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セカンド・ストーリー・オンライン 理想の魔女目指して頑張ります。  作者: 彩帆
第二幕

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72/130

72・注目の的

「そっちはまた大事(おおごと)だな……こりゃエピッククエスト関係ってやつかなぁ……」


 警備隊の建物を出たところで、オリヴァーくんがポツリと呟きました。確かに、私も薄々感じていましたが、これはエピッククエストになりそうですね。


「……そうなのか?」

「オレはこの街の職人だからな。最近街で事件が起こってるのは知っていた。それが前兆ってやつだったんだろうな」


 ライトくんの言葉に、そう返すオリヴァーくん。彼ら二人は純粋なロールプレイヤーではないからか、自然にプレイヤー同士としてそんな会話を続けていました。


「……知っていたんならなんで解決しにいかないんだ? エピッククエストにも出られるかもしれないんだぞ?」

「オレはそういうのはなぁ……。どっちかというと見てるほうが好きだし」

「変わったやつだな。このゲーム最大の特徴であるエピッククエストに参加しないなんて」


 そういうライトくんは始めた時はエピッククエストの存在を知りませんでしたよね? まぁ私も知りませんでしたけれど。


「そうか? プレイヤー的にはオレみたいな奴も多いと思うけどなぁ……っと連絡だ」


 オリヴァーくんはそのまま個別チャットを開始したようで、口元を動かしながら遠くにいる誰かと話し出しました。


『……カイルさんはどう思いますか? 今回のこれはエピックと見ますか?』

『さぁな……。まぁ最近はエピックの発生が初期に比べて爆発的に増えているようだ。これもそうじゃないとは言えないな』


 そう個別チャットを返してくれたカイルさんはいつものカイルさんではなく、あの(・・)カイルさんでした。このギャップを見るのは久しぶりですね。


『ところでカイルさん。今回クリンくんを攫った犯人ですが……』

『あぁ、あの時のあいつじゃないかってことだろ』

『あなたもそう思いますか?』


 外見的特徴があの時現れた悪魔に似ています。その場にいたカイルさんも、今回の犯人はあの悪魔ではないかと思ったようです。


『まぁあいつぽいよな。だが、実際に見てみなきゃわからん。特徴が同じだけかもしれんからな……まぁたとえ別人だとしても倒すことには変わらないだろ』


 そう言って笑うのですがどう見ても悪い笑みでした。カイルさん、ロールしてください。


「なぁ、オレは別で行動するよ。そっちはそっちで大変そうだし」


 通信を終えたオリヴァーくんがそう言いました。


「でも、盗賊の件は大丈夫ですか?」

「あぁ、今連絡があってオレの知り合いが手伝ってくれることになったんだ。だからこっちの心配はすんな」


 オリヴァーくんとはここで別れることになりました。私たちは私たちで事情がありますし、彼のことまで関わることはできそうにありません。


「絶対にその盗んだ奴を捕まえるんだぞ!」

「そうだよ、盗んだ奴らをボコボコにして牢にぶちこんでやりなさい~!」

「おう、分かってるよ!」


 ライトくんとミランダさんの言葉に、力強く答えるオリヴァーくんでした。



◇ ◇ ◇



「みなさん、本当にありがとうございます。あたしを家まで送ってくれるなんて……」


 ポコちゃんが頭を下げつつそう言います。これから私たちは彼女の家まで送ることになりました。怪我もしていることですし、未だ犯人は捕まっていませんから。本来なら警備隊の仕事ですが私たちが代わりに引き受けました。


「あなたの身の安全は僕たちがお守りしますから安心して下さい」

「うん、頼りにしているからね」


 先程の悪役顔はどこへやら。今は姫に仕える真っ当な騎士のように見えてしまいました。


「もちろん、あなたのお連れの方も……ミランダという名前だったかな?」

「えっ? あぁ、うん、そうだよ~」


 不意に私の隣にいたミランダさんに話しかけたカイルさん。カイルさんは心配を和らげるような笑みでこちらに、正確にはミランダさんの方へ歩み寄ります。


「ポコさんをお送りしたらその後はあの悪魔探しです。あなたのお連れの方を必ず助け出し、あなたの笑顔を取り戻して差し上げましょう」


 ミランダさんの手を手にとって、まるで誓いのように宣言したカイルさん。……姫はこっちでしたか。


「ええ、よろしくお願いします~」


 ミランダさんはというといつもの調子でそう返していました。カイルさんの見た目でああいうことされても、恥ずかしがったり照れるようなことはないのがミランダさんらしいですね。


「……あぁ、またか」


 ライトくんがその様子にため息を吐いていた。そうです、カイルさんって美しい女性が好きでしたね。正確にはカイルさんではなく、あの悪霊の方でしょうけど。


「どうか、このカイルにお任せ下さい」


 ……見た目は真摯な騎士として誓いを立てるカイルさんですから、とても厄介ですね。これでは悪霊退散ができないではありませんか。


「もちろん、クロエの事も守りますよ」

「ええ、ありがとうございます」


 ……女性関係で悪霊が出てこなければ完璧な騎士そのものなのになぁ……。そんな様子を見てか、肩に止まるニルも目元が険しいものでした。


「ほら、カイルのおっさん! そんなことしてないでさっさと行くぞ!」

「……僕はまだおっさんじゃなくてお兄さんだよ」


 いや、今のは完全におっさんでしたよ。上手くロールプレイで隠していましたけれど。こういう時にきちんとロールしないでくださいよ……。



◇ ◇ ◇



 ポコちゃんを送るために私たちはイルーの鉱山街を歩いています。人通りは少ない。普段は人が多く通るような大通りでも、今は人がまばらに歩くだけです。やはり以前からこの街で起こっている事件が原因のようで、外出する人が減っているようですね。


