5・ぼったくりにはご注意を
早朝ですがこの街の住人はもう起きています。プレイヤーにとっては現実が朝ではないのであたりまえですね。NPCも24時間年中無休で営業中。中には時間を設けているNPCもいるそうですが。
そんなダイロードの街に到着して私はさっそく食べ物を売っている所を探します。この街はさっさと出てしまい探索なんてしていません。なのでどこに何があるのか地図で確かめようと思いましたが……なんと地図を確かめずにその場所がわかりました。土地鑑スキルさんありがとう。
「おお……」
たどり着いた市場には人が結構いました。露天が立ち並んだその場所。通り過ぎる人に向けて物を売り込む人。並べられた武器を見て次の装備をどうするか考えている初心者ぽいプレイヤー。
そんな中を歩きつつ、私は食べ物を売る露天を探します。
「この匂いは……」
どこからか香ばしい匂い。そちらのほうへ釣られるようにフラフラと歩けば、肉を串刺しにして焼いてそれを売っている屋台に出会います。
「それ一つください」
思わずそんな言葉を出してしまいます。現実でお昼を食べていて満腹とはいえ、これを見て食べないのは勿体無い!
「……○○○○○?」
屋台のおじさんがすごく驚いた表情をする。……そうでした。私はこちらの言葉を話せないのでした。おじさんの驚き方から言葉以外の理由もありそうですが。
仕方ないので身振り手振りで伝えると、伝わったのかおじさんも身振り手振りで伝えてきます。
すると商店用のトレード画面が出されました。あー買い物はこうするんですね。
一本30G。必要な個数を入力するとお金が払われ、イベントリに肉の串が追加されました。
ん? よく見ると個数が二つです。おかしいですね、一本しか注文してませんが。
ふとおじさんを見てみる。困惑する私の表情を見ておじさんはウインクした。あ、サービスですかこれ!
「ありがとうございます!」
笑顔でお礼を言った。言葉は分からないだろうけど、気持ちは伝わったのかおじさんは笑顔を返してくれる。
その後、市場から出て座れる場所に行きそこでこちらでの昼食をしました。豚の肉に似た味が口いっぱいに広がり、したたる肉汁も最高。
あぁこんな脂ぎった肉、普段の食事にはあまり出ません。久しぶりでとても美味しい。こんな美味しいお肉を食べられるのならさっさとVRゲームを始めておくべきでしたね。
串を二本食べ終わる頃には空腹状態も解除されていました。
……さて、これからの事を考えます。
とりあえず食料は必要ですね。しかし定期的に食料を買い続けるなら収入をどうにかしないといけません。現状、まだクエストは受けられない。言葉が話せませんから。条件が揃わないと取得可能一覧に言語スキルが出てこないのが困りものです。やはり住人と会話をたくさんするべきでしょうか?
となると、物を売りますか。先ほどの狩りで入手したモンスターの毛皮や翼。量はありませんが少しはお金にはなるでしょう。
今の所持金は2970G。普通、初期所持金は1000Gらしいです。貴族にしては安い……と思うのでたぶん経歴効果でしょう。今の所は大丈夫ですが、お金は消費するもの。とりあえず物は試しに売りに行ってみましょう。
そう思ってまたあの市場に来ました。……なんでしょうか。歩くたびに店の人から視線が突き刺さる。先ほど来た時も数回ありましたが、これほど気になるものではありませんでした。
「△△△△!」
私の前に突然人が立ち塞がります。その手には物ですね。初期ポーションのようですがちょっと色が悪い。
「△△△」
その人はそれを押し付けるように差し出し、手で四を表します。
あー押し売りですか。なるほど。さっきの屋台でのやり取りを見ていたのでしょう。私はいいカモになると思ったんですね。先ほどからの店の人からの視線も納得。これは自分の貴族ぽい服装も災いしている事でしょう。貴族だから金払いもいいと……。
とりあえず渡されたポーションを押し返し、要らないと首を振ります。
今回私は買いに来たのではなく、売りに来たのですから。
視線に晒される中、やっとそれらしい店の前にたどり着きました。店主に声をかけ、売り物を出す。言葉が通じなくても、それだけで店主は分かったのか売り物の数を数えて値段をトレード画面に提示してきました。
グレーラビットリーダーの角 150G
グレーラビットの毛皮×4 100G
ナイトバットの翼×2 100G
ナイトバットの牙×2 100G
総額450G
……ここまで来ておいてなんですが、相場が分かりません。事前に調べておくべきでした。うーんこれは高いのでしょうか? さっきの串が30Gでした。これは足元を見られた? いやもしかしておじさんがぼったくっていた? あぁどちらでしょうか……。
トントンと店主が机を叩きます。まるで早くしろというかのように。……仕方ないのでそのままトレード。私の手元に450Gが来ました。
その店を離れて通りを歩いていた時、さきほどの屋台のおじさんとまた出会う。なんだかおじさんがとても微妙そうな顔をしていました。
――その、後で掲示板とかで情報収集した結果。やっぱり安値で買い叩かれたようです。疑ってごめんなさいおじさん。あなたが正しかった。ちなみにグレーラビットリーダーの角は一個250G。もうあの店は使わない。
その後、おじさんになんとか身振り手振りで服屋を教えてもらいました。このおじさんに聞けばいいと私の直感が言ったんです。ええ、もちろんいい服屋でした。そこでフード付きの黒マントを購入。300G。なんでこんなのを買ったって? 今の装備だと色々と面倒そうだと分かったので、隠す意味で購入しました。今の装備が性能いいので替えられない事情がありますし。
あとマントを着るとか魔女っぽいでしょう? 一番の理由はここだとも言えますね。そのうちとんがり帽子を買ってみたいです。
あ、おじさんの店で肉の串焼きを追加購入。今手元に十本もあります。五本もおまけしてもらいました。これは非常食ですからイベントリに入れておきましょう。……しかし今回の収益はこれにてすべて消えましたとさ。