79・見える真実
「ところで……なぜサヴァールくんが彼らに狙われたのか、もちろん知っていますよね? もしかして、オリヴァーくんの鉱石を盗んだことにも関係がありますか?」
縛られている二人は顔を見合わせる。どうしようかと悩んでいる様子でした。
「……それは……」
「僕が話しましょう。サヴァールもそのつもりだったみたいなので……ただし、話す代わりに約束して欲しいことがあります」
「なんでしょうか?」
「話を聞いたら僕らに協力してほしい。できれば僕らも解放して欲しいところですよ。サヴァールを助けに行きたいからね」
「……そう言われていますが、どうしますか?」
私はフライデーさんとラッシュさん。それからオリヴァーくんを見ます。
「なんだって俺らがこんなことを……」
「まぁまぁ、ラッシュ。これもクエストの一つだと思って彼らに付き合ってみましょう。むしろ、このゲームの遊び方としては彼らのほうが正しい」
「ゲームの遊び方に正しいもなにもない気がするけどなぁ……まっオレは鉱石さえ手に戻ってこればそれでいいよ。盗んだことに関しては許さねえけどな!」
オリヴァーくんは許しはしないようですが、今回の件に関しては反対はなさそうです。
「では、話してくれますか?」
「うん。……まず僕たちが彼の、オリヴァーさんの鉱石を盗んだことに関してだけど……僕たちはある依頼を受けたからなんだ。依頼主はこの街で大きな採掘現場を取り仕切る現場の作業者からだった」
「……まさかジョニーの奴か?」
「そう、ジョニーさんですよ」
オリヴァーくんが驚くように反応しました。
「知り合いですか?」
「あぁ、少しな。この街に工房を構えているようなプレイヤーなら一度は会うことになるようなNPCだ」
ブルーイくんの話によると……彼ら三人組の盗賊団【シオカゼ】はそのジョニーという男の人から依頼を受けたそうです。オリヴァーくんの持つ、鉱石【ムーンライトストーン】を盗んできて欲しいという依頼でした。
「……ジョニーならオレがあの鉱石を持っていたことも知っていた。鉱山の入り口から出てくる時に、思わず話しちまったのを今思い出したぜ……。それによく考えればジョニーの奴、オレの鉱石を譲って欲しいとか言ってたな。冗談だろうと思って軽く流しちまったけど……」
「冗談ではなく、本気で欲しかったようですね」
彼らに依頼を出すほどです。よっぽどの理由だったのでしょう。
「……NPCがそんな依頼を出すのか? 現にプレイヤー同士が衝突する事案になっちまってるってのに……前回のことといい……おかしいだろ」
「このゲームはそういうゲームのようです。目的が対立するような依頼が結構ある……簡単にPVPが勃発するような依頼をNPC側が出してくるようですね」
ラッシュさんとフライデーさんが今の話を聞いて、そんな会話をしていました。
確かに、前回のことといい、今回のことといい、確かにプレイヤー同士が争う結果となっていますね。それが意図的なのかは分かりませんけれど……このゲームは気づけばPVPをしていることがあります。
まぁ、本当にPVPになるかはプレイヤー次第でしょう。前回も回避をしようとすれば、できました。今回もこれからは回避できそうですね。……明らかに敵対している赤フード組がプレイヤーだった場合は回避不可能ですけれど。
「それで、どうして彼はそんな依頼をあなたたちに出したのですか?」
「……最初は僕たちも分からなかった。鉱石を手に入れて彼の屋敷に行った時に分かったんだけど……どうやら彼はあの赤いフードの連中に脅されているような感じだったよ」
「脅されている?」
「僕も詳しくは知らないけど……最初は彼らから鉱石の採掘依頼を受けていたようだ。ただ、段々と作業員の命を盾に取っては無理やりその仕事をさせていたみたいだよ」
赤フードの連中の目的は分かりませんが、どうやら大量の鉱石資源を彼らは必要としていたみたいです。最初は買い取っていたようですが……資金でも尽きたのでしょう、彼らを脅して鉱石の採掘をさせていたみたいだと、ブルーイくんが言っていました。
「さらに彼らは……禁止区域での採掘まで要求してきたようなんだ」
「禁止区域?」
「……禁止区域ってのは、その名の通り立ち入りが禁止されている採掘区域だ」
オリヴァーくんは知っているようで、禁止区域の説明をしてくれました。
「鉱山の深層付近がそうだ。そうなった理由は……あそこにはレイド級の強力なモンスターがいてな。第一期組が倒そうと何度も挑戦してたけど、みんな負けちまってよ。それを見たこの街の領主が危ないからって理由で封鎖したんだ」
そんな理由があったんですね……。まさか第一期組の行動が、このような事態を引き起こしていたとは。
