7・初めての使い魔
朝食を食べ終えまたSSOにログイン。どうやら時刻は早朝、日の出前。これから街に戻って調合をしようかと思います。……ですがその前に少しだけ狩りをしましょう。
まだ日の出前なので闇魔法は強化されたまま。せっかくですし【黄昏の森】でも覗いてみましょうか。確か戦闘不能になった際はデスペナルティーが与えられます。しかしレベル10以下はそのデメリットはありません。死に戻りしてもなんの問題もないですね。
入り口を抜け、少し森に入る。灰色の木々が立ち並び、濃い緑の葉っぱが頭上を覆い尽くす。それによって今は日の出前なので光は少なく闇は深い。
周囲を警戒しつつ森に踏み入れる。そのまま進んで見る。……なんでしょうか。この感じ。体感的にはまっすぐ進んでいます。ですが道が曲がっていく。なるほど、迷いの森と言われる理由が分かりました。この森は木々と暗さによって周囲の状況が掴みにくい。まっすぐ進んでいるつもりでも、実際は違うようです。
なぜ分かるのかっですって? たぶん私は【土地鑑】スキルを持っているからでしょう。それにこの森の全容は経歴ボーナスにより全て把握済み状態。迷うはずがないんです。
「……ってこの状況で空腹状態ですか」
地図を開いたついでにステータスをよく見たら空腹状態になりそう。さっき現実で朝ごはん食べましたから、こっちの事を考えていませんでした。
仕方ありませんので適当な場所を見つけて座り込み、さっさと朝ごはんを食べることにします。メニューは当然肉の串焼き。それしか買ってませんから。
「料理スキル覚えたほうが良さそうですね」
これからを考えるとそうした方がいい気がしました。肉に一口かぶりついた時、何処からかガサガサと音が聞こえてきます。
「……こんな時に敵ですか」
肉をしまって杖を取り出そうとした瞬間。手元の肉が消えました。何かが通り過ぎてその肉を取っていったようです。その影を探す。木の上に一匹のフクロウ? いえとても長い耳のような物が付いているのでミミズクに近いでしょうか? とにかく大きく、それは現実のミミズクの大きさを越えています。それが私の手元から獲った肉を食べていました。
「……返してください。それは私の食事です」
今あのフクロウ? ミミズク? ミミズクでいいです。それが食べている物を取り戻してまで食べたいとは思いません。ですが物を盗られるのはいい気分ではありませんね。
私は静かに杖を手に持ちます。食べ終わったらしいミミズクがこちらの殺気に気付いたのでしょう。あちらも臨戦態勢を取ります。
……さてどうしましょうか。相手は大きな鳥。平原のコウモリのように宙を飛びますが、風魔法を使ってはたき落とす戦法は通用しづらそうです。
そうこう考えている内に相手が動きました。上空に急上昇、暗闇に紛れ近づいた所で鉤爪による攻撃。
避けられません。受けました。HPゲージの四割が無くなる。……ちょっとこれはやばい。初心者回復ポーションを飲む。にがッ。そう言えばポーションは飲む物じゃなくてかける物だとどこかに書いてあった気がします。私の体力は低いのですぐに回復。しかしポーションにもリキャストタイムがあります。三十秒。その間には致命傷を負えばこちらの負けですね。
しかし攻撃を当てるのは難しい。相手ははるか上空。ですがそのまま私は詠唱を開始。今は当てません。ただ魔法の詠唱を完了させ、【待機状態】にするだけです。以前までであれば魔法は詠唱完了と共にすぐに発射されました。ですが【魔法知識】のお陰で発動させずに待機状態にしておくことができます。その待機時間中はMPを消費させ続けるのでずっとは無理ですが。
私は神経を尖らせて次の攻撃に備えます。
「そこ!」
急降下してきたミミズクに待機をさせておいた【シャドウアロー】が命中。闇魔法の効果的に暗い場所でも強化されるでしょう。ですがやはり夜の方が効果が大きい気がします。……のですが、なんだかあまり効いていないような気配。
「……何?」
ミミズクはバサバサと羽を撒き散らしながらも、体勢を整える。その後体から大量の黒い霧を撒き散らします。周囲が更に暗闇に染まる。状態異常【暗闇】の効果。……どうやら闇魔法系の魔法を使われたようですね。たぶんあちらも闇魔法の使い手。なので闇魔法に対して耐性を持つのでしょう。
「ですが、それはこちらも同じこと」
