92・幻影の街 その1
*かなりメタな話がありますが、あくまキャラ目線でのゲームに対してのメタ話です。
*ゲーム内での出来事は全て劇中劇であると思ってください。
あれから一日が経ちました。イルーの鉱山街での出来事が一段落したあたりで私はログアウトしました。
只今メンテナンス中。しばらく待ち、やっとメンテナンスが終了。さぁやるぞ……と思いましたがメンテナンス内容のお知らせに気になる情報を見つけました。
《いつもSSOをプレイして頂き、誠にありがとうございます。SSO運営チームです。本日のメンテナンス終了に伴い、かねてよりご要望がありました『ユーザー交流用サーバー』として『幻影の街』を実装いたしました》
ユーザー交流用サーバー? ……説明を読むとどうやらゲーム空間から切り離された特殊サーバーのようですね。
どうしてこんなサーバーが必要になったかというと……主にロールプレイヤーの多いこのSSOでは、ゲーム中でのプレイヤー同士の交流が難しいからですね。
没入感を出すためにNPCとの区別が分からないようにした結果、相手がプレイヤーかNPCなのかわからなくなったり、操作するキャラ同士が立場上敵対していて話ができる状態じゃなかったり、そもそもゲーム中でメタな話をしたくないプレイヤーがいたり……このゲームならではな問題がありました。
今までプレイヤー同士の交流はもっぱらゲーム外で行われていたようですが、公式でそういう場を設けて欲しいという声が多かったらしく、この度交流用サーバーが誕生したようですね。
この交流用サーバーにはゲーム内で使っているキャラクターモデルをそのまま使えるみたいです。外部に持ち出そうとするとライセンス料を払わないといけないので、その必要がないのがいいですね。ただ、スキルなどは使えないみたいです。
しかもゲームユーザー以外の人もゲストとして入れるみたいです。今はプレイ人数に制限がかかっているSSOですが将来的には無制限開放になるため、その将来の新規ユーザーに少しでもゲームの雰囲気をわかってもらおうとする宣伝でしょう。……あの子を誘うというのもいいですね。
あぁ、このサーバー……いえ幻影の街といいましょう。設定もあわせて公開されていますね。夢を見ている間に行くことができるという現実と夢のはざまに存在するのが、この幻影の街という設定らしい。
ゲーム世界と繋げる設定を出してくるあたりこの運営らしいです。そんな設定があるのもこの幻影の街にはゲームユーザーだけでなく、NPCたちも訪れるからみたいです。
公式サイトには今の幻影の街の中の様子がライブ配信されていました。さっそくログインしているユーザーもいるみたいで、白い街には様々な種族の人たちが歩いていたり、話していたりしました。
ん……? あれ? これってルシールさん!?
なんてことでしょうか。切り替わるライブ映像を見ていたら、ルシールさんがいましたよ。しかも老婆の姿です。隣にオークまでいるんですが。まさかアールじゃないでしょうね?
こうしてはいられません。真相を確かめるために、私はゲームサーバーではなく、交流用サーバーのほうに接続しました。
◇ ◇ ◇
「おぉ……」
思わず声が出てしまう。ログインした先はダイロードの始まりの広場よりも、大きな広場でした。広場を行き交う様々な人々が見え、その足元は白い石畳が敷き詰められています。
中央にはかつて世界を守った星の勇者――五人の英雄を模した大きな石像がありました。……SSOのCMに登場していた人たちにそっくりですね。彼らがあの英雄だったんだ……。
ふと、そのうちの一人に目が行く。エルフの魔女でした。どうやら私が憧れを抱いていた人物はあなたと同じだったようですね、クロエ。確か名前は……アストレアでしたか。
その石像の下では、音楽隊がノリの良い音楽を響かせていました。さながらお祭りでも開催されているかのような雰囲気です。
確かこの街はゲーム中にある教国の神都そのままらしいです。教国といえば、星の教会の総本山でしたか。
「あっすみません」
そんな風に初めて見る街の景色を眺めていたら、隣の人にぶつかって……いや人ですか? 緑の葉っぱを頭につけた木ですね。
「こちらこそすみません。葉っぱで視野が狭いもので……」
そう人型をした木が謝ると連れの魚……? 宙を泳ぐ巨大魚とともに立ち去っていきました。……今の木の人はトレントですね。魚もモンスターでしょう。