「魔獣【ウィラメデス】のことですね。ストーンローラー種の突然変異による特殊個体でしたか……」
「フライデーさん、知っているんですか?」
「私は第一期組なので、あのモンスターと戦ったことがありますよ。残念ながら倒せませんでしたが……」
フライデーさん、第一期組だったのですね。それにしても魔獣【ウィラメデス】ですか……。
「僕たちにジョニーさんが依頼した理由は……きっと彼らが禁止区域で採れる鉱石が欲しいのではないかと思い、たまたま禁止区域で採ることができるムーンライトストーンを採掘したオリヴァーさんに目を付けたのではないかと思う」
「……んだよそういうことかよ。ジョニーの奴め、そんな理由だったなら言ってくれりゃいいのに……」
オリヴァーくんがそう言います。確かに最初からオリヴァーくんに話をしてしまえばよかったようにも思えます。
「言えなかったんだと思うよ。ああいった者たちだ、下手に情報が出回れば彼らの身も危ないと考えたんだと思う。リーダーという立場の方だ、他の部下たちを危険に晒したくなかったんだろう」
「ううむ……そうか……」
カイルさんの言葉に、オリヴァーくんは少し納得したような表情をしました。
「で、お前らがオリヴァーの鉱石を奪った理由は分かったけど……結局その鉱石はどうしたんだよ?」
ライトくんが話を急かすように、ブルーイくんに言います。
「これから話すよ。……オリヴァーさんの鉱石はジョニーさんに手渡しました。その後赤フードの彼らの手に渡りましたが……どうやら彼らはそれが目的ではなかったようなんだ」
「……鉱石が目的ではなかったと?」
「うん、ジョニーさんはそれで終わると思っていたようだけど……彼らはどうも禁止区域の中自体に用がある感じでした。だから今度は禁止区域を封鎖する門の鍵を任されていたジョニーさんを脅すような真似をしていたので――」
「私たちがその鍵を奪ってきちゃいました!」
えっへんといったように胸を張って言うアジーちゃんでした。
「……つまり、門の鍵を奪ったから、それを持っていたサヴァールくんが狙われたと……」
「いや、鍵は私が持ってるよ?」
「……えっ?」
思わずアジーちゃんを見る。そして本当のことか確かめるように隣のブルーイくんも見る。
「ええ、鍵はアジーが持っています。どうしてもっていうから持たせてみたのですが……まぁ結果的に彼らの手に渡らなくて済みましたが……」
「……つまり、サヴァールくんは鍵を持っていると思われて攫われたわけですか……」
まぁ確かにこの中でのリーダー的な存在は誰かと言われると……サヴァールくんなんですよね……。
「サヴァールはいい囮役をやってくれたわ! 彼の功績を称えるためにもこの盗賊団のリーダーである私が助けに行かなきゃならないわね!」
そういう自称リーダーのアジーちゃんでした。
「で、私たちに協力してくれるの?」
「……今の話を聞く限りでは、あなた達の目的とこちらの目的は一致しているように思いますからね」
こちらとしても攫われたクリンくんのことが心配です。さらに何かを企んでいるらしい赤いフードの連中。これは守護者としても、彼らの組織のことが気に食わないクロエとしても潰しに行くべきでしょう。
「みなさんもそれでいいですね?」
意見は出揃い、彼ら三人組と協力して赤いフードの連中を追うことになりました。
「あーやっと自由になれたー!」
「ご協力感謝します」
協力関係が築かれたことで、約束通り縄を解かれたアジーちゃんとブルーイくん。さて、これから赤いフードの連中を探す必要がありますね。
「問題は彼らがどこにいるかですね……」
「たぶん、ジョニーさんの屋敷だと思うよ。彼らはそこを拠点にしていたみたいだから」
カイルさんの言葉にアジーちゃんが答える。
「ねぇ、クリンを見かけなかった? 茶髪の男の子なんだけど彼らに攫われちゃって……」
「うーん、私たちもすぐに出てきちゃったから分からない……ごめんよ」
ミランダさんの言葉に、申し訳なさそうに話すアジーちゃん。
盗賊をしていますが、根は良いのでしょう。もちろん他の二人も。
「でもその子も攫われたのなら、サヴァールと一緒にされる可能性がありそうだね。もしかしたら屋敷のどこかにいるのかもしれないわ」
「サヴァールが鍵を持っていないという事実に気づくのも時間の問題です。早めに行ったほうがいいだろうね」
「オレの鉱石もそこにあるよな?」
「赤フード連中が持っていってしまったので確証はないけど、おそらくは……」
オリヴァーくんの言葉に少し申し訳なさそうに答えるブルーイくん。彼らが盗んだからか、少し罪悪感でもあるのでしょうか。つくづく盗賊に向いてない人たちです。
