表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セカンド・ストーリー・オンライン 理想の魔女目指して頑張ります。  作者: 彩帆
第二幕

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/130

85・拡散された情報


 空を飛んでいる時、街の様子を眺めましたが、地上の街は混沌の赤に染まっていました。

 いえ、それだけではありませんね。彼らを撃退する人たちの姿も少し見えました。今のところ、赤い軍勢よりは多くないですが……。


 屋敷に到着しました。屋敷の広い庭は逃げてきた住人たちが大勢います。あたりを見渡すと目立つ金色の集団とその近くにいたカイルさんたちも見つけられました。


 私の後に続いてアジーちゃん達もここへ到着。


「サヴァール! 無事で良かった……!」

「本当ですよ。とにかく無事で良かった」

「……お前らが言えた口じゃないだろ。なんで捕まった俺じゃなくて、お前らが一回死に戻りしてんだよ」

「えー死ぬより捕まるほうがヤバイじゃん、このゲーム。だって行動が制限されて――むぐっ!」

「……それ以上は言わせねぇぞ」


 眉間にシワを寄せつつサヴァールくんは、アジーちゃんの口を塞ぎました。……今はパーティチャットで話していない会話でした。当然周りにも聞こえています。

 アジーちゃんは別として、サヴァールくんとブルーイくんのロールプレイ時と中の人とのギャップがかなりあります。というより二人が逆だったほうがしっくりくるくらいですね。


「状況は深刻だが、まずはお互いの情報を確認しようか」


 この場に全員揃いました。カイルさんたちに私がこちらの状況を伝えました。ポコちゃんが【赤き混沌の使徒団】の一員であったこと、鍵が奪われてしまったことなど。


「こちらはサヴァールはもちろん、ジョニーさんと作業員たちを救出したよ。彼らはどうやら赤フードの連中の企みに利用されていたようだ」

「企み?」

「これだ。彼らは赤い霧の製造をしていた」


 カイルさんが手にしたのは赤い液体の入った丸い瓶。なるほど、これが赤い霧の発生源でしたか。


「そいつの原料はこのクズ石だ。まれに採掘される鉱石の一つだが、特に魔術的な使い道も宝石価値もないハズレ鉱石だったんだが……まさかそんな使い道があるとは知らなかったよ」


 オリヴァーくんが赤い霧の原料となったクズ石を見せてくれました。……私から見ればただの黒い石ころにしか見えません。ですがこれも鉱石の一種なのでしょう。


『かつて世界は混沌に飲まれていた。クズ石の中にその力を取り込んだ石が混じっていたとしても不思議ではない』


 肩に乗ったルシールさんが、赤い霧の瓶とクズ石を見ながらいいました。


『一つ一つは微々たる力であり、混沌そのままの塊である混沌石には遠く及ばないだろうが、抽出し集めればそれに近い力も持つだろうの』


 そうやって作られたのが赤い霧だったというわけですね。


「他にも何かしていたようだが……赤フードの連中があの場を爆破してしまってね。情報を集めきれなかった」


 ジョニーさんの家のほうを見てみます。……確かに建物が半壊していました。


「外に出てからはこの状態だ。追跡もままならず、住人の避難を優先してここまできたというわけだ」

「なるほど……ところでオリヴァーくんの鉱石は取り戻せましたか?」

「あぁ、そこのエルフの野郎が取り戻してくれたよ」


 複雑な表情でサヴァールくんを指すオリヴァーくん。……盗んだ相手が盗んだ物を取り戻してくれたのですからね、心中は複雑でしょう。


「クリンくんは?」


 サヴァールくんも、ジョニーさんたちも助かりました。しかし、私たちが最初から探していたあの少年の姿はどこを探しても見当たりません。


「分からない。あの家にはいなかったんだ」

「そんな……」

「でも、ジョニーさんの話では彼を見かけたらしい。だからあの赤フードの連中に攫われたとみていいだろう」


 また見間違いではないでしょうね……? まぁあれはポコちゃんの証言でしたから、嘘だったのでしょう。


「……クリンのことも心配だが、街に現れた赤フードの連中はどうするんだ? あのまま放っておいたら街が壊滅するぞ?」


 ライトくんが眼下に広がる赤い街を見て言いました。平時であれば美しい街並みが見えていたでしょうが、今は破壊を求めて混沌を撒き散らす赤い色が景観を損ねていました。


「……どうやら出てきたのは赤フードだけではないようですね」


 よく見れば赤フードの連中から市民を守ったりしつつ、撃退している人たちもいました。先程私を助けてくれたプレイヤー達のような人たちの姿、その数も増えているような気がします。


