68・不安の影
さて、今日はレベ上げをしに【ゴウロ山道】にやってきました。この前と違い、夜ではなく真っ昼間です。燦々と輝く太陽の光が眩しい。
「……太陽の光は苦手です」
普段夜型なクロエなので、太陽の光に対しては苦手意識がかなりありそうです。得意の闇魔法が使えなくなるというのもありますし。ツバの広いとんがり帽子をかぶり直して、できるだけ光に当たらないようにしておきましょう。
……とんがり帽子をかぶる設定が、今ので出来た気がします。最初は私が好きでかぶっていたけれど、クロエ的にはこういう理由でかぶっているということにしておきましょう。
肩に止まるニルも、光を避けるように帽子の陰に身を寄せます。あなたも【夜行性】でしたね。私達はそろって、昼間とは相性が悪いみたいです。
「太陽が苦手なら、夜に出直すか?」
「それは絶対に嫌ですね」
今日はアールの肩にいるルシールさんに、そう返します。亡霊にこの前の借りを返しに行きたい所ですが、あの【嘆きの呪い】だけは受けたくありません。
さて、昼間の【ゴウロ山道】にはアルマジロのような見た目をした【ストーンローラー】がいます。夜に来た時は岩のように眠っていた彼らですが、昼間の今は活発に活動しているようで、転がって移動している姿が見えます。
「さて、戦闘しますか」
杖を構えていざ、ストーンローラー狩りへ。
◇ ◇ ◇
さっきまで元気に転がっていたストーンローラーも、今では【クエイク】の魔法で盛り上がった地面に飲まれるようにして動けないでいます。
そんな動けないストーンローラーの真上に、降ってきたゴーレムの姿。轟く音と舞い上がった土煙が収まれば、HPを0にしたストーンローラーの死体が出来上がりました。
いえ、死体は見えませんね。なにせ土に戻ったゴーレムの土山がその場に出来ているので。それはまるでお墓のよう。辺りを見渡せば、似たようなストーンローラーのお墓があちこちにあります。
「まぁなんて酷い、誰が一体こんな事を」
「ほんとじゃのぉ」
ルシールさんとそんな会話をしつつ、また一体ゴーレムを製作していく。……どうみても、犯人は私です。
……この前やったゴーレム落としが意外にも効果的で、思わず連続使用してしまったんですよ。そしたらこの惨状です。まったくなんて酷い。通りががった人が何事かと、驚いていたくらいです。物理攻撃が通らなさそうな夜の亡霊相手には、使用できないでしょうけど。
それにしても、結構な数を倒しているというのにまだレベルが上がりませんね。もう少し倒さなければならないのでしょうか? ドロップ品ばかりが増えていきます。
【踏み固められたゴウロ土】【ストーンローラーの甲羅岩】【きめ細やかな砂】……こんな感じです。
土はゴーレムの素材に使えそうですね。甲羅岩は防具などの素材になるようです。砂はそのまま投げて目潰しといったことができるらしい。砂塵はなにげにちょっとドロップ率の低いアイテムのようで、数が少ないですね。
「えぇ~なにこれっ!! なんでこんなにお墓がいっぱいあるの~!?」
休憩をしていると、そんな驚く声が聞こえてきました。……すみません、その墓を建てたのは私です。そう思いながら振り向くと、そこにいたのは――
「ミランダさんではありませんか」
「あっクロエちゃん~!」
私の姿を見ると安心したような表情をして、駆け寄ってくる。いつか見たとても動きやすそうな服装をしていますね。
「このお墓なに? すっごく怖いんだけど……まさか亡霊の仕業?」
怖がる様子を見せるミランダさんは、駆け寄ってくるなり私の背に隠れました。背中の服を掴む手は若干震えています。
「あぁこれは……すみません。私のせいなので気にしないでください」
「えっ?」
ちょっと申し訳なくそう言うと、ぽかんとした表情をするミランダさん。事情を説明したら、「ゴーレムを落とすなんて……それはそれですごい話だね~」と驚いたように言いました。
「それにしても、ミランダさんはどうしてこんな所に?」
「あぁ~それは……ねぇクロエちゃんはクリンを見かけてないよね?」
「いいえ……あなた達も見ていませんよね?」
ルシールさん達にも聞いてみますが、みんな首を振るばかり。クリンくんと言えば、この前鉱山街に行くのを見かけたきりですね。帰ってくるならこの道や森の中を通るはずです。
「クリンくんがどうかしたのですか?」
「それがね、今日までには帰ってくるはずだったんだけど……クリンが帰ってこないの。もぅ~クリンったら、どこで寄り道をしているのかな~?」
困り顔をするミランダさんでしたが、その顔には不安を覗かせる表情もありました。クリンくんの身に何かあったのかもしれないと、心配をしているのでしょう。それにクリンくんの性格からして寄り道はきっとしません。だからこそ、帰ってこないから探しているのでしょうね。
「引き止めてゴメン。それじゃあ、またね」
「待って下さい。私もクリンくんのことが心配なので、一緒に行きましょうか?」