……そういえば、先程からルシールさんの姿を見ません。何かあれば話をしてくるような人なのに……。思わずルシールさんの姿を探すと、アールがこちらに寄ってきます。その手には黒猫が抱えられていました。よく見ると、それはルシールさんではなく、黒猫のベルのようです。
「ルシールさんの召喚が解除されていたのですか?」
コクリと頷くアール。このことをアールは伝えたかったようですが、私たちが話し合いをしていたから、上手く切り出せなかったのでしょう。
『やっと気付いたか! 私の存在など忘れられたかと思うたぞ!』
『それはすみませんでした……こちらも色々あったもので……』
どうやら解除された原因は先程の赤い霧のせいだそうです。依代となっている黒猫のベルは普通の猫なので、その赤い霧の影響を受けてしまったようでした。そのせいで体に留まれなくなり憑依状態が解除されたようです。
『ふむ……なるほどの。やはりあいつらか……』
『今からその彼らがいるという屋敷に向かうという話にまとまりつつあります』
状況を簡単にルシールさんに伝えた所で大きな声が響きました。
「だああ! もう話し合いなんてしてる暇ないだろ! ごちゃごちゃ考えるのは後にしようぜ! ほらクリンを助けに行くぞ、ミランダ!」
「あっちょっとライトくん!?」
「ライト、また勝手に!!」
我慢の限界か、ライトくんがミランダさんの手を引っ張って飛び出していく。その後を慌ててカイルさんが追っていきました。
「では私たちも行きましょうか。オリヴァーの鉱石を取り戻すために」
「あぁ、さっさとこんな面倒くさいことを終わらせよう」
「ジョニーの屋敷は覚えがあるぜ。案内しよう」
フライデーとラッシュさん達、それからクランメンバー達が出ていく。オリヴァーくんも彼らと共に続けて出ていきました。
「さぁ、私たちもサヴァールを助けに行くわよ!」
「待って、まさか鍵を持っていくつもり?」
出ていこうとするアジーちゃんを呼び止めたのはポコちゃんでした。
「あっそうだった……これどうしよっか? ええっと……どこにあったかな?」
「アジー……まさかまた無くしたとかいいませんよね?」
「いやいや、まさか……あっ、あったあった!」
慌てるようにメニューを出して探していたアジーちゃんは、目当ての物を取り出しました。彼女の手元に出てきたのは、少し大きめの黒い鍵でした。
「それが門の鍵ですか?」
「そうそう、これをどうしようかな?」
「……ならあたしが持っているよ」
そう提案したのはポコちゃんでした。
「あたしはここで事態の収束をしてくれるまで待っているつもりだから、それまで預かるよ」
「おお~なら任せちゃおうかな!」
アジーちゃんはポコちゃんにその鍵を手渡そうとしますが……、
「待ってください。その鍵は私が持ちましょう」
私はアジーちゃんの手から鍵をひったくりました。
「ク、クロエさん? どうして……あなたも屋敷に行くでしょ? ならこの子に渡したほうが……」
「そうよ、クロエさん。あたしに預けておいたほうが安全よ?」
二人は私の行動に驚き、そして困惑した表情をしています。
「……申し訳ありませんが、私はポコちゃんのことを信用していません」
今までの行動を垣間見るに……この人に鍵を渡してはいけないと私は思いました。
「へぇ……。――それは残念ね」
――ポコちゃんの瞳が急に鋭くなった。
「ぐっ……!」
腹部に衝撃が走る。一瞬にして私の近くまで彼女が近づいてきたポコちゃんが、私にボディブローを決めたのです。警戒していたというのに、この速さでは反応するのは無理。
「クロエさん!」
吹き飛ばされて地面に倒れる私を余所に、ブルーイくんの横を通り抜け鍵を奪って逃げていくポコちゃんの姿が見えました。
「アジーちゃん、彼女を追ってください! あなたの足なら追いつけるでしょう!」
「わ、分かったよー!!」
アジーちゃんが彼女を追うように建物から出ていく。その足の速さはポコちゃんに匹敵するほどなので、きっと見失うこともないでしょう。二人を追いかけるように、外に居るニルにも指示を出します。
それにしても……彼女のことを不審に思い、警戒をしてたとはいえ下手を打ちました。というのもなかなか彼女がボロを出さなかったのが原因。こちらが様子見をしすぎましたか。
「ブルーイくん、サヴァールくんの事もありますが……申し訳ありません。こちらを手伝ってもらっていいですか?」
「いいですよ。こちらも鍵を取られたとあってはサヴァールに顔向けできませんから」
「……ありがとうございます」
力強く頷いてくれた彼に私も笑みを返します。そして私たちは屋敷とは別方向、ポコちゃんが逃げた方向へ走り出しました。




