50・死者の森の魔女
「ゴホッ……まったくどれだけここは掃除されていないのですか!」
目の前本を持ち上げようとして手が滑ってしまい、数冊の本が床に落ちてしまいました。その落ちた勢いで床に溜まっていたホコリが舞い上がってしまったのです。
「私は大丈夫ですよ、アール」
アールが大丈夫? と私を気にかけるように見ていたのでそう返しました。その手には汚れて黒くなった雑巾。アールも掃除を手伝ってくれていました。
私は息を整えて散らばった本を集め始める。その本の多くは魔術書のようです。中にはもちろんルシールさんが書いたと思われる本もありました。
「まさか、こんな所にこの家があるとは思いませんでしたね」
私たちは今とある家にいます。辺りを見渡すと、木の温もりを感じる暖かな部屋。テーブルにイス、それから魔導書が収まっている本棚。さらに調合用の鍋らしき物と材料や薬品棚。吹き抜けの二階部分が寝室。
それらの家具や床はホコリだらけで、人が住める状態ではありません。なので私とアールが手分けして掃除をしています。
この家はルシールさんの家です。いえ、元ルシールさんの家ですか。本人が今の守護者は私だからここは私の家になると言っていましたから。
この家はあの湖からそう遠くない場所に建っています。外観はテラスデッキのあるログハウス。こんな家があるなんて気付きもしませんでした。
ふふふ……これだけで守護者という役割を引き継いだ甲斐がありました! だって森の中にひっそりと立つログハウスですよ? これって魔女の家そのものではありませんか!
元々の持ち主がルシールさんだったので内装もばっちりで家具付き。そんな物件を森を守るだけで住める。
「ふふふ……私の魔女ロールが滾りますねぇ」
ふとニルと目があってしまいました。さっきまで邪魔にならない窓際で寝ていたと思っていたニルが、残念な物を見る目でこちらを見ています。なぜですか。この良さをあなたは分からないのですか。
「ニャー」
そんなニルの隣に、開け放たれた窓から黒猫が入り隣に座りました。
「ルシールさん、どこに行っていたんですか。掃除を手伝ってくれませんか?」
「ニャー」
「……ルシールさん?」
「ニャー」
まるでただの猫のように私の返事には答えない。そして隣にいたニルに構いだして、ニルが今度は不機嫌そうなジト目でこちらを見てきました。
「ふざけているんですか?」
『ふざけとらんぞ?』
「うわっ!?」
急に答えが返ってきたかと思うと、また窓から一羽の鳥が入ってきました。
『お前さんもまだまだのようだのぉ』
「あっもしかして今はその鳥に憑依してますね?」
『うむ、鳥になって空を飛ぶのは楽しいぞ!』
私の周りを小鳥が飛び回る。ルシールさんはしゃいでますね。
「ってそんなことより! 遊んでないで少しは手伝ってくれませんか?」
『そういうがの、今の私にできると思うか? それにこの家はもうお前さんの家だ。自分の家くらい自分で掃除しなさいの。では私はまた空の散歩でもしてくるかの』
「あっずるいですよ、待ってください!」
私の言うことなんて知らないと言うかのように小鳥のルシールさんは窓から空に飛んでいきました。空を飛べるなんてちょっと羨ましい。
そんなルシールさんの後を追うようにニルもまた窓から外に出ていく。それを追って黒猫まで出ていった。
「確かに、動物なあなたたちでは掃除を手伝うこともできませんけど……できませんけど……」
もう少しくらい手伝う誠意を見せてください。ツバキさんのハクのように。そんな私を慰めるようにアールが肩に手を置きました。
「私の味方はあなただけのようですね。掃除、頑張りましょう」
マイ箒を片手に決意する。私もいつか空を飛びます。飛びたいです。
さぁ仕事を再開しようと思ったその時。アラームが鳴って視界にウィンドウが開いた。
「あぁ、また人が近づいてきている……」
開かれたウィンドウには映像。守護者となった私はどうやらこの【黄昏の森】の管理者にもなったようで、全てを把握することができるようになりました。その能力のお陰で、こうして森の中の様子を見ることができます。その映像の場所は西側の森にある入口付近。そのあたりをプレイヤーが歩いている姿が見えました。四人のようで、装備を見た感じこの森を攻略しているプレイヤーでしょうか?
