67・ストーカーではありません
「よし、また失敗!」
失敗した料理を前に歓喜の声を上げるなんて私くらいでしょう。私の目の前には黒煙を上げて失敗……いえ、完成したのは料理とは程遠い何かが出来上がっていました。
その名も【暗黒スープ】! 前回のに比べると異常状態の付与数が減っています。これはこちらが入れる材料を調整した結果ですね。
テーブルの上にはさらにいくつもの【暗黒スープ】があります。ここに地獄が出来てしまった。それぞれ異常状態付与数が異なるものです、最大で十~最小で三つも異常状態を付与できますね。
どうしてこんな物を大量生産しているのか。それはもちろん私の持つ暗黒魔法のスキル【闇の代償】の効果を利用するためにですね。一つでも異常状態があれば攻撃力と魔法攻撃力が上がるので、任意で異常状態を付けられれば便利です。なので、こうして料理の失敗作を沢山作っているのです。
しかし……問題は味ですね。この味だけはどうにかしたい所ですが、どうもできない。味見なんてしなくても分かるくらいに、これはダメなやつだと分かります。
「……おまえさん、料理が下手じゃの」
「えっ?」
地獄と化したテーブルを前に、ルシールさんが言いました。……確かにわざとやっていたこととはいえ、料理を失敗し続けるクロエは料理が下手なのかもしれません。
「ええ、簡単なものならできるのですが……凝った料理というのは難しいですね。調合と同じ感覚でやっているからでしょうか?」
ということで、クロエに料理下手という設定が追加されました。今後はこのようにロールをしていこうと思います。
……これはつまり、料理下手ロールということで、相手にこれを合法的に押し付けられますね。
「せっかくなので食べてみますか、ニル?」
絶対にいらないと言うかのように、高速で首をぐるぐる回して拒否の意を示してくれました。食いしん坊のニルでも、さすがにこれはいらないようですね。
「アールはどうでしょう?」
そう聞いたら固まりました。まるで食べるかどうするか、悩んでいるようです。そして恐る恐る、私が持っていた器を受け取るように手を出してきました。
「……やっぱりやめておきましょう。これは失敗作なので」
これを食べさせるのは可哀想に思えてきたので止めておきました。ですが、食べようとしてくれたその優しさはとても嬉しいです。それだけ貰えたので、私はもう満足ですよ。
ですが、諦めきれません。やっぱり誰かに食べさせてみたいですね。……よし、今度カイルさんに会ったら、味見と表してこの料理を勧めに行こう。あのカイルさんがどんなロールプレイをしてくれるか、今から楽しみです。
さて、料理はこのくらいでいいでしょう。異常状態だけならこの前作った毒薬とか麻痺薬があるので、それを飲むことでもできます。ですが、こちらは耐性が付いているので難しい所です。それにスープのほうが一気に三つ四つと異常状態を付けることが出来ますから。
あぁそういえば、この前風邪薬を作りましたね。……逆に風邪引き薬なんて物を作り出せないのでしょうか? 風邪薬の材料は確か薬草とレッドグラスとホワイトハーブ。ちなみにこれら三つをそのまま食べた場合、【草食】スキルの効果で風邪薬と同等の効果を発揮しました。草食とは一体……。
レディブラックを使用することによって、毒薬などが作れました。なので、ホワイトハーブの代わりに、レディブラックを入れて作ってみることにします。
失敗しました。……レディブラックを入れただけでは作れないようですね。薬草が入ってるのがいけないのでしょうか? なら麻痺草を代わりに入れてみましょう。
どうやら当たりだったようです。【風邪引き薬】が完成しました。これでいつでも風邪を引くことができます。つまり好きな時に風邪を引いて、休みを貰えると言う訳ですね。その後は風邪薬を飲んで治すと。
「……これはミランダさんの所に商談に行かなくては」
頼まれたポーションの納品もあります。というわけで、さっそく彼女の店に行きましょう。
せっかくなので、ホウキに乗って行ってみます。ホウキの上に私とルシールさん。若干眠そうにしつつも、先導してくれるニル。地上では落ちた場合に備えて、アールが歩いています。
まだ操縦が上手く出来ないので、スピードは出さずにゆっくりとした速度で森の空を飛ぶ。優しい風が髪や衣服を揺らしながら、通り抜けていく。ゆっくり飛ぶというのも悪くありませんね。
