77・私の被害者の会
まさかこんなところで彼らと再会するとは……。相変わらず揃いの金ピカ衣装は目に眩しいですね。
「ライト、落ち着け!」
「ラッシュ! また面倒事を起こすつもりですか!」
この前の因縁か、ライトくんと大柄の男の険悪な雰囲気を感じ取ってか間に入るカイルさんと金ピカ集団の一人がいました。この場は彼らに任せてもよさそうですね。
そう思って私は気になる人物のところへ向かいます。
「オリヴァーくんじゃありませんか」
「どーも、また会ったな」
この状況に困惑した表情を浮かべながらも、言葉を返すオリヴァーくんがいました。確か、別れた時に盗賊を捕まえてくれる知り合いが来るって言っていたけど……。
「……もしかして彼らがあなたが言っていた知り合いですか?」
「あぁ、そうだ。最近贔屓にしてもらってるクランの人たちだよ。この通り、盗賊も捕まえてくれたし」
そう言うオリヴァーくんが指した方向には確かにあの時の三人組が捕まっていました。
「じゃあ、鉱石も取り戻したんだね。よかった~!」
私たちの姿を見つけたのか、ミランダさんが近づいてきました。
「いや……それが彼らは鉱石を持っていなかったんだ」
「えっ! じゃ、じゃあもう売られちゃったの?」
「分からない。あいつら何も言わなくてよ。捕まる前にどこかに隠したのかも知れねぇし……とりあえず聞き出そうと思ってここに連れてきた」
件の三人は口を封じられているわけでもないというのに、とても静かです。まるで捕まった運命を受け入れているのか……はたまた脱出の算段を考えているのか……。そちらを見ていると、猫の獣人らしき女の子アジーと目が合いました。
「げっ黒魔女さん……」
嬉しいことに私を黒魔女と呼んでくれました。表情は引きつってますけど。そんな彼女にはお礼と親しみを込めて笑顔で挨拶を返しましょう。
「またお会いしましたね。無事に捕まってなによりです。確かアジーという名前でしたか?」
「うわあああ、この前みたいに吹っ飛ばさないでください! お願いしますぅぅぅ!」
名前を呼んだだけだというのに、そんなに怖がらなくてもいいではありませんか。
「……えっ、そこのお前も吹き飛ばされたのか? そこの魔女に?」
「えっあなたもそうなんですか、金ピカさん?」
さっきまでライトくんと喧嘩をしていたはずの大柄の男がこちらを見ています。若干私から目線をそらしているのは気のせいでしょうか?
「あいつのダークバーストに吹き飛ばされたのか?」
「うん、吹き飛ばされた! 容赦なくね!」
「そうか! 俺もそうだ……高所恐怖症だってのに、容赦なく飛ばされたんだぞ!」
その時の事を思い出したのか、大柄の男は顔を青くしていました。……高所恐怖症とは知らなく、飛ばしてしまってすみません。
「うわぁ、それは災難だったね……」
「だろう? 俺だけじゃなく仲間たちも飛ばされて……あれは本当怖いよな」
「うん、分かる、分かるよ。私の時はゼロ距離でしかも顔面に当てられて、すっごく怖かったよ……」
「まじかよ、そんなことしやがったのか……」
あぁーうん。当てたましたね、ゼロ距離で。そんな二人は揃って私を怯えつつ見ています。捕まえた側と捕まった側で友情が芽生えつつある気がする……。
「実は俺もあいつに一度倒されたことがあるんだ……」
「まさか君もそうなの? 被害者多いなぁ……」
「あいつ、仲間にも容赦ねえのか!?」
ライトくんまで……いや、まぁあなたもそこに入る資格あるけれど。それからライトくんの件の時はまだ仲間じゃありませんでしたよ。
「なんなんですか揃いも揃って……。大体、あなたたち全員、私と敵対していたからこちらも全力を尽くしたまでですよ」
なんだか全部こちらが悪いみたいになりかけていますが、あちらにだって問題があります。敵対していたからこちらも反撃したまでのことですよ。
「確かにその通りではあるんだけどぉ……」
「アレはやりすぎだろ……」
「あぁ、そうだそうだ……」