『ルシールさんは今回の事件のこと、どう思いますか?』


 前を歩くカイルさん達の目を盗んでルシールさんに話しかけます。彼女とあまり表立って話すのは避けたかったのでちょうどいい機会です。ちょっとアールを前に歩かせて、その後ろを歩きながら彼女と会話しています。


『さぁてな。人々を襲いクリンを攫ったという悪魔の目的が分からんことには何も言えんのぉ』

『そうですか……』


 ルシールさんなら何かに気づいているかと思ったのですが、流石の彼女でも情報が足りないようですね。


『だがの、先程警備隊のところで目にした気になる情報ならあるの』

『……いつの間にそんな情報を手に入れていたんですか』

『何か情報がないかと、お前さん方が話していた時にちょいと裏手に忍び込んでみたんじゃ』

『抜け目ないですね……』


 姿が見えないと思ったらそんな事をしていたんですね。


『それで、その気になる情報ってなんですか?』

『あぁ、最近この街で起こっている傷害事件についてだの。ちなみに犯人がもう捕まっているようなものだ。具体的には酔っ払いや喧嘩といったありふれた原因として処理されていた件だの』

『それのどこが気になる情報なんですか? もう犯人は捕まっているのでしょう?』

『そうだろう。だが、どうやらその加害者には共通の特徴があるようだったよ』

『特徴ですか?』

『うむ、瞳が赤に変色し気が触れたように発狂しながら人を襲っていたそうだ』

『……酔っぱらいや喧嘩が原因ではなさそうですね』

『下手に公にしては騒ぎになるからの。あえて伏せていたのだろう』

『秘密主義者なルシールさんが言うと、その説には実に説得力がありますね』


 それにしても確かに気になる情報ですね。瞳の色が変わる共通の加害者たち……これは何か裏がありそうです。


『その過去の事件もやはり魔族の仕業ということでしょうか』

『かもしれんが、もしかしたら違うかもしれん。だが、気には留めておいたほうがよいだろう』

『ええ、そうで――』


「おい、クロエ」


 名前を呼ばれてちょっとびっくりしつつ、ルシールさんとの会話を切り上げてアールの背から前に出る。


「……どうしましたか、ライトくん」


 びっくりしたことなど無かったかのように、冷静にそう答える。するとライトくんはこちらに歩み寄り、歩調を合わせて歩きだしました。


「いや、姿が見えなかったからな。ちゃんと付いてきてるなら良かった」

「それはすみません。アールと喋りながら歩いていたものですから」


 ねっというようにアールに目配りすると、アールはよく分からないながらも頷いてくれました。


「…………」

「どうしました?」


 ライトくんは隣を歩くアールをジーと見ています。いえ、アールではなく……


「その黒猫、なんだかルシールの所にいた黒猫にそっくりだな」


 今はアールの肩に乗っているルシールさんを指して言いました。……おっとまずい。さて、どう答えましょうか。


「……ええ、実はルシールさんの黒猫を使い魔として譲り受けたんですよ」

「マジで? へぇ~」


 嘘はいっていません。だってこの黒猫はルシールさんの黒猫であるベルですからね。その中に本人がいるなんてことは思ってもみないことでしょうけど。


「えっこの黒猫ちゃん、あのルシールお婆ちゃんの黒猫だったの!? そういうのは早く言ってよね~」


 近くで会話を聞いていたのか、ミランダさんまでこっちにやってきてアールの肩にいる黒猫を見上げ、「ベルちゃん、久しぶり~」とあいさつしていました。


「ん? ということはルシールとあの事件の後に会ったのか?」

「はい、街の中で偶然にも」

「そうか。俺たちはあの後家の方に行ってみたんだがもぬけの殻でびっくりしてたんだ。元気そうなら良かったよ」

「ええ、本当に元気そうですよ」


 今も余計な事を喋るなよという圧を感じますからね。


「……ルシールさんがその後どこへ行ったか知りませんか?」

「残念ながらそれは私も知りませんよ」


 カイルさんからの質問をかわしつつ、この話題を終わらせるためにはどうすれば良いか考えます。あまり続けるとルシールさんの正体がバレそうです。そうなると私が守護者だってこともバレてしまう恐れがあるでしょう。オリヴァーくんの件がありますから、どこから情報が漏れるか分かったものではありませんからね。


「みなさん、何の話をしているの?」


 ポコちゃんが不思議そうにこちらを見ていました。そうでした、我々は彼女の家に送るために護衛をしているのでした。


「ほら、みなさん。気を抜いてはいけませんよ。ポコちゃんを守るために周囲に気を配りましょう」


 なんとか話題を逸らすことに成功して、黒猫から興味を引くことが出来ました。


「ふふ、この黒猫が好きなんですね。確かに可愛らしいですから」

「……まぁ、そうですね」


 ポコちゃんは何も知らないので、そう思ったのでしょう。彼女も黒猫をじっと見つめた後、また歩きはじめました。


『はぁ……猫のフリというのは疲れるのぉ……』


 注目の的となっていたルシールさんから、そんな疲れた言葉が出ていました。ちょっと疲れた様子のルシールさんの頭をアールは労るように撫でていました。






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Gzブレイン様より出版しました!
大筋は変えず色々加筆修正やエピソードを追加してあります。
kaworuさんの超綺麗で可愛いイラストも必見ですので、どうぞよろしくお願いします!
i328604
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