確かに暗いです。ですがすぐに効果が切れる。こちらも闇魔法持ちですから。晴れた黒い霧から鉤爪が伸びてくる。とっさに【ウインドカッター】を繰り出して防ぐ。攻撃と防御を兼ね備えた技。風の刃にミミズクの体力が削れたように思います。
「……闇魔法よりこっちの方が効くようですね」
闇魔法はいくら威力が一番高い魔法とは言え、耐性を持たれている。ならばここは風魔法の出番でしょう。スキルによって違いますが、レベル5になると新しい技が増えます。先の【魔法知識】による【待機状態】もその時増えた技でした。ですから【闇魔法】や【風魔法】も新しい技が使えるんですよ。
敵は上空に逃れる。その時間を使ってまた魔法を唱えて待機状態にさせる。
また黒い霧が立ち込め始めた。視界を奪われますが問題ありません。上に向かって【ウインドカッター】を放つ。それによって覆っていた木の枝や葉がバサリと落ちます。するとちょうど朝日が登ってきたのでしょう。眩しい光がそこから溢れ、闇魔法であった黒い霧の威力が弱まる。ついでに突然の光にミミズクが驚き、飛んでいますが目が見えないのかフラフラしています。相手が目くらましを使うならこっちだって使わなければなりませんね。あぁ私は事前にこの事態を予測していましたし、フードがあるので目は大丈夫です。
「【ダークバインド】」
その隙を狙って【闇魔法】の【ダークバインド】を詠唱させ発動。周囲の敵の行動を拘束し持続ダメージを与える技。私を中心に闇の波動のようなエフェクトが現れる。そのエフェクトに触れたミミズクが紫の縛るような鎖に巻かれます。今は【拘束】状態でしょう。持続ダメージには期待していません。それに今この場には朝日が降り注いでおり、私の闇魔法も威力が弱まっています。あくまで狙いは拘束効果。
「【エアショック】」
【風魔法】の中でも少し詠唱の遅い魔法、【エアショック】。その分威力も少し高めです。詠唱三秒。その時間は拘束時間は切れたタイミング。ですがミミズクはそれを避けられませんでした。空気の砲弾を食らったかのように衝撃を受け、近くの木に体をぶつけます。それによって気絶判定が起こったようですね。
「まだですよ」
そう、まだ終わりません。敵の様子からまだ体力が残っている感じがします。なので追加でさらに【エアショック】。これ以上はもう魔力がないので魔法は撃てません。
敵は倒れたままです。……消えないということはまだ体力が残っている、倒しきれていなかった。このまま戦闘を続行すると多分こちらが負けますね……。
「……あっ」
そこで少し思い出した。ここまでやったのです。いくらこの森のモンスターとはいえ、体力はきっと半分以下のはず。――テイマーがモンスターをテイムする時、体力を半分以下にしてからやると書いてありました。その事実に気がついた瞬間、私はゆっくりとミミズクに近づきます。
「ねぇあなたは私の食事を奪いましたよね? その償いをあなたの死以外でしてみませんか?」
相手はNPCどころかモンスターです。そんな相手にこんな喋り方をするのは魔女ロールの練習に丁度いいと思ったからですね。
「……この罪は体で払ってください。私の使い魔になりなさい」
なんか、昨日読んでいた小説にこんなセリフが……。あ、誤解なきようにいいますがいかがわしいものではありませんでしたからね? しかしご飯泥棒にここまでする私は一体……。そう思いながらも【召喚:ファミリア】から【契約】スキルを呼び出す。
少し自分の行動に恥じている間に、なんと契約完了。目の前に倒れていたミミズクの姿は消え、代わりに契約使い魔一覧に【トワイライトオウル】の文字。モンスター名はこれらしいですね。
《レベルが10に上がりました。SPが2増えます》
《一定の行動により取得可能スキルが増えました》
……ドロップ品なし。まぁ契約してしまったからでしょう。レベル10になってしまったので死に戻りしたらデスペナルティーが出てしまいます。なのでスキルの確認は後にしてさっさと街に戻りましょう。
名前:クロエ
種族:人間
性別:女性
【生まれ:ブラッドリー子爵家】
【経歴:家出し旅に出た】
LV10 残りSP20
基本スキル
【両手杖LV9】【闇魔法LV10】【風魔法LV10】
【魔法知識LV10】【魔力LV10】【調合LV1】
【召喚:ファミリアLV3】【命令LV2】
ユニークスキル
【言語:ヘイス地方語】【身分:エンテ公国・ブラッドリー子爵家】
【野宿】【土地鑑】