三人からそんな言葉が聞こえてくる。……火力が高すぎるというのも問題ですね。というか、さっきまで言い争っていたライトくんと大柄の男まで打ち解けているんですが。
「襲われた時のその恐怖感……あたしも分かるわ……」
そして、その輪の中にいつの間にかポコちゃんまで入っている……。いや、あなたは違うでしょう。
『お前さんに追いかけられた被害者もあそこへ行ったほうがよいかの?』
ルシールさん、実に楽しそうに言わないで下さい。そしてニルもなんでそんなに頷いて……。
「よく分からないが、場が収まった。これもクロエのおかげだ」
「…………カイルさん」
笑いを抑えているように見えるのは気のせいですか? あなたもあの集団送りにされたいようですね。
そんな私を慰めるかのように、アールが項垂れた背をなでてくれた。
この場での味方はあなただけですね……。
「えぇーと、状況はよく分かりませんが……先日に引き続き、うちのラッシュが迷惑をかけましたね」
そう言って私たちに話しかけてきたのは金ピカ集団の内の一人でした。先日のこととはきっと赤い獣の件でしょう。
揃いの金を基調とした白のローブ。その風貌から回復職だとわかります。雰囲気も落ちついており、話が通じるタイプの人ですね。
ラッシュというのでしょう。先程までライトくんと口喧嘩をしていた大柄の男がしかめ面をする。
「フライデー、何が迷惑なもんか」
「何をおっしゃいますか。前回の件は彼らと敵対していなくても良かった場面ですよ。なのに無駄に敵対行動を取ったのは貴方でしょう?」
「俺は戦果をチームのためにだな……それに他の奴らだって……」
「あの場のリーダーは貴方でした。監督責任があると以前にも言いましたよね? それから以前やっていたゲームの感覚を引きずるなとあれほど言ったではありませんか。このゲームとあのゲームはゲーム性が違うと言ったでしょう」
「…………むぅ」
フライデーと呼ばれた彼にそう言われてか、バツが悪そうに顔を逸らすラッシュさん。どうやら立場的にはフライデーさんのほうが上みたいですね。
「本当にこの前は申し訳ありません。しかし、こちらもまだこのゲームを始めたばかりだったもので……このゲームの特性を理解できていなかったところもあります。……ロールプレイが重視されるタイプのゲームであると……」
そう言ってフライデーさんはラッシュさんの代わりに頭を下げました。確かに他のゲームをしていたなら、その感覚を持ったままこのゲームをすると混乱するかもしれませんね。ところどころ、ロールプレイが重視されているこのゲームは、普通のプレイヤーにとってはやりづらいそうです。特に他のゲームに慣れているようなプレイヤーであればあるほどです。
それに、ロールプレイヤーという存在も他のゲームでは希有な存在でしょう。もしくは存在なんてしていないに等しい。それだけロールプレイヤーばかりが多い、このSSOというゲームは特別であり特殊です。
「あなたに免じて許しましょう。もう少し彼自身の反省が見たいところですけど……」
「まぁまぁクロエ。これ以上いがみ合ったとして何になるというんだい?」
……クロエとしてはこういう態度を取るしかないのですが……ここは一旦ロールを止めて普通のプレイヤーとして接したほうが良かったかもしれませんね。
「ご理解に感謝します。……あぁ、紹介が遅れましたね。私はクラン【エル・ドラード】のサブマスターのフライデーです」
そう言ってフライデーさんは礼をしました。サブマスターとは、やっぱりラッシュさんより立ち場は上の人だったようですね。
「エル・ドラード……? えっもしかして【フロンティア】のエル・ドラードですか!」
すると縛られている三人組の一人、確かエルフなのでサヴァールくんですね。
彼が驚いたようにフライデーさんとその後ろのクランメンバーを見ていました。彼だけじゃなく、アジーちゃんとブルーイくんも彼らの方を見ています。