魔物側のプレイヤーのようでした。交流用サーバーですから魔物も魔族も集まっています。そのおかげで、魑魅魍魎の魔境の街になっている……。ゲーム中の神都では絶対に見られない光景でしょう。
あの魔物がプレイヤーだと一目で分かりましたが、それは彼らを表すカーソルが緑色だったからです。
このサーバーではプレイヤーとNPCの区別が付くようで、プレイヤーは緑色、NPCは青色で表示されます。GMは赤色らしいですよ。
「まさか、あなたたちがこんなところにいるとは思いませんでしたよ」
人混みをかき分け、私は探していた二人を見つけ話しかけました。
「おや、クロエじゃないかい。お前さんともこの幻影の街で出会えるとはな」
シワを深めて屈託のない笑みをするルシールさん。そして嬉しそうに手を振るアールがいました。足元をよく見るとベルもいましたね。
「いやはや、ここが夢の中の街とはいえ……神都の街を久々に見たのぅ。相変わらず綺麗な街だね」
そう話すルシールさんを囲うターゲットサークルの色は、やはり青色でした。そして隣のアールとベルも青色です。彼女らは正真正銘のNPCだったようですね。
「確かにそうですね。……そういえばニルはいないんですね」
ベルがいるくらいですからニルがいても不思議ではないのですが……。
「あやつがこのような騒がしい場所に来ると思うか?」
「…………来ませんね」
あのニルでした。いくら夢の中だろうと静かな場所を好みそうなニルが来そうにありません。来るとしたらここに食べ物があったらでしょう。……そこまで忠実にキャラを再現しなくてもいいじゃありませんか。
まぁ、ニルは確認できませんがNPCなのは確実でしょう。
『……もしもし、今ログインしたのですが、どちらにいらっしゃいますか?』
その時、私の耳元から声が聞こえてきました。この声は我が友人の声ですね。
『あぁ、すみません。とりあえず広場の中央で待っててください』
『はい、分かりましたわ』
とりあえず友人との会話をそこで切り上げます。なぜ私の友人がいるのかというと、先程呼んでおいたのです。彼女には以前、SSOをプレイすることを勧めましたから。始める前にSSOがどんな雰囲気のゲームなのか教えるためにいいと思ったのです。
「ふむ、お前さんは用事があるようだね。私らは適当にそのへんをふらついておるから、何かあれば話しかけにくるといい」
「はい、わかりました」
「あぁ、そうだった。一つ言い忘れておったな」
ルシールさんは思い出したようにそういいました。
「ここは現実と夢のはざまにある幻影の街。この街での記憶は目が覚めれば泡沫の夢のようにすべて忘れる。それゆえに中にはいつもとは違う行動をする者がいるかもしれぬが、あまり気にするな。どうせ全て忘れるのだからね。もちろん、それはお前さん自身にも言えることだ。夢の中くらいハメを外してみるのも良いと思うよ」
なんだかNPCらしい説明セリフを言ってから、ルシールさんはアールとベルと共に人混みの中へ消えていきました。……今の言葉を考えるに、ロールプレイをしていなくても気にしないようにしろという忠告でしょうか。そして、ロールプレイをしなくても大丈夫だという助言……?
ルシールさんの言葉の真意はわかりませんが、ここは交流用サーバー。なのでロールなしでも最初から大丈夫だと思います。記憶も維持しない設定ですからね。……キャラに残らなくてもプレイヤーの記憶には残るので、ゲーム中にここの記憶をうっかり出したりしないように気をつけなくては。
「……えっと、クロエだったかしら?」
中央に向かうと名前を呼ばれ、振り向くとそこにはごくごく普通の町娘といった感じの女の子がいました。手のひらを頬に当てて少し戸惑った顔をしています。
クロエには女の子に見覚えはありませんでしたが、私にはあります。ターゲットサークルの色は緑。同時に表示されたIDはゲームユーザーIDではなくゲストID。そのIDナンバーには覚えがあります。
「すみません、ちょっと知り合いと話していたもので……待たせてごめんなさいね」
「まぁ、そうでしたの。なら良かったわ、わたくしこのまま貴女に忘れ去られてしまったのかと思ってしまいましたもの」
「そんなことするあるわけないじゃないですか」
「ふふ、冗談ですよ」
そう言って彼女は笑います。友人の外見はゲスト用のアバターなのでしょう。特徴がないのが特徴と言った感じで、今のプレイヤーが多く集まるこの街の中では逆に目立っていました。
「こんな時間に来てくれてありがとう。……そちらは夜中の一時でしょう?」
