66・妖精さんの言葉は分かりません
今日もログインしてまずすることは畑を見に行くことです。この前ミランダさんにポーションの納品を頼まれたので、それ用の物を収穫に行きましょう。
畑に着くとすっかり伸びきった青々とした葉が風に揺れています。そこで大きな図体の彼が鎌を片手に収穫している姿がありました。姿が見えないと思ったらここにいたようです。
「アール、収穫ありがとうございます」
声を掛けると振り返って手を振ってくれました。それにしても畑に立つアールの姿は、とても似合っています。思わず写真を撮ってしまうほどに。うん、いい写真ですね。
私も一緒になって収穫をする。思った以上に収穫できたようで、収穫した材料が山になりました。
そんな山になった薬草の一つを手にとって一口。なんだか最近は食べて拾ってということをしていなかったので、なんとなくやってしまいました。変なクセが付いてしまいましたね。
それにしてもやっぱり甘いですね。……あれ、回復量が増えている? 体力ゲージは今は満タンなので変化はありませんが、ログの方の数値が前回見た時より上がってる気がします。
この数値はできの良い初心者回復ポーション並です。けして薬草を一個食べただけではありえない数値でした。
……【草食】スキルの影響ぽいですね。元々畑で作った薬草なのでできが良かったことと、【草食】スキルの効果アップが重なったようです。もしかして薬草を複数食べれば、その分効果がアップするとかありえそう? 試しに二つ三つ、一気に食べてみました。
なんだかアールが心配そうに見ていますが気にしません。アールの肩に止まっているニルからの、またかと言った視線も気にしませんよ。
「変わらない……」
結果は変わりませんでした。いくつ食べても同じ数値。他にもグリーンハーブや魔力草などで試してみましたが、一つ食べた時の効果は上がっていますが複数食べても数値は同じでした。
ちょっと残念ですが効果がアップするだけいいでしょう。そう思いながら手にした薬草とグリーンパーブを見て気がつく。
「この二つは回復ポーションの材料でしたよね?」
【調合】スキルでこの二つを混ぜるとできました。ふむ……ちょっともう一つ試してみましょう。というわけで今度は薬草とグリーンハーブを一緒に食べてみる。
「数値が変わった!」
この回復量は☆4の回復ポーション分に近いですね。まさか同じ材料を一緒に食べることで、ポーションと同じ効果が得られるとは……。【草食】スキルすごい。
さて、草を食べる実験もここまでにして、ポーションを作らないといけません。その為にこの薬草の山を作ったのですから。
といってもやることは変わりありません。量産していくだけですから。ただ、気を抜くとランクが下がってしまうのでそこだけは気を付けませんと。適度に味見をしつつ、作っていきます。
ちょっと伸びをして一息。長時間鍋とにらめっこだったので疲れてしまいました。しかし、ゲーム的な疲れなので、逆に心地良いくらいですね。こうやって時間を忘れて好きなことに熱中できるというのはとても楽しいことですから。
そんな私にアールが近づいてきました。お疲れ様と言うようにニッコリ微笑んで、手に持っていたコップをこちら渡してきます。
「……これは?」
コップに注がれていたのは真っ黒な液体。なんだかコーヒーみたいです。試しに一口飲んでみると、慣れ親しんだコーヒーの苦い味がしました。
でも、この味は別で覚えがありますね……【味覚】スキルを発動させてもう一口飲んでみると分かりました。
「レディブラックを使ったお茶ですね?」
コクリとアールが頷きました。なるほど、レディブラックは元々苦い味でコーヒーに似た味でした。それをお茶にすると本当にコーヒーみたいになるんですね。
「お主は豆の方が好みかの? まぁ確かにあっちの方が高級品でおいしいからの」
アールの肩にひょいと飛び乗って登場したルシールさんがそう言いました。どうやら普通のコーヒーもあるようですね。それを聞いてアールがちょっと不安そうにこちらを見てきます。
「そんなことはありませんよ。確かにあちらもおいしい物ですが、こちらの方がとてもおいしいです。アールが淹れてくれた物ですからね」
本当に? と聞いているように首を傾げるアールに、本当ですよと言うと照れたように笑いました。
レディブラックティーを飲みつつ、休憩がてらに本を読むことにします。ちょっと気になっていた本があるんですよ。その名も【るぅくとぇのいたずらのしょ】。いたずら好きの妖精魔女ルゥクトェが書いた【魔女術】に関するレシピをまとめた本のようです。ちなみにまとめたのはルシールさんでした。
「私が若い頃にまとめたレシピ本じゃの。諸事情で出版こそはしなかったが、今まで書いた本の中では気に入っておる」
懐かしそうに私の持つ本を見るルシールさん。そんなルシールさんに翻訳してもらいながら、私はその本を読んでみました。
開けたページにはあの私を子供の姿に変えた薬のレシピが載っていました。えっと材料は……
「これの材料は【ちっこくておおきいへびのまっかか】と【まじょのふしぎなお水】だの」
「【ちっこくておおきいへびのまっかか】と【まじょのふしぎなお水】?」
確か体を小さくすることが出来る不思議なヘビの血だと、ルシールさんが言っていた気がします。だからヘビのほうはそういうことでしょう。なら【まじょのふしぎなお水】って何?