このまま放っておいてもこちらに近づくことはなさそうです。ですが万が一もありましょう。幸いにも、あの赤いフードの男などがこの場所を知っていますが情報はあまり流れていません。だからこそ、この場所をこれ以上知られないためにも、少し様子を見に行きますか。
迷っているようであれば、誘導すればいいでしょう。
掃除をアールに任せ、黒猫から逃げ回っていたニルを引き連れて白い森の外に出ます。
「こんな森の奥で何をしているのですか?」
森の中をさ迷っていた人達に後ろから話しかけました。
「プレイヤーか?」
「よく見ろ、ポーション売りの人じゃん! しかもこの前の動画に出てた人!」
「じゃあ何か情報聞けるね! あのーこの辺りに白い森への入り口があるみたいなんですけど知りませんか?」
攻略者ではなく白い森を探している人でしたか。どうも動画が上がった辺りからその区域を探そうとしているプレイヤーが増えてしまったみたいです。興味本位か、それとも別の目的があるのか。どちらにしても、こちらとしては迷惑極まりないですね。まぁその原因の動画を上げたのは私達ですけど。
「白い森? 一体何のことでしょうか?」
「嘘はいけませんよ。あの動画に出ていましたよね? なら行き方とか知ってますよね? 教えてもらえませんか?」
「いいじゃん、ケチケチしないで魔女ちゃん教えて~!」
そうは言われても立場的に教えられません。魔女って言われても今回ばかりは言えません。
「それよりもポーションはいかがですか?」
「いやポーションは要らなんだけど……おかしいな、ワードは魔女じゃなかった? 反応が違うんだけど」
「掲示板の情報は古いのかもしれない……」
……いつの間にやら私の攻略情報が拡散されていたようですね。どうりでこの森で出会った人達は魔女さんや魔女ちゃんって呼んでくる人が多いなって思いましたけど。
ですが、あの時のように魔女と言われてペラペラと話すほど今の私は安くないんですよ。だからあなたたちの安っぽい魔女呼びにも反応しません!
「まぁいいや。聞いても無駄ぽいし」
「だなー」
「それじゃ俺らはこれで失礼するよ」
と、私に背を向けてまた歩き出す彼ら。
「お待ちなさい。そちらは森の出口には繋がりませんよ。……そちらに行けば二度と出られませんよ」
「だからー俺らは白い森探しでー」
「ほら、もう無視しましょう無視」
……そのまま彼らは森の奥に消えていきました。私を無視して。
彼らが取った行動は敵対でも、友好的でもなく、無視でした。ならばこちらもそれ相応の対応としうものをしましょう。守護者として。
私は今は【封印の守護者】です。その守護者としての権限はこの森の全域に及んでいます。つまり、私はこの森の管理者であり、支配者でもあるんですよ。
「……警告はいたしましたからね」
彼らが行く道にちょっとした細工をしておきましょう。管理者としてそんな事が出来てしまいます。これで彼らは白い森にたどり着く事も、出ることもできません。この森が見せる幻術によって永遠に森の中を彷徨うことになります。この誰もが迷う森の迷宮の恐ろしさを知ると良いですよ。
大丈夫ですよ。脱出方法はありますから。ここは別名が死者の森です。つまり、死ねばいいんですよ。ゲームだから怖くないですよ。それにキャラとしても重症を負うだけで、街に戻って復活します。多少お金と経験値、運が悪ければアイテムを落としますが脱出するためですよ。
ほら、何も怖くありません。
「これも秘密を守る為ですからね、仕方ありません」
これくらいはやっていいってルシールさんも言ってましたし。
だからそんな目で見ないでくれませんか、ニル?
名前:クロエ
種族:人間
性別:女性
【生まれ:ブラッドリー子爵家】
【経歴:家出し旅に出た】
【経歴:封印の守護者を引き継いだ】
LV22 残りSP28
基本スキル
【両手杖LV21】
【魔法知識LV21】【魔力LV21】
【闇魔法LV21】【暗黒魔法LV8】
【風魔法LV20】【土魔法LV12】
【月光LV16】【下克上LV15】
【召喚:ファミリアLV21】【命令LV18】
【暗視LV21】【味覚LV21】
【鑑定:植物LV20】
【採取LV18】【調合LV20】【料理LV10】
【毒耐性LV15】【麻痺耐性LV15】【睡眠耐性LV14】
【言語:スワロ王国語LV14】
ユニークスキル
【言語:ヘイス地方語】
【身分:エンテ公国・ブラッドリー子爵家】
【野宿】【土地鑑】
【管理地域:黄昏の森】
称号
【ベリー村の救世主】
【封印の守護者】
名前:ニル
種族:使い魔
性別:オス
LV21
基本スキル
【闇の知恵LV21】【ダークミストLV15】
【看破LV16】【冷たい視線LV14】
【陽動LV5】
ユニークスキル
【森の賢者】【夜行性】
名前:ルシール
種族:使い魔
性別:女性
LV5
基本スキル
【魔術師の知恵LV5】【魔力供給LV5】【憑依LV5】
【幻覚LV5】【アンロックLV5】
【気配察知LV5】【気配遮断LV5】【聞き耳LV5】
ユニークスキル
【言語:デュオ地方語】【言語:テッセラ地方語】
名前:アール
種族:オーク
性別:オス
【生まれ:デュオ地方・東の森】
【経歴:オークとして生まれ育った】
【経歴:クロエの従者になった】
LV18
基本スキル
【データ閲覧不可】
ユニークスキル
【データ閲覧不可】
ルシールのステータスは使い魔仕様。なので人間の時とは違います。