「本当だ。でも、なんだっていきなりこんな人数が現れたんだ。NPCならまだわかるけど、なんかプレイヤーぽいやつまで増えてきているし……さっきまで見る影もなかったじゃんかよ」

「SNSで呼びかけがあったのも原因の一つでしょうね」


 険しい表情をしたフライデーさんがそう言うと、ウィンドウを開いてこちらに見せてきました。出された画面にはSNSに投稿されたコメントでした。


////////////////////////////////


一般赤フードX@redfood_X

『赤き混沌の使徒団の諸君へ。現在イルー鉱山街にて顔出し組(フェイス)が作戦実行中。顔なし組(ノーフェイス)として作戦参加したい人はぜひ来てくれ! 世界に満たせ破壊と混沌!』


Monochrome@monochrome

『今私も現場にいる! ちょっとプレイヤー側が少ない。NPCだけの構成員だと難しいかも? 顔なし組で参加してくれる人来てー!』


MM@virtualidol_mm

『お 前 ら 潰 す !!!!』


MMちゃんマジ天使!@mmfan_no20087

『MMちゃんがお怒りすぎる……』


MMちゃんの下僕@mmfan_no88953

『でもそこが可愛い』


一般赤フードX@redfood_X

『質問あったので答えます。今回指揮を取ってる顔出し組、オズ一派です』


MELON@melon

『オズ一派とかマジか! ということはあの人もいる!? 近々本格的に動くとか言っていたけど……今だったかー。レベ上げ切り上げて今からそっち行きます!!』


PZ@pzpzp

『赤フードに入りたいと思ってたからちょうどいい。この機会にフードかぶります。とりあえずフード付きマントを赤に染めればいいよね?』


一般赤フードX@redfood_X

『新たな混沌の使徒よ、歓迎しよう。正装なくても赤フード被っときゃ赤フードの構成員として見るし、別に被ってなくても赤い衣装着て敵か味方かわかればOK。本当に正規のモブとして動きたいなら正装して被っといたほうがいいけど。まっそこまで堅い組織じゃないし、楽しくやろうぜ! 世界に満たせ破壊と混沌!』


PZ@pzpzp

『ありがとうございます、赤フード先輩! 世界に満たせ破壊と混沌!』


TAI@tai859

『なんかイルーの街でやばいこと起こってるんですけど……この騒動止めてくれるような正義側のプレイヤーは今すぐイルー街に来てくれー! 俺の街が地獄になる前にー!』


////////////////////////////////


「とまぁ、こんな感じでこの投稿を見た様々な人がここに集まりつつありますね」


 フライデーさんの言葉と見せられたコメントに納得します。赤フード組の一人がこうして情報を拡散、同じ組織員プレイヤーを呼び込んでいた。さらにその投稿を見た他プレイヤーまでここに集まってきつつあると……。


 赤フードの数はプレイヤーにしては多すぎると思うので半分以上はNPCでしょうか? それを撃退している人たちはきっとプレイヤーでしょう。


「何はともあれ、加勢に来てくれている人たちがいるということだね。ここは彼らと協力しつつ住人を守り赤フードの連中を撃退しましょう」

「ええ、それがいいでしょうね」

「おい、フライデー」


 カイルさんの言葉にフライデーさんが頷いたときでした。ラッシュさんがフライデーさんに話しかけたのです。表情は見るからに不機嫌そうですね。


「まさかこれ以上関わるつもりか? オリヴァーの盗まれた鉱石は取り戻した。これでいいだろ?」

「ラッシュ、ここまで来てしまったからには最後まで関わってみたいと思わないのですか? それに面白いクエストだと私は思うのですが……」


「面白いもんか。どうせ放っておいたってNPCは死なねーし、誰かが解決するだろ。それよりこの前見つけたダンジョンの攻略の為に情報を集めようぜ。他のやつに一番乗りを取られちまう」

