46・プレイヤーとして話しましょう
「クロエ、待っていたよ」
ルシールさんの家を出ると、すでに立ち去っていると思っていたカイルさんがいました。いえ、カイルさんだけではありません。ライトさんと、ツバキさんの姿までありました。
《カイルからパーティ招待を受けました。パーティに入りますか?》
いきなり飛んできたパーティ招待。どういう訳なのか分かりませんがとりあえず入ります。パーティにはライトさん達も入っていたようで、再び四人パーティとなりました。
「皆、呼び止めてすまんな。ちょっと俺から話があったんだ」
パーティチャットで話し出すカイルさん。その喋り方からロールプレイはしていません。
「話というのはエピッククエストの事だ。いちいち聞くことじゃないかもしれないが、気になるから聞く。お前たちは動画を上げるつもりか?」
そういえば前回のエピッククエストは、カイルさんの頼みもあって上げていませんでしたね。
「まさか、また上げるなというのですか?」
「いいや、違う。言い忘れたが俺は上げるつもりだ」
今回は上げるつもりだったんですね。
「私は上げるつもりですね」
私も特に上げても問題はありません。むしろ上げてみたいですね。今回は途中死んでしまったりしてしまいましたけど……。
「……私はもう上げるほうに選択しました」
ツバキさんが小声で言う。今までロールプレイで接していたから、いきなりロールしないで話すのが恥ずかしいといった感じですね。それにしてもツバキさんはすでに選択した後でした。
「……うーん。俺はさっき説明されたばかりだからよく分かんねぇけど上げるかな。だって俺の活躍が載るんだろ?」
活躍はしていましたね。勇者という力ありきな活躍だった気がしますけど。とりあえず喜んでいる様子なのでいいでしょう。
「なら後は金ピカの連中が拒否しなければ上がるわけか……」
そうでした。彼らもまたプレイヤーでした。あの場に居た彼らもまたエピッククエストに参加していた扱いになるのでしょう。確か動画がアップロードされる条件は、登場者による許可が多数の場合です。あちらは八人もいるので、もし全員が拒否した場合は動画は上がりませんね。
「あーこれはふっ飛ばしてしまいましたから無理ですね……」
あんな場面、負けた側からすれば他人に見せたくありませんね……。せっかくの私の活躍が……。
「ふっ飛ばしたって……何したんだよ」
「俺が録画した分ならあるけど見るか? すげーぞ」
「何勝手に録画しているんですか、カイルさん! ……あとでその録画ください」
だってあの私の活躍ですよ。保存しておきたいに決まってます。
「あともう一つ話がある。何かの縁だ、みんなで打ち上げでもしないか?」
「打ち上げ……ですか?」
「もちろんゲーム内でだ。俺らプレイヤー同士か、もしくはカイル達のキャラ同士でもいいし」
なんだか面白そうですね。
「いいですよ、打ち上げしましょうか」
「……私も構いません」
ツバキさんも乗り気なようです。あとはライトさんですが……
「俺もいいけど……その前にだ!」
ライトさんがビシッとツバキさんを指差す。……あぁこれはまさか。
「お前! 俺にまだ謝ってねえだろ! 謝らないと打ち上げには参加させねえぞ!」
「ええっ!?」
やっぱりまだ根に持っていたのですね。ツバキさんは戸惑ったように狼狽えていました。『ツバキ』さんのままだったら、クールにポーカーフェイスだったでしょう。
「おいおい、キャラの事情まで持ってくんな。今はプレイヤー同士の会話中だぞ」
「でも……」
「でもじゃねぇよ。お前もバカじゃなきゃそれくらい分かるだろ?」
グッと言葉に詰まるライトさん。彼も分かってはいるんでしょう。それを抑えられなかったあたり、彼はまだまだ子供な感じがしますね。
確かにライトさんを襲ったのはツバキさんでしょう。ですがそれはキャラとしての『ツバキ』さんの方で、プレイヤーの『ツバキ』さんではありません。
演じたのはツバキさんですが、なんらかの襲った理由があるはずです。彼女はその理由に沿って行動したにすぎません。
「……ううん、ライトくんの言う通りだよ。この前は突然襲ってしまってごめんなさい!」
すると突然、ツバキさんが勢い良く土下座をした。
「ツバキはライトくんを襲うしかなかったとはいえ、本当にごめんなさい! 私もちょっと罪悪感があったんだ。謝りたかったけどツバキだと無理だったし……」
「えっちょっと待って……なんで土下座、いやそれより喋り方というかキャラが全然違うんだけど!?」
それは分かります。それだけ今までのツバキさんのロールプレイが完璧だったというわけですね。
「ごめんね、ライトくん……許してくれる?」
土下座をした頭を少しだけ上げるツバキさん。上目遣いでライトさんを見上げていました。
「わ、分かったから! 許すってば! 許すからもう土下座しなくていいから!!」
さっきまで絶対許さないと言った雰囲気から一転。ライトさんが必死で許すと連呼している。これではどちらが謝っているのか分かりません。それにしてもライトさん、ちょっとチョロすぎではありませんか?
「外見美少女に土下座されたら許しちまうよな。なぁ、そう思うだろ?」
「どうして私に同意を求めるんですか?」
うんうんと頷いていたカイルさんにそう突っ込む。分からなくもありませんが、どうして私に聞いたんですか。
「ライトくん! ありが……とうね……」
「えっちょっとおい!」
土下座をやめて立ち上がろうとしたツバキさんが倒れた。倒れたツバキさんをライトさんが受け止める。
「おい、どうしたんだよ」
「…………すぅ」
肩を揺すってもツバキさんからの反応はない。目を閉じたまま、すうすうと寝息を立てていた。これは見るからに……
「寝落ちしたな」
「みたいですね」
しばらくしてツバキさんの姿が消えた。たぶん寝落ちしたから強制的にログアウトさせられたのでしょう。ツバキさんがログアウトした事によって側にいたハクの姿も消えてしまいました。
「俺の方も零時をもう過ぎているな……どうりで眠いわけだ」
画面端に表示されている時刻でも見ているのか、上を見つつ大きくあくびをするカイルさん。
「打ち上げはまた今度な。俺も寝落ちする前にログアウトするから」
「分かりました、では今日は解散ですね」
パーティが解散され、カイルさんが去っていく。それを見送る私とライトさん。
「さーて俺はレベ上げでも……ってなんだ? げげっ母ちゃんから通知って……うわっもう夕飯の時間!? 悪いけど俺も落ちるわ!」
慌てた様子のライトさんはあいさつもそこそこにログアウトしていきました。
ふと私も時間が気になって時刻を見てみた。どうやら三時間くらい彼らと一緒にプレイしていたみたいですね。私が設定している現実の時刻はいつも寝る時間を表示していました。ツバキさんやカイルさんのように零時過ぎでも、ライトさんのように夕方でもありません。
ちなみにゲームの中は早朝。朝日がとても眩しいです。
「時間感覚が狂いますねぇ……」
彼らとの会話で一つ思い出したことがありました。普段他のプレイヤーと交流が薄いのであまり実感が湧いていませんでしたが、このゲームのサーバーは世界共通サーバーです。技術の進歩って凄いね。