気づけば自然とそう口に出していました。というのもあの時クリンくんに付いていった方がよかったなと思ったのです。彼女も見送ってそのまま戻ってこなかったら……なんて考えてしまいます。
「……本当に?」
「ええ、もちろん。それに街に行くための道にもモンスターがいますし、ミランダさん一人だと心配だからって理由もあります」
この先の事はあまり知りませんが、きっと今いるこの場所よりはモンスターは強いはずです。クリンくんの時も思いましたが、そんな場所にミランダさんも一人で行かせるのは不安です。
「え~私はこれでも旅商人をしてたんだよ~? それにこの道も何回も使ったことがあるし――」
「何が起こるかは分からないでしょう?」
「……確かにそうだね。……うん、実はね、一人は心細いなって思ってたんだ。だから、付いてきてくれるのはすっごくありがたいよ~!」
ミランダさんが握手をするように私の両手を掴むと、嬉しそうに振る。そんなに嬉しかったんですか。
「あっでも、護衛代として少しお金を頂いてもよろしいでしょうか?」
まぁだからといってタダでやるとは言っていません。ちゃんと対価はもらいたいところです。
「…………あはは、もちろんだよ~。タダとかありえないもんね~」
若干答えるのに間があった気がしますが、気のせいでしょうか。
『クロエ、本当に行くつもりか?』
近づいてきたルシールさんが、私の肩に乗るなり、個人チャットでそうささやくように言いました。
『何か問題でも?』
『……守護者としての立場を忘れるでないぞ。あまり森を離れるのは良くないと思うがね』
ルシールさんの言葉も分かります。ですが、クロエとしては護衛代ももらえることですし、ミランダさんの力になりたい所ですね。
『大丈夫です。職務を放棄するつもりはありませんから』
『分かっておるなら良い。……今の守護者はクロエじゃ、全ての決定権はお前さんにあるからの』
『ありがとうございます、ルシールさん』
『礼をいう程のものではないだろう。それに私個人としても、クリンのことは心配であるからの』
どうやらルシールさんもクリンくんの事が心配だったようですね。だから、あっさり引いてくれたのかもしれません。もしくは先程も本人が言ったように、私の行動に対して口には出すけど止めはしないというところなのでしょう。
そんなルシールさんの言う通り、何かあったら死に戻りをしてでも戻りますよ。……というより、一番手っ取り早く戻れる方法がそれしかありませんね。
「クロエちゃん、さっきから黒猫ちゃんと何してるの~?」
「あっええと……これから鉱山街に行くということを伝えていただけですよ」
「クロエちゃん、もしかして猫語が喋れるの!?」
どうしよう。めっちゃキラキラした目で、こっちを見てくるミランダさんがいる……。確かに猫と話していたけれど……。
「ええ、この子は私の使い魔ですからね。不思議と話せてしまえるのですよ」
「本当に! すごーい!」
嘘は言ってません。だってルシールさんとは話せますからね。
『……というかルシールさん、ミランダさんとは知り合いでしたよね? あなたの事を言ってもいいと私は思うんですけど……』
『むぅ……それはあまりして欲しくないかのぉ。私の今の状態がバレれば、必然的にお前さんの立場もバレるというもの。その事実に気づける者がいる以上、あまり情報を出さんほうが良いだろう。どこから情報が漏れるか分かったものではないからの』
相変わらず秘密主義者なルシールさん。ちょっとミランダさんには申し訳ないですが、しばらくルシールさんの存在は秘密にしておくことにしました。
「さて、それでは行きましょうか。ミランダさん」
「うんっ! クリンを早く迎えに行かなくちゃね~!」
クリンくん、大丈夫でしょうか。本当に何か事件に巻き込まれていないといいのですが……。
もし、何かしら事件が起こっていたとしたら――その事件を解決するというのも、面白いかもしれませんね。
名前:クロエ
種族:人間
性別:女性
【生まれ:ブラッドリー子爵家】
【経歴:家出し旅に出た】
【経歴:封印の守護者を引き継いだ】
LV24 残りSP8
基本スキル 合計27個
【両手杖LV24】
【魔法知識LV23】【魔力LV23】
【闇魔法LV24】【風魔法LV24】【土魔法LV21】
【暗黒魔法LV9】【空間魔法LV5】
【月光LV17】【下克上LV18】【森の加護LV10】
【召喚:ファミリアLV24】【召喚:ゴーレムLV10】
【命令LV22】【暗視LV23】【味覚LV24】【草食LV6】
【鑑定:植物LV23】
【採取LV23】【調合LV24】【料理LV17】【魔女術LV1】
【毒耐性LV17】【麻痺耐性LV17】【睡眠耐性LV17】
【言語:スワロ王国語LV22】
【飛行:ホウキLV7】
ユニークスキル
【言語:ヘイス地方語】
【身分:エンテ公国・ブラッドリー子爵家】
【野宿】【土地鑑】
【管理地域:黄昏の森】
称号
【ベリー村の救世主】
【封印の守護者】