「……ラッシュ。マスターなら、ここに残って彼らに協力していると私は思います」


 マスターという名前を出された時、ラッシュさんは一瞬たじろぎましたが続けて言いました。


「いいやフライデー、俺らはダンジョン攻略とレイドボス専門のクランだ。ロールプレイヤーじゃあるまいし、こんなことにこれ以上関わるのは無駄だ。忘れたのか? 今までの俺たちのあり方を。最速クリア更新、最強レイドボスの攻略、公式大会優勝……そうやって俺たちは栄光と称賛を掴み取り、伝説を作ってきた。このゲームでだって俺たちはそうあるべきだ……優先すべきことはこんな三文芝居の役者をすることじゃない!」


 昔を思い出すように語り、フライデーさんに訴えるラッシュさん。その表情は演技ではない、まぎれもなく真剣な表情でした。……この人は、真剣にゲームをプレイしているのですね。私とは違う方向性で。


「――それはフロンティアのエル・ドラードです。ここはもうフロンティアというゲームの中ではありません」


 物腰の柔らかかったフライデーさんの目がきつく細められ、ラッシュさんを見ました。


「いつまでフロンティアのエル・ドラードに拘るつもりですか? もうあのクランは解散し、なくなりました。過去の栄光を忘れたわけではありません。ですが、所詮は過去の話。今あるクランとは名前が一緒なだけの新たなクラン……SSOというゲームの中にあるクランです。ならば、そのゲームに沿ったプレイスタイルを確立し、遊んでいくのがゲーマーというものでしょう。そんなにフロンティアのようにプレイしたいなら、フロンティアに戻りなさい。誰も止めはしませんよ」


「フライデー、俺はそんなつもりは――」


「なら、前のゲームの常識を持ち込まないでください。このゲームは他とは比べ物にならないほどにシステムが特殊です。プレイヤーの行動がゲーム世界に与える影響力が強く、過去のゲームでの常識はあまり通用しない。……ラッシュ、あなたなら心の奥底では分かっていると思ったのですが、どうやら私の見当違いだったようですね」


 やれやれとため息を吐くフライデーさんでしたが、キツかった目元が元の柔らかさに戻っていきます。


「……すみません、言い過ぎました。あなたも私も、フロンティアを引退しSSOに移住すると宣言したマスターに付いてきた身です。あなたがこのゲームの性質に合わないのもわかります。……だからこそ、無理にこのゲームを続ける必要はありません。不快感を持ったままでゲームをプレイするのは、このSSOに対しても、好きでプレイしている他のプレイヤーにも失礼になるでしょうから」


 ……ラッシュさんとフライデーさん達にはそんな事情があったのですね。


 確かにラッシュさんの今までの態度や性格からして、どうしてこのようなゲームをプレイしているのか不思議でした。ロールプレイが推奨されるようなゲームでロールプレイを否定ということは、SSOというゲームの存在自体を否定することになるでしょう。


「俺は……――ッ!?」


 ラッシュさんが口を開き何かを言いました。ですが――突如轟音が鳴り響き、ラッシュさんの声も周囲の音もかき消しました。


 なんですか、今の音は!? まるで山を崩し落としたような爆発音でしたよ!?


「おい、あれを見ろ!」


 周りにいた住人たちも騒ぎ立てて、とある一方を見ています。眼下に広がる街、その最下層から、大きな、大きな土煙が上がっていました。どうやら先程の轟音の元はあそこみたいですね。……場所からして地下鉱山に続く入口でしょう。


「あれは……何?」


 空に天高く舞い上がる土煙、その向こうにまた大きな影が見えます。この位置からでも大きい影なので、相当大きいでしょう。土煙が徐々に晴れてゆき、その隙間から姿を表したそれは――まるで怪獣のようなモンスターでした。


 肌は岩肌よりも硬い白い鱗。まるで針山のような牙は見える口元は、建物を丸呑みできそうです。大きな図体を支える太い四足に、背中には宝石のようなコブ山があり夕日を反射し輝いている。


「グガアアァアアアアァアア!!!!」


 轟く咆哮が街を揺らす。思わず耳を塞いでしまうほどに、恐ろしい咆哮でした。

 怪物は足を上げてゆっくりと動き始めました。その様は光る白い山が動いているかのようです。


「あれは……魔獣ウィラメデス!」


 ――魔獣ウィラメデスですって……?





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Gzブレイン様より出版しました!
大筋は変えず色々加筆修正やエピソードを追加してあります。
kaworuさんの超綺麗で可愛いイラストも必見ですので、どうぞよろしくお願いします!
i328604
― 新着の感想 ―
[一言] 最後のデスですってに色々持って行かれてしまった。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