【フロンティア】って確か別のVRMMOの名前でしたか。ファンタジー系のゲームで、サービス開始から数年が経っている人気VRMMOの一つですね。その人気はSSOのヒットが霞むほどの人気具合ですよ。
「ええ、そのエル・ドラードです。もっとも、フロンティアのほうは先日解散したので、フロンティアと同じメンバーはここにいる私とラッシュと数名だけですけれど」
「はい、そのことは知っていましたが……まさか、SSOで会えるとは思っても見ませんでした……」
「ホントだ、よくよく見ると見覚えのあるアバターの人がいる! 去年のダンジョンタイムアタック大会で私たちと対戦したんだけど覚えてないかな?」
「今の僕たちはアバターが違うから、見てもわからないと思うよ」
サヴァールくん、驚きのあまりかロールを忘れている気がする。今の雰囲気はいつもと違いますね。対して他の二人はいつも通りです。
まぁアジーちゃんは別として、ブルーイくんは分かりませんね。それにしても、彼ら三人もフロンティアプレイヤーだったようです。
『カイルさん、彼らのクランって有名なのでしょうか?』
『いや、俺もフロンティアはプレイしてないから詳しくは……ライトだったら知ってるかな?』
カイルさんが三人でチャットができるグループチャットを開くなり、ライトくんに同様の質問をしてくれました。
『俺もネットの情報を聞きかじったくらいだけど……確かにフロンティアの有名クランだな。毎年行われるタイムアタック大会で優勝するほどの実力者揃いだとか。あとはゲーム内の高難易度ダンジョンの最速クリアタイムを複数所持しているらしいぞ。まっ、さっき本人が言ったようにもう解散しちまったみたいだけど……まさかこっちで同じようなクランを作ってるとは思わなかったな』
『まじかよ、そんな有名なところだったか……』
『どうしましょう……私そんなクランを吹き飛ばしちゃいましたよ!?』
いくら別ゲームとはいえ、他のゲームでは名を上げたような人たちを吹き飛ばしたという事実に少し驚いています。
思わずラッシュさんの方を見る。彼もまたフロンティアのプレイヤーで有名クランの一員として、名を馳せていたのでしょう。
「……こっちみんなよ」
しかし、一歩引き下がって行く彼の姿は残念ながらそう見えません。
「さて、そろそろ彼らの話を聞かなければなりません。オリヴァーから奪った鉱石を一体どこへやったというのですか」
フライデーさんの言葉に場の雰囲気が変わりました。盗賊組は先程までの嬉しそうな表情から一転し、苦虫を噛み潰したような顔をしています。
「ねぇサヴァール。話してみようよ……この人たちなら力になってくれるかもしれないよ」
「こうなってしまった以上、僕らの力ではどうにもできません。あの人たちのためにも……」
「確かにそうだな……なぁ、一つ話を聞いて――」
何やら事情がありそうな三人組。その内の一人であるサヴァールくんがいつもの調子に戻り、真剣な表情をしながら話し始めた時でした。
「はーい! 悪いけどそこまでだよ!」
「誰だ!」
誰の声かも分からない。ただ、その場に似合わない浮ついた明るい声が聞こえてきました。
それと同時に何かが投げ込まれ、それが割れる音が足元で響き渡る。思わず下を向くと割れた瓶の中から勢いよく赤い煙のような物が立ち上ったのがわかりました。
「……赤い霧!?」
視界はすでに真っ赤。急に出た赤い霧によって戸惑う人の影と咳き込む声が聞こえるだけ。このエントランス全てを赤い霧が飲み込んでいた。
――赤い霧が発生したということはまさか……。
「あーいたいた。もう、門の鍵を奪うなんてヒドイことするね」
「お前はッ……!」
盗賊組の方角を見る。するとそこには縛られたサヴァールくんの胸ぐらを掴む、真っ赤なローブを着た男の姿が霧の合間から見えました。
「まさか、あなたの方からやってくるなんて探す手間が省けましたね」
「ん? 一体何の話で……あっ……キミは!」
その男もこちらに気づいたのでしょう。フードに隠れ、唯一見える口元は笑っていました。