森を出たあたりでMPが無くなりそうになったので、一度降りることにしました。ポーションでMPを回復して、もう一度飛ぼうかと考えていた時でした。
「あれは……」
街に繋がる平原の道を歩く人を発見。その人はとてもよく知っている人でした。
「クリンくんじゃありませんか」
「あっ、クロエさん! こんにちは!」
私の姿を見付けると、パッと明るい笑顔になってこっちに走ってきます。この前の風邪薬の一件以来、なんだか懐かれたようです。
「クロエさん、どうしてこの森に……あぁ薬の材料の採取ですか?」
「ええ、そうですよ」
むしろこの森自体がホームグランドです。だって守護者ですから。……とは言えないので、相手に話を合わせておきましょう。
「それよりクリンくんこそ、どうしてここに? それにその剣は……」
「あぁ、これは護身用ですよ。これからイルーの鉱山街に行ってきますので」
「鉱山街ですか」
「ええ、鉱山街の商人からの荷物が届かなくて……。ちょっと急ぎの件なので、僕が直接行ってくるつもりなんですよ」
「そうなんですか。でも、一人で大丈夫ですか?」
この先の鉱山にも、もちろん魔物が出てきます。クリンくん一人で通り抜けられるのか、とても不安です。
「安全なルートを知っているので、大丈夫ですよ。それに教会印の【聖水】や【魔除けのお守り】もありますから」
そういって首から下げた青い石の欠片を指します。【聖水】に【魔除けのお守り】……そんな物があるんですか。
「でも、本当に大丈夫ですか? この前の風邪だって治ったばかりではありませんか」
「風邪ならクロエさんの薬でしっかり治りましたよ。クロエさん、店長と同じ事を言いますね」
ミランダさんも心配で引き止めたんでしょうね。クリンくんはしっかり者だと分かっているのですが、見た目がちょっと可愛い系の少年なので、どうしても危なかっしく思えてしまう。
「それじゃ僕はこれで。すぐに帰ってきますから心配しないでください」
「ええ、気を付けてくださいね」
そう言ってクリンくんは森の奥へと歩いていく。ちゃんと道を知っているようで、鉱山出口の方角に向かっていました。
……でも、結局心配になって出口までこっそり付いて行ってしまいました。そのほうがこの森の魔物も、クリンくんを襲いませんからね。……けしてストーカーではありませんからね。
クリンくんを出口まで見送ってから、ミランダさんの店に行きました。
「いらっしゃい~……」
案の定、ちょっと落ち着きのないミランダさんが出迎えてくれました。クリンくんの事を伝えた所、ちょっと安心したように落ち着きました。
「こちらは頼まれたポーションです。それから、こちらに【風邪引き薬】があるのですが……」
「へぇ~【風邪引き薬】ねぇ。ちょっと見せてくれる?」
さっきまでクリンくんを心配していたミランダさんはどこへやら。しっかりと商人の顔になったミランダさんが、目を輝かせて私の作った薬を見ていました。
今回のポーション依頼分と【風邪引き薬】を三つほど買ってくれました。ただ風邪引き薬という物だけに、表で堂々と売るのは避けて、信用できる顧客に必要そうなら売ってくれるとのことです。
名前:クロエ
種族:人間
性別:女性
【生まれ:ブラッドリー子爵家】
【経歴:家出し旅に出た】
【経歴:封印の守護者を引き継いだ】
LV24 残りSP8
基本スキル 合計27個
【両手杖LV24】
【魔法知識LV23】【魔力LV23】
【闇魔法LV24】【風魔法LV23】【土魔法LV18】
【暗黒魔法LV8】【空間魔法LV2】
【月光LV17】【下克上LV18】【森の加護LV10】
【召喚:ファミリアLV24】【召喚:ゴーレムLV4】
【命令LV22】【暗視LV23】【味覚LV24】【草食LV6】
【鑑定:植物LV23】
【採取LV23】【調合LV24】【料理LV17】【魔女術LV1】
【毒耐性LV17】【麻痺耐性LV17】【睡眠耐性LV17】
【言語:スワロ王国語LV21】
【飛行:ホウキLV7】
ユニークスキル
【言語:ヘイス地方語】
【身分:エンテ公国・ブラッドリー子爵家】
【野宿】【土地鑑】
【管理地域:黄昏の森】
称号
【ベリー村の救世主】
【封印の守護者】