他のレシピを見るとどれも【まじょのふしぎなお水】を使用するようです。いたずらの薬を作るのに必須らしい。その肝心の【まじょのふしぎなお水】のレシピも載っていました。
【まじょのふしぎなお水:たのしいたのしい魔女のくすりを作るためにひつようなふしぎな水。
これさえあれば、さまざまないたずらができるよ。いえーい! (るぅくとぇ)】
【れしぴ:わきでるまりょくの水、かわいいようせいの粉、うるさいせかいの声、かがやく星のあめだま】
「な、なんですかこれは……」
何の材料なのか分からない。ヘビの例を見ればなんとなく分かるかもしれない? ……でもやっぱり分からない。
「妖精魔女ルゥクトェはいたずらの為にこの薬を作った。……いたずら以外の用途には使われたくなかったようでな、簡単には作れんようにこうして一々遠回しな表現を用いてレシピを残したようじゃの。私もその意思を尊重して、レシピの解読を載せておらん」
単なる妖精特有の言葉かと思いましたが、意外と意味があったようですね。
「……ちなみにどんな材料か教えてくれませんよね?」
「かっかっか、教えるようなら解説を載せておるのぉ」
ニィと黒猫が笑って言う。自分で調べないといけないようですね。せっかく【魔女術】を取ったというのに、レシピが分からないんじゃ宝の持ち腐れです……。
窓際をふと見たら相変わらず止まり木に止まって寝ているニルがいました。……でも若干隣が気になるようで、チラチラと薄目を開けて見ています。
何を隠そう、その隣にはこの前買ってきたガラスドクロの置物があるのです。窓際にガラスの置物は危ない気がしますが、ここはゲームなので気にしなくてよさそうです。
ちなみにアールお手製の可愛いピンクのクッションの上に乗っているので、禍々しい何かが薄れているような……いや逆に存在感が増してしまっているようなそんな感じでした。
めっちゃ寝づらいと言うかのように、ニルがジト目でこちらを見てきます。
「他にいい置き場がなかったんですよ」
抗議の目線は無視して、また一口レディブラックティーを飲みました。
名前:クロエ
種族:人間
性別:女性
【生まれ:ブラッドリー子爵家】
【経歴:家出し旅に出た】
【経歴:封印の守護者を引き継いだ】
LV24 残りSP8
基本スキル 合計27個
【両手杖LV24】
【魔法知識LV22】【魔力LV23】
【闇魔法LV24】【風魔法LV23】【土魔法LV18】
【暗黒魔法LV8】【空間魔法LV2】
【月光LV17】【下克上LV18】【森の加護LV9】
【召喚:ファミリアLV24】【召喚:ゴーレムLV4】
【命令LV22】【暗視LV23】【味覚LV24】【草食LV5】
【鑑定:植物LV23】
【採取LV23】【調合LV24】【料理LV14】【魔女術LV1】
【毒耐性LV15】【麻痺耐性LV15】【睡眠耐性LV14】
【言語:スワロ王国語LV20】
【飛行:ホウキLV5】
ユニークスキル
【言語:ヘイス地方語】
【身分:エンテ公国・ブラッドリー子爵家】
【野宿】【土地鑑】
【管理地域:黄昏の森】
称号
【ベリー村の救世主】
【封印の守護者】




