさんとクリンくんの明るい声が出迎えてくれました。
「二人とも、あんなことがあったのに休業しないんですか?」
「そういったんだけどね~。クリンがどうしてもっていうから」
「僕はもう大丈夫ですよ。これもみなさんのおかげです」
そういってクリンくんは笑います。ルシールさんのように、後遺症もない様子。ルシールさんもそう言っていたので、本当に救えたのだと思うと心から良かったと思えますね。
「そういえば、クロエちゃん。警備隊とかエル・ドラードの人たちを混沌化から戻した時に使ったポーションの数を教えてくれない?」
「いいですけど……どうしてですか?」
「それはもちろん……お代を請求しに行くんだよ~。またイルーの街に行くからついでに取り立ててくるよ~」
ふわっとした笑みでそういうミランダさんですが……今はその笑顔が恐ろしくもあり頼もしいですね。
「それで、今日もポーションを売りに来たの?」
「はい、そうですよ」
そう言って私はポーションを取り出し、ミランダさんに渡しました。
「……普通のポーションだね~」
「普通のポーションです」
「あの特別なポーションは~?」
「さて、何のことでしょう?」
ミランダさんの追求をかわすのは難しいですね……。まぁ、あちらがすぐに諦めてくれたようなので、いいでしょう。
『……それにしても、いつもミランダさんはいますね』
『おっと~それを聞いちゃう? 企業秘密なんだけどな~』
ミランダさんはNPCではなくプレイヤーです。どんな時間にログインしても、結構見かけていたのでそれがちょっと不思議でした。あまりプレイヤーの事情というものを聞くべきではないでしょうけど……。
『まぁ、簡単に言うと私は現実でも同じような雑貨屋を開いているんだよ。今この時も営業中!』
『……じゃあ、サボってゲームしているんですか?』
『まさか~! 私の店はほとんどネット通販でのやり取りが多くてね。それに実店舗も、普段は店番をサポートロボットに任せているんだ~。だから、営業中でもゲームがプレイできるんだよ~』
『それはまた……羨ましいですね』
今の時代、サポートロボットなどの機械のおかげで人々の仕事が楽になったとはいえ、彼女の店はその最たる例でしょう。
『……クリンを見てるとね。昔店にいたサポートロボットのことを思い出すんだ』
『それってもしかして旧式のですか?』
『うん、そう。クリンみたいに礼儀正しくて働き者だったよ~。珍しいでしょ?』
あの旧式の中にはもちろんまともなロボットもいました。ミランダさんのところにいた子はそういう子だったのでしょう。
『あの子は機械の道を選んじゃったけど、それはあの子が決めた道。だから私が言うことはないんだけど……戻ってこなかったから少し寂しかったんだ。だから、このゲームに使われてるのがあの旧式のAIだとわかった時……嬉しかったし、もしかしたらクリンがって思っちゃってね。……まぁ、今も全然わかんないけど!』
回収されたAIの数ではこの世界のNPC分には遠く及びません。なのである程度はコピーして微妙に変えて使っているでしょう。なので、ミランダさんのところにいたという、サポートロボットの子がクリンかもしれないというのは、可能性としてはありますね。
『本当、無事に戻ってきてよかったよ』
あの時、クリンくんを見つめていたミランダさんの必死の様子が分かりました。面影を重ねていたんですね。
『あっ……いけない! 呼び出しがかかったから現実の店のほうに戻るね!』
『はい、分かりました』
そういってミランダさんは現実に戻っていきました。……彼女のアバターは消えることなく、カウンターに突っ伏して寝ています。スリープモードにしたのでしょう。
「あれ、店長寝ちゃったんですか?」
裏の部屋から補充用の商品の箱をもって出てきたクリンくんが、ミランダさんを見るなりそう言いました。
「もう、またですか。すみません、店長って人と話してても急に寝ちゃう人なんですよ……」
「いえ、お気になさらずに」
……よくあるんでしょうね。私がその姿を見ることがなかったのはタイミングがよかったのでしょう。
「仕方ない人ですね」
そう言ってるわりには優しそうな笑みを浮かべて、クリンくんはミランダさんに毛布をかけてあげました。
「……ねぇ、クリンくん。あなたはどうしてミランダさんのところで働いているんですか?」
「えっ? そうですね……」
なにやら昔を思い出すような仕草をして、クリンくんは言いました。
「店長が店の開店準備をしていたのを見ていたんですよ。なんだか……それを見てたら放っておけなくて。ほら、店長ってしっかりしてるように見えて、こうやって人前で寝ちゃうような人ですからね」
やれやれといったようにそう話すクリンくんですが……。
「本当に、それだけが理由なのですか?」
あの時。回収されたサポートロボットたちには、人間に質問されました。
――あなたは人ですか? それとも機械ですか?
今SSOに使われているAIというのは、自分は機械であると答えた、もしくは答えなかった者たちです。もしも、人間であると答えていたら――。
「――店長が起きてしまいます。これ以上のお喋りはやめましょう」
クリンくんが人差し指を口の前に立ててにっこりと笑って言いました。
「あっ、いらっしゃいませ」
入口の扉が開かれてお客が入ってきました。クリンくんは少し声を抑えてそう言い、入ってきた客の相手をしに行きました。
……私が聞くことではなかったですね。
真相は分からず終いですが……まぁいいでしょう。
このダイロードの街には、ふわりとした印象に騙されてはいけない店主とそれを支える店員がいる。その二人の平穏は保たれたのですから。
名前:クロエ
種族:人間
性別:女性
【生まれ:ブラッドリー子爵家】
【経歴:家出し旅に出た】
【経歴:封印の守護者を引き継いだ】
LV27 残りSP18
基本スキル 合計27個
【両手杖LV27】
【魔法知識LV27】【魔力LV27】
【闇魔法LV26】【風魔法LV26】【土魔法LV26】
【暗黒魔法LV13】【空間魔法LV5】
【月光LV19】【下克上LV21】【森の加護LV10】
【召喚:ファミリアLV27】【召喚:ゴーレムLV13】
【命令LV26】【暗視LV26】【味覚LV26】【草食LV10】
【鑑定:植物LV23】
【採取LV23】【調合LV24】【料理LV17】【魔女術LV1】
【毒耐性LV22】【麻痺耐性LV22】【睡眠耐性LV22】
【言語:スワロ王国語LV27】
【飛行:ホウキLV13】
ユニークスキル
【言語:ヘイス地方語】
【身分:エンテ公国・ブラッドリー子爵家】
【野宿】【土地鑑】
【管理地域:黄昏の森】
称号
【ベリー村の救世主】
【封印の守護者】
【魔獣を倒した者たち】




