25・戦いは夜にしましょう
相変わらず森の中に差す光は夕日です。もうすぐ日が暮れるはずなのですが……今この時ばかりは過ぎていく時間が遅く感じてしまいますね。
「アジー、敵の魔法に当たらないように気をつけろよ!」
「分かってる。そういうあんたこそしっかり援護しなさいよね! というか……なんであんたが仕切ってるのよ、リーダーは私でしょう」
エルフの青年に文句を言いつつ、短剣を二刀持った少女がこちらに切り込んできます。発動の速い【ウィンドカッター】を放ちましょう。
「これくらいの攻撃なんて効かないよ!」
攻撃は当たりました。ですが猫耳の少女は走り込んできます。ダメージはさほど受けていないように見えますね。走り込んでくる間に彼女を何かが包み込むエフェクトが見えました。その前にはドワーフの青年が魔法を唱えていたので、何かしら魔法攻撃を軽減する術がかかっていると思われます。
「もらった!」
「それはどうでしょう?」
彼女の刃がこちらに届く前に、もう一度【ウィンドカッター】を発動します。
「そんな攻撃効かないって……なッ!」
パリンッと甲高い音とエフェクトと共に彼女を守っていた何かが消えます。それと共に【ウィンドカッター】が避けることなど考えていなかった彼女に直撃。
「……チッ」
その隙を突いて魔法を詠唱して追撃……としたかったのですが矢が飛んできたので【ウィンドシールド】で防ぎます。弓のエルフを睨んでおきましょう。
「……分かった。アジーを頼んだぞ、ブルーイ」
杖のドワーフがエルフ青年の言葉に頷いている様子が見えました。重要な会話自体はパーティチャットでしているようなので、何を話していたか分からないのが辛いところですね。もっとも聞こえていたとして、果たしてこちらに対抗する手段があるかと言えばないでしょうけど。
「先程からコソコソと内緒話とは……たった一人を相手にそこまでしますか」
こんな状況で勝利も難しい中、何をするかなんて私には一つしかありません。ロールプレイです。杖に力を込めて気を散らさないようにしつつ、彼らに対してロールプレイをしてやりましょうではありませんか。
「自分たちがみっともないと思わないのですか。あぁ……こんなか弱き女性を狙うなんて本当に酷い人達だこと」
ちょっと目を伏せていかにも儚げな少女を演じてみましょうか。
「ううっそんなこと言われるなんて、ちょっと良心が痛んできた……。ねー今回はやめにしない?」
おや、猫耳の少女には効果があったようですね。彼らは盗賊のようですが完全な悪とは言い難いでしょう。盗みは犯罪ですけど。
「アジー、君が襲うって言ったんだよ? 僕忘れてないよ」
「そーだぞ。第一、俺は反対したぞ。こんな森で一人歩いている奴とか……ろくな奴じゃねぇって」
ギロってこちらを睨まないでください。ちょっと怖いではありませんか。……さて時間はもうそろそろ良いでしょうか。
「いや、違うな。あんた一人じゃないだろ」
「……フフッまぁ確かに一人ではありませんね。――ニル!」
その瞬間、ニルが上空から姿を表しました。そしてまた彼らに【ダークミスト】をかけていきます。先程使ったので再使用時間が過ぎなければ再び使えません。なので時間を稼ぐ必要がありました。
「またかよ! おい、ブルーイ!」
「分かってますよ!」
状態異常を治す事はもう分かっています。ですが少し時間が稼げればいいんです。
「上のアイツを落とすのは任せたよ!」
「言われなくても落とすさ!」
風切り音を鳴らせて矢が放たれました。狙いはニル。避けろと言う前にニルに当たったようですね。視界の左側には仲間のステータスが表示されています。そこにあったニルのHPが半分になりました。仕方ありません、ニルは使い魔です。このような攻撃には打たれ弱いのですから。……そのまま弓の彼は任せましたよ。
「ちょっとなんで魔法使ってるのよ!」
上を見ている暇なんてありません。切り込んできた猫耳の少女。彼女の相手をしなければなりませんでした。それにしても彼女は何を言っているのでしょうか。
「魔女なのですから、魔法を使うのは当然でしょう」
魔法を詠唱するとエフェクトが私の体を包んでいます。つまりは相手に魔法を使用しようとしている事がバレてしまうわけです。
「ええい、今すぐ魔法を止めなさい!」
魔法詠唱中はあまり動けません。それに避けようにも彼女の動きが速い。短剣に斬られ、赤いエフェクトが血のように傷口から出ます。残りHPは六割。このまま続けざまに攻撃を受ければ死んで街で目覚めるでしょう。ですが――
「いいえ、止めません!」
せめて一人落とすまでは死にません。
次の攻撃が来る前に私は詠唱を完了させた【ダークバースト】を発動。発動した魔法は私と彼女、さらには後方の二人もギリギリ届く範囲にいたのか巻き込まれて飛んでいきます。
攻撃力はあまり期待していません。まだ夜ではありませんし、彼らは魔法が効きづらくなっています。ニルがいれば先程のように、そういうバフを消し去る【冷たい視線】を使ってくれたでしょう。生憎と落とされてしまったようですね。
この魔法を発動させるためには十秒の詠唱が必要です。つまりは詠唱時間が必要です。少しだけでも彼らの注意を私以外にしておく必要がありました。ニルのお陰ですね。
あぁ、それから猫耳の少女の攻撃で詠唱中断をされなくて良かった。詠唱中に攻撃を受けると詠唱が中断されると聞いたことがあります。少しくらいの攻撃なら防げるそうです。二撃目を受けていたら多分中断されていました。不意打ちの攻撃ならまず無理なのでしょう。
「ちょっと何アレ! びっくりしたー!」
「今のは闇魔法のダークバーストだよ。まだ夜じゃないから威力はそんなに無かったけどじきに夜になる。気をつけたほうがいい」
「アジー、とりあえず下がれ。ブルーイ、回復を頼む。オレは獲物を探す!」
遠くから彼らの声が聞こえてきます。飛ばされた私はそのまま草むらの陰に隠れています。ですがこのまま隠れはしません。姿が見えるようにしつつ、この場を移動しましょう。
「見つけた! 追うんだ、アジー!」
「だからなんであんたが指示を出すんだー! リーダーは私だー!」
リーダーはあなたでしょう。でも真のリーダーは彼でしょうね。そんなリーダーちゃんを引き連れつつ私は移動しましょう。
その途中でポーションを使って回復……あぁ少しだけ思いついたことがあったので、再使用時間後にもう一つおいしい方のポーションを使用しておきました。備えあれば憂いなしですからね。