「いいえ、構いませんわ。それに気になっていましたもの。あなたが熱中するゲームについてね?」
メンテナンス終了日時が世界共通時間で夜中の零時終了でした。私のところはまだ昼の十三時ですが、彼女のいる場所は夜中の一時です。
「それにしても、“クロエ”は確かに魔女らしい格好が似合う可愛い子ですね」
「そうでしょう?」
ちょっと自慢するようにくるりとその場で回転します。自分がキャラクリしたキャラを褒められたのです。嬉しいに決まっているでしょう。
「ええ、本当にそうですね。その意見には僕も同意しますよ」
そういって現れたのは鎧を着込んだ金髪碧眼の騎士でした。
「……あぁなんだ、カイルさんじゃありませんか」
「なんだろう、今の言葉には落胆の色が見えるのは僕の気のせいかな……?」
端正な顔は少し傷ついた表情をしていました。見た目は相変わらずイケメンな騎士そのものなのですが……
「そのキザったらしい演技のせいに決まってんだろ。カイルのおっさん」
そんなカイルさんの隣に現れたのはライトくんでした。残念なものを見るその目は、今の私と同じ目をしていますね。そして若干眠そうです。……時差を考えるとライトくんのところは朝でしょうね。
「……はぁ、もうなんだよ。俺はただ“カイル”の演技をしてただけだろ。中身じゃなくてちゃんとキャラを見ろよな、キャラを」
さっきまでのいい匂いがしそうな爽やかさはどこへやら。若干加齢臭がしそうなおっさんがでてきました。同じ外見なのに……。
「せっかく可愛いと褒めてやったのに……」
「褒めてくれたのは“カイル”ですから。あなたじゃありません」
「こういう時にはちゃんとキャラを見やがって……まぁその通りだが。可愛いとは思うが俺の好みとは外れるからなぁ“クロエ”は」
「へぇ、じゃあどういう子が好みなんですか?」
「そりゃもちろん、大人びていて綺麗でスタイルがイイ女だな!」
あぁー……それはクロエと離れていますね。しかし、そういうことをはっきりと言わんでください。あなたの外見“カイル”ですよ。あぁ、軽くキャラ崩壊が。まぁ今に始まったことではありませんが……。
「クロエ、この方たちは?」
「二人ともゲーム内で知り合った方々で、ロールプレイヤーなんですよ。こちら私の友人です」
「初めまして、わたくしはクロエの友人です。ここで名乗る名を今は持っておりませんので、名乗れないご無礼をお許しくださいませ」
そう二人に自己紹介した後、友人は興味深そうに彼らを見ました。
「いえいえ、お気になさらずに。僕の名前はカイル。王国騎士をしていた父親のようになるべく、騎士としての修行をしながら旅をしています」
パッと加齢臭を消して爽やかな青年騎士に戻ったカイルさん。その切り替えの上手さは素晴らしいですね。さっきまで好みの女の話をしていたおっさんには見えませんよ。
「えっあっ……俺は、あーゴホン……。――俺の名はライト。この世界の悪を討ち滅ぼし世界に光を与え、いずれ名を歴史に残す、星剣レックスに選ばれし勇者だ!」
対してこちらはちょっと躓きながらも頑張ってロールプレイをするライトくん。……その姿を見ていると応援したくなりますね。
「そういえば、“クロエ”の自己紹介をされていませんわね?」
「……えっ?」
隣の友人が期待のこもった目で見つめてくる。まさか、やれと言うのですか?
ならその期待に答えましょう!
「では改めまして自己紹介させていただきます。私の名前はクロエです。英雄の魔女アストレアに憧れて、貴族の身分を捨て旅に出ました。その旅の末、今は師匠とも呼べる魔術師に出会い、その方の元で魔法の修行をしているところです。将来は立派な魔術師……いえ、魔女になることですよ」
「おお~、みなさんさすがでございます~!」
目をキラキラさせて拍手をする友人。見知った人相手にするのはちょっと恥ずかしかったですが、はりきってやった甲斐がありますね。
「クロエって貴族だったのか……。確かに最初に会った時、ドレスも着ていたし上品な感じではあったが……」
「元が付きますけどね。経歴で家出を引いたので」
そういえば貴族だということを話したことがありませんでしたね。カイルさんがなるほどと言った感じで頷いていました。
「ところで……そこで何をしているんですか、ツバキさん?」
「うぇっ!?」
私の視線の先には石像の台座に隠れるようにして、先程からこちらをチラチラ窺っていたツバキさんの姿がありました。




